第4話 補充要員 その1
文字数 3,953文字
修練が青森に向かう可能性が浮上した際、【神代】は守りを固めるべく、霊能力者を派遣することにした。もちろん確定事項ではないために、本命の腕のいい霊能力者は手放さず、手頃な霊能力者が青森にやって来る。
「ここが青森なのね! 初めて来たわ!」
廿楽 絵美 はそう言いながら新青森駅から出た。
「凍てつく風は、奥羽山脈の北端に吹き荒れる。四月の風は雪を運ばない。けれども現地の天は確かな寒さを生み出す――」
この地方の寒さを肌で感じた神威 刹那 はそう呟いた。
今回派遣されたのは、彼女らだけである。
「ったく、【神代】も横暴よね。修練が来るかもしれないってのに、私と刹那だけよ? まあそれでも十分だけどさ、もっと大盤振る舞いしてもいいじゃないのよ!」
「大いなる力を抱く者は、手下と犠牲者を分けて考えない。その考えは歪みを生み出し、解答すらもズレる。正しき意見は、時の権力者によって闇に運ばれる――」
だが彼女らは、知らない人物と組まされなかったことに安心した。自分たちのテンポを保つことができるからである。
「じゃ、まずは探すわよ? ええっと霊能力者ネットワークに住所は……ない! はあ? じゃあどうやって探せって?」
まずは深い事情を探ろうと、絵美は緑祁らの話を聞くために彼らと合流することを考えていたのだが、肝心の緑祁の現住所は空欄だ。連絡先すら掲載されていないのである。
「はあ、困るわね。時々いるのよ、こういう音信不通上等のヤツ! 全く、いい迷惑だわ!」
「これは、神の意見でもある。天が我らを試しているのだ、最大の敵を、二人だけで突破してみよ、と。自然の摂理を生み出す神には、いかなる存在も逆らえぬ――」
最悪の場合、というか彼女らは最初から、自分たちだけで修練を撃破し確保することを考えている。
「しょうがないわ。刹那、今日はもうホテルで休むわよ! 移動で疲れたし、そこで今後のことを考えましょう。それに、予約したホテルの温泉は格別よ?」
「疲れを癒す薬は、母なる大地の底から湧き出る温かき水である。それが我らの魂まで清めてくれるであろう――」
二人はホテルに向かった。
「あら、おはよう」
香恵はロフトベッドの上で目を覚ました。その上から床を見た時、あくびをしている緑祁と目が合ったのである。
「眠いよ…。今日は午後に一つしか講義がないから、その時間まで寝させてくれない…?」
彼が寝不足な理由は二つ。まずは普段ベッドの上で寝ているのだが、そこを香恵に譲ったためにカーペットの上で横になるしかなかったのだ。それに加えて、女性どころか友達すら家に呼んで止めたことがなく、相手が香恵であることもあって緊張してしまったのだ。
「……冷蔵庫には、朝ご飯にできそうなものがないわね。コンビニで買ってくるわ」
「場所、わかるの? それにカギは? このワンルームマンションはオートロックだよ…」
当然、緑祁がついて行くことになった。緑祁は朝ご飯はおにぎりかパンで済まそうとしたが、香恵がそうさせなかった。食材を買い揃えて部屋に戻り、小さいキッチンで料理する。玉子焼きとベーコンサラダのみと簡素だが栄養のあるご飯をふるまった。
「どう? 美味しいでしょう?」
「うん!」
流石に眠気を吹っ飛ばすまでとはいかないものの、普段市販の弁当や学食で食事を済ませてしまう緑祁の舌には結構刺さった。
「じゃあ、今日の講義は四限の二時四十分からだから、それまで寝るよ」
「いいわ。私はこの部屋の掃除でもしましょう。それで駄賃代わりにはなりそうね」
ベッドに上がって横になると、勝手に瞼が閉じる。掃除機の音すら、邪魔にならない程度には緑祁は眠いのだ。
「あ、あの……。香恵?」
時間になったので緑祁は起き、大学に行く準備をした。が、何と香恵もついて行くと言い出したのだ。
「一人で待っていても暇だわ」
「それはそうだけど……。部外者が講義室に入っていいのかな?」
それ以前に香恵と一緒にいたら、周りから何を言われるか。
「え? 永露、彼女いたんだ? 学部はどこ? 何学科?」
当然、そんなことを同級生に言われた。
「あんな子、大学で見たことないぞ? あれほどの美人だったら、俺の脳内データにあるはずなんだが…」
それらの質問に対し緑祁は、
「へ、編入を希望している友人だよ。別大学に在籍してるんだ」
と言って誤魔化し、一講義分…一時間半を乗り切ってすぐに家に戻った。
「中々面白い学問ね。植物化学も悪くないわ」
内容を理解できたのか、香恵はそんな感想を呟いた。一方隣にいる緑祁は、
「ふ、ふう……」
と安堵のため息を吐いた。
「ていうか香恵は大学、どうしてるの?」
「知りたい? ……秘密よ」
そして、そんなことよりも大事なことがあるという。
「今日、【神代】から霊能力者が派遣されたわ。もちろん修練を捉えるためよ。でも二人」
「ふ、二人? 【神代】の裏切り者がやって来るって言うのに、二人?」
緑祁と香恵を合わせても四人。片手で数えられてしまう。
「あの蒼の言葉が嘘かもしれない以上は仕方ないわ。私たちだけでどうにかしましょう。それよりも、その二人と合流するわよ」
この時、時刻は八時半。こんな夜から行動するというのだ。
「新青森駅から十数分離れたホテルにいるらしいわ。今連絡を取るから、待ってて」
そう言ってスマートフォンと数分間睨めっこをする香恵。
「緑祁、合浦公園ってわかる?」
「確か、海に面しているところだよ。そこがどうかした?」
「何でも、派遣された二人がそこに来い、って言うのよ」
「今から?」
時計を見て、緑祁は言った。
「タクシー拾えば大丈夫でしょう? 運賃ぐらいは私が負担するわ」
「……わかったよ。でも、何の用事があるんだろうね…」
「それは行ってみないと」
二人は家を出てタクシーを拾うと、その公園に向かった。
「まさか、向こうからコンタクトを取ってくれるとは思ってなかったわ」
待ち合わせ場所をホテル近くの公園に指定したのは、もちろん絵美たちの仕業だ。ただ合流して情報交換するだけでは面白くないと判断したのだ。
「そうよね、刹那?」
「火花を散らすことは、霊能力者にのみ許された特権だ。我ら霊能力者は強い者が、常に正義。滅ぼされる方が悪なのである――」
そして相手の実力を試す。もし緑祁たちが弱かったら、協力するのは足手まといでしかないのでなし、だ。それを確かめてみるには、実際に一戦交えた方が手短で済む。
「どうやら来たわよ」
男と女が二人、夜の公園にやって来た。一方は連絡を取り合った、香恵。もう一方は住所不明の緑祁。
「そちらたちが、廿楽絵美と神威刹那ね?」
「ええ、間違いないわ!」
「よろしく。僕は緑祁。彼女は香恵だよ」
「未開の地での関係者との遭遇は奇跡に近い。故にこの出会いには、喜びを隠せない我らがいる――」
自己紹介を済ませると、絵美は緑祁と香恵に、事情を聞いた。
「私たちも実は困惑しているの。どうして修練の手下が青森にいたのか……? 【神代】に歯向かうなら、本部のある東京が一番早いはず。でも、峻の事件も岐阜だったし、蒼もこの地にいたわ…」
どうしてこの青森が選ばれたのかは、実際に修練を捕まえて聞いてみないとわからないだろう。だが蒼の言葉が本当なら、この地にやって来るはず。
「二人とも、協力してくれるのよね」
「…?」
香恵の言葉に首を傾げる絵美。
「な、何よ…?」
「でもさ、初めて知り合った人と一緒に行動するのって、良くないわよね? ナンパじゃんないんだし、考えものだわ」
「はい…?」
緑祁が聞き返すと、
「見知らぬ者は雑魚か猛者か。これがわからぬのなら、確かめるのみ。我らは強い者を求めている。弱者は自ら消え去るべきである――」
刹那が答えた。
「つまり、こういうこと? 緑祁が弱いなら協力しない、って意味ね」
瞬時に理解し返答する香恵。絵美も刹那も頷いて答える。
「ま、待ってよ! 僕らが戦うなんて、無益じゃないかな?」
たまらず緑祁が言った。今、【神代】が率いる霊能力者が最も優先すべきことは、修練を捕まえることだ。それ以外のことは事件が収束したら行えばよい。これは屁理屈ではなく正論。味方同士で争う意味はないのだ。
「その言葉は、自信なき故に口から出て来たものか? 月夜は言う、その力を発揮できぬ者はいらん、と。もしも言葉に力を与えたいのなら、我を突破して見せよ――」
だが、そんな意見を聞き入れる耳を二人とも持ってない。
「ズルいわよ、刹那? あなたが出る気ね?」
「青き森の源泉は、長旅の疲労を癒すとともに我らに力を与えた。今、その有り余る力を使いたい。これは力を宿す者の当然の欲求であり、そして我らが試練を前にすべき準備運動なのだ――」
刹那は公園の奥に移動した。遊具の近くだ。この広場に立ち、緑祁が来るのを待った。
「仕方ないわ。緑祁、お願い」
「わかったよ」
文句を言わず了解する緑祁。異議を唱えたところで採用されないだろうから、という考えもあるが、
(【神代】が派遣してきた霊能力者の実力を、知りたい。大体どの程度なんだろう? そして僕の力はどこまで通用するんだろう?)
霊能力者として活動を怠っていた緑祁には、自分の力にあまり自信がない。だからこの一戦を勝利し、修練の襲撃に備えたいのだ。
「勝負は、そうね……。ルールを決めないとただの喧嘩になりそうだわ! こうするわよ!」
絵美はカバンから鳥の羽根を二本取り出し、一本を緑祁の肩に刺した。
「これは…?」
もう一本は刹那の肩に生やす。
「簡単にして簡潔! 相手の羽根を取った方の、勝ち! 手段は問わないわ! ただし、命を奪うのだけは違反!」
話が速い。だから緑祁もすぐにルールを理解した。
「では、どうぞ!」
「頑張って、緑祁…!」
「ここが青森なのね! 初めて来たわ!」
「凍てつく風は、奥羽山脈の北端に吹き荒れる。四月の風は雪を運ばない。けれども現地の天は確かな寒さを生み出す――」
この地方の寒さを肌で感じた
今回派遣されたのは、彼女らだけである。
「ったく、【神代】も横暴よね。修練が来るかもしれないってのに、私と刹那だけよ? まあそれでも十分だけどさ、もっと大盤振る舞いしてもいいじゃないのよ!」
「大いなる力を抱く者は、手下と犠牲者を分けて考えない。その考えは歪みを生み出し、解答すらもズレる。正しき意見は、時の権力者によって闇に運ばれる――」
だが彼女らは、知らない人物と組まされなかったことに安心した。自分たちのテンポを保つことができるからである。
「じゃ、まずは探すわよ? ええっと霊能力者ネットワークに住所は……ない! はあ? じゃあどうやって探せって?」
まずは深い事情を探ろうと、絵美は緑祁らの話を聞くために彼らと合流することを考えていたのだが、肝心の緑祁の現住所は空欄だ。連絡先すら掲載されていないのである。
「はあ、困るわね。時々いるのよ、こういう音信不通上等のヤツ! 全く、いい迷惑だわ!」
「これは、神の意見でもある。天が我らを試しているのだ、最大の敵を、二人だけで突破してみよ、と。自然の摂理を生み出す神には、いかなる存在も逆らえぬ――」
最悪の場合、というか彼女らは最初から、自分たちだけで修練を撃破し確保することを考えている。
「しょうがないわ。刹那、今日はもうホテルで休むわよ! 移動で疲れたし、そこで今後のことを考えましょう。それに、予約したホテルの温泉は格別よ?」
「疲れを癒す薬は、母なる大地の底から湧き出る温かき水である。それが我らの魂まで清めてくれるであろう――」
二人はホテルに向かった。
「あら、おはよう」
香恵はロフトベッドの上で目を覚ました。その上から床を見た時、あくびをしている緑祁と目が合ったのである。
「眠いよ…。今日は午後に一つしか講義がないから、その時間まで寝させてくれない…?」
彼が寝不足な理由は二つ。まずは普段ベッドの上で寝ているのだが、そこを香恵に譲ったためにカーペットの上で横になるしかなかったのだ。それに加えて、女性どころか友達すら家に呼んで止めたことがなく、相手が香恵であることもあって緊張してしまったのだ。
「……冷蔵庫には、朝ご飯にできそうなものがないわね。コンビニで買ってくるわ」
「場所、わかるの? それにカギは? このワンルームマンションはオートロックだよ…」
当然、緑祁がついて行くことになった。緑祁は朝ご飯はおにぎりかパンで済まそうとしたが、香恵がそうさせなかった。食材を買い揃えて部屋に戻り、小さいキッチンで料理する。玉子焼きとベーコンサラダのみと簡素だが栄養のあるご飯をふるまった。
「どう? 美味しいでしょう?」
「うん!」
流石に眠気を吹っ飛ばすまでとはいかないものの、普段市販の弁当や学食で食事を済ませてしまう緑祁の舌には結構刺さった。
「じゃあ、今日の講義は四限の二時四十分からだから、それまで寝るよ」
「いいわ。私はこの部屋の掃除でもしましょう。それで駄賃代わりにはなりそうね」
ベッドに上がって横になると、勝手に瞼が閉じる。掃除機の音すら、邪魔にならない程度には緑祁は眠いのだ。
「あ、あの……。香恵?」
時間になったので緑祁は起き、大学に行く準備をした。が、何と香恵もついて行くと言い出したのだ。
「一人で待っていても暇だわ」
「それはそうだけど……。部外者が講義室に入っていいのかな?」
それ以前に香恵と一緒にいたら、周りから何を言われるか。
「え? 永露、彼女いたんだ? 学部はどこ? 何学科?」
当然、そんなことを同級生に言われた。
「あんな子、大学で見たことないぞ? あれほどの美人だったら、俺の脳内データにあるはずなんだが…」
それらの質問に対し緑祁は、
「へ、編入を希望している友人だよ。別大学に在籍してるんだ」
と言って誤魔化し、一講義分…一時間半を乗り切ってすぐに家に戻った。
「中々面白い学問ね。植物化学も悪くないわ」
内容を理解できたのか、香恵はそんな感想を呟いた。一方隣にいる緑祁は、
「ふ、ふう……」
と安堵のため息を吐いた。
「ていうか香恵は大学、どうしてるの?」
「知りたい? ……秘密よ」
そして、そんなことよりも大事なことがあるという。
「今日、【神代】から霊能力者が派遣されたわ。もちろん修練を捉えるためよ。でも二人」
「ふ、二人? 【神代】の裏切り者がやって来るって言うのに、二人?」
緑祁と香恵を合わせても四人。片手で数えられてしまう。
「あの蒼の言葉が嘘かもしれない以上は仕方ないわ。私たちだけでどうにかしましょう。それよりも、その二人と合流するわよ」
この時、時刻は八時半。こんな夜から行動するというのだ。
「新青森駅から十数分離れたホテルにいるらしいわ。今連絡を取るから、待ってて」
そう言ってスマートフォンと数分間睨めっこをする香恵。
「緑祁、合浦公園ってわかる?」
「確か、海に面しているところだよ。そこがどうかした?」
「何でも、派遣された二人がそこに来い、って言うのよ」
「今から?」
時計を見て、緑祁は言った。
「タクシー拾えば大丈夫でしょう? 運賃ぐらいは私が負担するわ」
「……わかったよ。でも、何の用事があるんだろうね…」
「それは行ってみないと」
二人は家を出てタクシーを拾うと、その公園に向かった。
「まさか、向こうからコンタクトを取ってくれるとは思ってなかったわ」
待ち合わせ場所をホテル近くの公園に指定したのは、もちろん絵美たちの仕業だ。ただ合流して情報交換するだけでは面白くないと判断したのだ。
「そうよね、刹那?」
「火花を散らすことは、霊能力者にのみ許された特権だ。我ら霊能力者は強い者が、常に正義。滅ぼされる方が悪なのである――」
そして相手の実力を試す。もし緑祁たちが弱かったら、協力するのは足手まといでしかないのでなし、だ。それを確かめてみるには、実際に一戦交えた方が手短で済む。
「どうやら来たわよ」
男と女が二人、夜の公園にやって来た。一方は連絡を取り合った、香恵。もう一方は住所不明の緑祁。
「そちらたちが、廿楽絵美と神威刹那ね?」
「ええ、間違いないわ!」
「よろしく。僕は緑祁。彼女は香恵だよ」
「未開の地での関係者との遭遇は奇跡に近い。故にこの出会いには、喜びを隠せない我らがいる――」
自己紹介を済ませると、絵美は緑祁と香恵に、事情を聞いた。
「私たちも実は困惑しているの。どうして修練の手下が青森にいたのか……? 【神代】に歯向かうなら、本部のある東京が一番早いはず。でも、峻の事件も岐阜だったし、蒼もこの地にいたわ…」
どうしてこの青森が選ばれたのかは、実際に修練を捕まえて聞いてみないとわからないだろう。だが蒼の言葉が本当なら、この地にやって来るはず。
「二人とも、協力してくれるのよね」
「…?」
香恵の言葉に首を傾げる絵美。
「な、何よ…?」
「でもさ、初めて知り合った人と一緒に行動するのって、良くないわよね? ナンパじゃんないんだし、考えものだわ」
「はい…?」
緑祁が聞き返すと、
「見知らぬ者は雑魚か猛者か。これがわからぬのなら、確かめるのみ。我らは強い者を求めている。弱者は自ら消え去るべきである――」
刹那が答えた。
「つまり、こういうこと? 緑祁が弱いなら協力しない、って意味ね」
瞬時に理解し返答する香恵。絵美も刹那も頷いて答える。
「ま、待ってよ! 僕らが戦うなんて、無益じゃないかな?」
たまらず緑祁が言った。今、【神代】が率いる霊能力者が最も優先すべきことは、修練を捕まえることだ。それ以外のことは事件が収束したら行えばよい。これは屁理屈ではなく正論。味方同士で争う意味はないのだ。
「その言葉は、自信なき故に口から出て来たものか? 月夜は言う、その力を発揮できぬ者はいらん、と。もしも言葉に力を与えたいのなら、我を突破して見せよ――」
だが、そんな意見を聞き入れる耳を二人とも持ってない。
「ズルいわよ、刹那? あなたが出る気ね?」
「青き森の源泉は、長旅の疲労を癒すとともに我らに力を与えた。今、その有り余る力を使いたい。これは力を宿す者の当然の欲求であり、そして我らが試練を前にすべき準備運動なのだ――」
刹那は公園の奥に移動した。遊具の近くだ。この広場に立ち、緑祁が来るのを待った。
「仕方ないわ。緑祁、お願い」
「わかったよ」
文句を言わず了解する緑祁。異議を唱えたところで採用されないだろうから、という考えもあるが、
(【神代】が派遣してきた霊能力者の実力を、知りたい。大体どの程度なんだろう? そして僕の力はどこまで通用するんだろう?)
霊能力者として活動を怠っていた緑祁には、自分の力にあまり自信がない。だからこの一戦を勝利し、修練の襲撃に備えたいのだ。
「勝負は、そうね……。ルールを決めないとただの喧嘩になりそうだわ! こうするわよ!」
絵美はカバンから鳥の羽根を二本取り出し、一本を緑祁の肩に刺した。
「これは…?」
もう一本は刹那の肩に生やす。
「簡単にして簡潔! 相手の羽根を取った方の、勝ち! 手段は問わないわ! ただし、命を奪うのだけは違反!」
話が速い。だから緑祁もすぐにルールを理解した。
「では、どうぞ!」
「頑張って、緑祁…!」