第7話 轟く雷鳴 その2

文字数 3,617文字

 まず、[メガロペント]が飛んだ。風よりも速いその動きで、紫電の後ろをすんなりと捉えた。

「キジュアアア」

 口から光線が放たれる。避ける余裕はない。ではどうするか。

「うおおお!」

 電霊放の周波数を変化させ、光線に干渉する。ただし相手は火の類ではないので消すことはできない。鏡で反射するように向きを折り曲げることは可能だ。ここで[メガロペント]は考える。顎で挟んだままなら、電霊放は使えないのではないか、と。だから一度光線をやめて紫電に近づいた。

「来たな? 待ってたぜ!」

 迫りくる大顎。対する紫電はロッドを帯電させて振り下ろす。顎とロッドが交差し、激しい火花が散る。

「キッキャアアアアアア!」

 負けたのは[メガロペント]の方だ。片方の顎が根元からポッキリと折れ、電霊放の電流が傷口に流れている。痛みに耐え切れず、ガムシャラに空へ羽ばたいた。

「あれは後で相手してもいいな。まずはお前! 鋏角竜の方だ!」

 同じ電撃仲間を最初に倒そうと紫電は考えた。理由は相手に閃きを与えたくなかったから。もし紫電の行動を見て、真似できることや新しくできそうなことを発見されたら非常に厄介だ。だからダウジングロッドを[マグナルオン]に再度向ける。

「フュウウウウウ…!」

 これを見た[デストルア]が黙っていない。強靭なハサミを振り回し、紫電のことを握り潰そうとする。

「危ないヤツだ。だがすぐに黙らせてやる!」

 電霊放の火力を上げ、一気に撃ち出す。まずはハサミを狙って使えなくさせる。放たれた稲妻は確かに[デストルア]の腕に命中した。だがここで[デストルア]はチカラを使い、電霊放の衝撃が全身に回る前に分裂したのだ。

「お、お…。こりゃあ面倒だ…。分裂して、一匹だけ犠牲にして難を逃れやがった!」

 小さい[デストルア]は息を吐きながら飛ぶ。何でも破壊する悪魔の吐息だ。本能で危険を察知した紫電は避け、さらにこの息にさらされた木々や車がバラバラに砕け散るのを見て、

「口をどうにかしないといけないな。あの息はヤバい。甲殻竜を先に倒すか……」

 ターゲットを[デストルア]に変更。ちょこまかと動く[デストルア]の分裂体を狙っていると横から電気が飛んで来る。

「クソ! お前の相手は今できねえんだよ! 引っ込んでてくれねえのか!」

[マグナルオン]だ。仲間の危機を見て放電したのである。

(ちょっと冷静になれ、俺……。先に倒すべきはどっちだ?)

 少し考えた。でもやはり、[デストルア]を優先するべきと決断した。それをするためにも、[マグナルオン]をしばらく黙らせておく必要がある。ので、

「くらえ……電霊放!」

 放電する。負けじと[マグナルオン]も尻尾から電気を射出。激しい撃ち合いだ。

「つ、強い! 式神のエネルギー源は枯渇しないのか?」

 だが、紫電の方が押し負けている。ダウジングロッドの電池がもう切れかかっているのだ。対する[マグナルオン]はそんな様子が一切ない。

「うぎゃああああ!」

 負けた紫電の体に電撃が直撃。そして彼はその場に倒れた。

「フウウウ…」

 それを見て[デストルア]は集合し、元の体に戻る。
 が、紫電の腕が動き出した。その動きに[デストルア]は気づかない。そして電霊放が放たれ、[デストルア]の体を貫いた。

「フャウオアアアアア!」

 突然の攻撃に反応できず、体が頃焦げになる。

「死んだとでも思ったのかよ? 危ない危ない、保険を持って来ておいて良かったぜ…!」

 そう言いながら立ち上がる紫電。彼はポケットから電池を取り出していた。普通の電池ではない。充電式のタイプだ。つまり彼は、[マグナルオン]の放電が直撃したと見せかけて実はその電気を全て充電に回していたのだ。

「さあてここからだぜ」

 ロッドの電池を取り換える。今の一撃で十分に貯まった。それを[デストルア]に向けて撃つ。

「フィファアアアアア!」

[デストルア]も破壊する息を吹いた。この息は電気でどうにかできるものではないので、紫電は動いてかわす。動きながら何度も電霊放を撃ち込む。その全てが[デストルア]に命中する。

「これでもくたばらないのか、頑丈だな……!」

 体は焦げるのだが、破壊まで至らないのだ。

(内部に電霊放を撃つ必要がありそうだぜ…)

 そうすれば、流石に砕け散るだろう。問題はどうやってそれをするか、だ。

「っつ!」

 突如、背中に痛みが走る。

「何……だ? 今の、は…?」

 それは、[マグナルオン]の尻尾だった。その一刺しには第二のチカラ……すなわち毒が含まれている。運動神経を鈍らせる作用があるらしく、紫電は両腕に力を入れられず、腕はブランと垂れ下がってしまった。

「し、しまっ……!」

 その状態で、腕を巻き込むように[マグナルオン]が紫電の体をハサミで掴んだ。[デストルア]とはタイプが違い、掴むことに特化しているハサミだ。

「ジジジ、ジビジビ……!」

 この状態では、ろくな抵抗ができない。だから[マグナルオン]は勝ち誇ったように、しかも紫電への当てつけか、電気を貯め込み始める。

「なあ、式神……よ? 一つ、聞き…たいんだが?」

 喋る余裕はまだある、首から上には毒がまだ回ってないのだ。言うなれば[マグナルオン]の毒は、胴体の自由を奪うもの。感覚神経は健在なので、痛みは味わうことになる。そして顔は動かせるので、断末魔の叫び声を上げることはできる。

「虫歯に、なったこと、あるか? 痛えよ、アレは? 俺も昔は馬鹿みたいにチョコレート食いまくって歯磨きもしなかったからよ、上下の永久歯の奥歯が、一本ずつ……」

 銀歯になっている、とまでは喋れなかった。何故なら[マグナルオン]がトドメの一撃を撃ち込んだからだ。

「馬鹿め!」

 逆に紫電は己の勝利を確信する。

「ジ?」

 体に撃ち込まれた電流が、全て彼の口の中に集まる。

「電霊放はな、札を使わない霊障だ。指から撃てるヤツもいるらしいが、大抵の場合は金属を持ってそこから撃つんだ。使うのは静電気だったり、電池から供給したり様々だが、お前の電気も利用できるぜ?」

 口をパカッと開いた。奥歯が帯電している。上と下の歯の間が、電気で光っている。

「これをくらってあの世から出直してきな!」

 その奥歯から、紫電は電霊放を撃った。

「ジギイイイゥ!」

 その一閃の稲妻は、[マグナルオン]の頭を撃ち抜いた。力を失ったのか、ハサミが緩み紫電が抜け出る。その時、地面に着地できた。足が腕が、思い通りに動く。

「終わったか、まずは一体!」

 顔を上げると、火花をまき散らしながら崩れ落ちる[マグナルオン]の姿が。夜風がその身を揺さぶると、塵となって消えた。

「だからチカラも消えて、体が自由に動かせるってわけか!」

 これでやっと[デストルア]の相手ができる。問題はどうやって体内に電霊放を叩き込むか、だ。

「しかし策はもうあるんだぜ? 甲殻野郎!」

 上空を旋回する[メガロペント]の動きにも注意を配る。大丈夫、こちらにはまだ奇襲を仕掛けて来ない。じっくりと様子を伺っている。そして高度が高すぎるので、電霊放でも正確に狙えなさそうだ。

「フオアアアアアアア!」

[デストルア]が叫んだ。そして空気を思いっ切り吸って、破壊の息に備えているのだ。

「負傷は覚悟の上だぜ。傷つくことを恐れていては、いつまで経っても前には進めない! そして足踏みを続けるのは、負けることと同じだ。だが! 俺は負けない!」

 逃げない。逆に[デストルア]の口元に向かって進む。

「フシャアアア!」

 破壊の息が放たれた。それを見て紫電は、

「電霊放!」

 片腕を地面に向け、撃った。反動で体が持ち上がり、息を避ける。もう片方の腕は空に向け、撃ち込む。

「フリイイイッ!」

 空振りをしたと思った[デストルア]。事実紫電が上に撃った電霊放は、何にも当たらず天高く登っていくだけだ。ハサミを持ち上げて紫電の体を握り潰そうとする。

(流石に一瞬でもあれに挟まれるのはヤバいぜ! 一瞬で体が真っ二つだ! だがな!)

 迫りくるハサミ。その時、雷が落ちた。

「………フニッ?」

 雷は[デストルア]のハサミに命中し、それを打ち砕いた。あまりにも突然の出来事だったために、分裂も間に合わなかった。

「さっき俺が上に向けて撃ったのは、これが狙いだ!」

 電霊放は空振りなどしていなかった。上空の雲に命中していたのである。

「雲に電霊放を与えて、貯め込んでいる電気を一気に吐き出させた! 俺の方しか見てなかったお前は、避けることが叶わなかったってわけだ!」

 そして両腕のハサミが砕けた[デストルア]のその傷口を紫電は見逃さない。

「そこだ! くらえ、電霊放!」

 ダウジングロッドの先端をそこに押し付け、直に電気を流す。

「フジュワアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 断末魔の叫び声だ。流し込まれる電気に耐え切れなくなった[デストルア]のからだは、次の瞬間に爆ぜた。
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