第7話 稲光の理 その2

文字数 2,567文字

「ようし、終わった………」

 だが気絶した秀一郎の体が地面に崩れ落ちる寸前、紫電は見慣れないものを見た。

「何だ、あれ?」

 それは提灯だった。提灯が一つ、秀一郎の体から零れ落ちた。それは倒れこむ彼の体に押し潰されてすぐに壊れてしまう。

「ガウウウウウウウ!」

 その直後に、トリケラトプス型の幽霊がその場に出現した。これは業申(ごうしん)という幽霊だ。

「隠し玉を持ってやがったか!」
「幽霊だね、紫電……。除霊、するよね?」

 様子を伺うまでもない。秀一郎が負けると同時に放った、悪足搔き。

「当たり前だ!」

 紫電は闘志を見せて返事をした。


 幽霊は、生物にはない特徴を持つことがある。黒い息を吐ける業戒、霊障が効かない業剣と業脱、温度を操ってみせた業聖と業酷。
 秀一郎が呼び出した業申にももちろん、何かがある。業申は三本ある立派な角を紫電と雪女に向けると、それをミサイルのように発射した。

「わおっ!」

 あまりにも予想外の動きに驚く紫電。しかも地面に着弾すれば、爆発する。

「マジでミサイルか? しかももうリロードまで済ませてやがるぜ!」

 新しい角が、もう準備されている。また撃ち出される前に紫電が電霊放を撃ち込んだ。

「どうだ!」
「ギウウ!」

 動きは鈍い。しかし同時に、かなり防御力がある。雪女も雪の氷柱を投げたが、突き刺さらない。

「まるで重戦車だね。あの角が主砲かな?」
「でも倒せないわけはないはず!」

 電霊放と雪の氷柱を何度か、業申に叩き込んだ。だが後ろに下がるどころか怯むことすら、業申はしないのだ。

「ガウウウウオオオオ!」

 角を連射。ズドン、ズドンと撃ちまくる業申。

「くっ!」

 逃げるのには限界がある。角は本物のミサイルのように、若干だが追尾してくるためだ。

「任せて」

 咄嗟に雪女が前に出て、雪の結晶を生み出し防御した。角は雪の結晶に当たると爆発し、粉々に砕いた。

「助かったぜ雪女! でも、連発されるとヤバそうだ……」
「大丈夫。こっちも角の数だけ雪の結晶を作って守れば……」

 防げるには防げる。しかしジリ貧になるだろう。そう直感した紫電は、

「こっちから攻めるぞ! あの幽霊を除霊するんだ! 角のミサイルを頭で爆破させれば、大きなダメージを与えられるかもしれない」

 雪の結晶から横に出て、ダウジングロッドを構えた。狙うは発射される前の角。紫電の狙いは正確で、目論見通り発射される前に角に電霊放当て、爆発させることができた。

「ガギイイイイイ!」

 だが、全然聞いていない。

「あの、ネックフリルとホーンレットが邪魔だ! 爆風がアイツに届いてねえんだ…!」
「戻って、紫電」

 間髪入れずに業申は角を発射した。

「ぐおおおお!」

 避けるのが遅れ、紫電の足元に着弾。爆風で吹っ飛ぶ彼の体」

「紫電………」

 幸いにも、生垣に落ちたので負傷はしなかった。

「骨が折れるぜ……! こんな置き土産を残しやがって、秀一郎!」

 すぐに雪女の側に戻る紫電。

「さて、どうするか!」

 がむしゃらに戦っても意味はなさそうなので、作戦を練らなければならない。

(方程式を書け、俺! アイツを除霊し勝利する、戦いの方程式! そしてそれを解くんだ!)

 力を集中させれば、重戦車並みの重装甲でも貫けるかもしれない。

(だが……)

 しかしそれをするには、越えなければいけないハードルが二つ。
 一つは、紫電だけの霊力だけでは足りないということ。こっちは雪女に協力してもらえれば、何とかなる気はする。
 だがもう一方の壁は高く厚い。電霊放を集束させなければいけないのである。紫電は電霊放を集束させたことがない。拡散電霊放は使えないが、かといって消去法で集束電霊放を扱えるわけでもない。

(今までは集束でも拡散でもない、普通の電霊放しか撃って来なかったからな……)

 彼の命中率を考えるに、拡散させる必要がまずない。そして連射できるので、集束させる必要もなかった。

「紫電、何かできることはある?」

 しかめっ面をしていたら、雪女に尋ねられた。

「雪女! お前の力……霊力を貸してくれるか?」
「できるの、そんなこと?」
「ああ。俺の体に手を! それから第六感を解放すれば誰にでもできる! アイツを倒すには、電霊放を集束させねえといけねえ! でも俺一人の力じゃ足りている気がしねえんだ」
「わかった」

 彼女はすぐに快諾してくれた。

「よし、行くぞ!」
「うん。いつでもオーケー」

 紫電の肩に雪女が手を置いた。彼女の霊力が、彼に流れ込む。

(行ける!)

 そう確信した紫電は、雪の結晶の壁から出た。

「ぬおおおおお! くらええ!」

 両手でダウジングロッドを構え、その二本の電極の間を帯電させ、集束電霊放を撃つ。いつもの電霊放とは違い、反動が結構大きいし、電霊放自体が鉛筆並みに細い。でもその分密度が高いのだ。

「ガガッ?」

 その細く密度の大きい集束電霊放が、業申に迫る。動きが鈍い業申には、避ける選択が取れない。

「ガア!」

 ここは、ネックフリルで防御することを選んだ。

(それが、俺の思惑通りだぜ!)

 電霊放が、業申の頭部……ネックフリルに炸裂。一撃でそれを貫通し、ヒビを入れた。そしてあの硬いネックフリルを、ホーンレットごと砕いたのだ。

「い、行けたぜ……!」

 力を使い過ぎて立っていられず、膝が崩れる紫電。その後ろにいた雪女は、自分がやるべきことを理解し、

「トドメは私が……」

 雪の氷柱を生み出し、業申の角目掛けて投げた。

「ギギ?」

 角に氷柱が突き刺さると、直後に爆発する。今の業申には、爆風から身を守ってくれる盾がない。爆風にもろに曝される業申。

「どう?」
「………」

 煙が晴れると、そこには業申の姿がまだあった。

「だ、駄目だったの……?」
「いいやよく見ろ雪女! どううやら勝負あったらしいぞ!」
「えっ?」

 あるのは胴体だけだ。首から先は、爆発のせいで完全に消滅している。すぐに四本の足が崩れて胴体が地面に落ち、風が吹くと散り散りになって消えた。

「紫電、今のが、集束電霊放なの?」
「ああ、そうだぜ! 命中率よりも威力重視の電霊放だが、俺にかかれば必ず当たる!」

 ぶっつけ本番でできたことに、紫電自身が一番驚いている。

「まあ…除霊完了だ、ふう……!」

 業申に勝利した二人。すぐさま気絶している秀一郎のことを捕まえて、彼が目を覚ます前に孤児院に向かった。
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