第8話 緑色の稲妻 その1
文字数 2,729文字
「行くか……」
新幹線を降りた紫電の声は、あまり高くない。それもそのはずで、ここ福島を突破しているチームがないからだ。一瞬だけ、順位表のトップが辻神たちのチームだったが、それも本当に束の間。
「何か、あるよね。そうじゃないと説明ができないんだ。辻神たちはそんなやわな霊能力者じゃない。僕ですら、勝てるかどうか怪しかったくらいだよ」
「そうよね……。特に辻神は、式神二体…[ライトニング]と[ダークネス]を退けるほどの実力者だわ」
実際にその目で見た緑祁と香恵の説得力は強い。
「でも、脱落してるじゃん? 誰かに負けたってことでしょ?」
そこに雪女の指摘が。
「でもこれ、不思議なんだよな……」
ここ二、三日順位表を見ていて感じたことがある。それは、上の順位になったチームから大会から消えていくのだ。
「もしも……仮に辻神だっけ? ソイツのチームがトップを奪ったのならよ、何ですぐに消えちまうんだ?」
首位を得たチームがずっと一位をキープできていない。繰り上がって行くチームも、またすぐに脱落するのだ。
「追い上げてくるチームが強いってこと? でもそういうわけではないわよね……」
「香恵、やっぱり実際に目で見てみないとわからないんだよこれは」
「そうね……。何が起きているのか、ハッキリさせましょう」
もう既に日が暮れている。
「やっぱり飯盛山の厳島神社だろう。なあ、緑祁?」
「もちろんだよ。もう夜だから鶴ヶ島には寄れないけどね」
「何でよ…?」
紫電と緑祁の意見が意外にも一致した。二人とも東北地方出身なので、白虎隊の話題を避けては通れないからだ。一方関東圏にルーツを持つ香恵にはその謎の魂がわからない。
「二人がそこがいい、って言うならそうしよう」
雪女は故郷を東北地方に移したので、紫電と緑祁に賛成だ。多数決によって、そこのチェックポイントを目指すことに。今夜は市内のホテルに泊まる予定だ。
郡山駅から歩いて飯盛山を目指す一向。
「特に不審な点はないけど……?」
キョロキョロしながら緑祁が言った。変に悪い霊がいるわけではない。寧ろ町全体に、怪しい気配自体がない。
「じゃあ何で、みんなここを突破できねえんだよ?」
「さあ? でも私たちは普通に歩けてるよ。そうだよね、香恵?」
「ええ。何も変わったことはないわ。……んん?」
一瞬、辺りの街灯や建物の灯が暗くなった気がしたのだ。
この直後、道の遠い奥の方が光った。
「きゃあああああああああああああああっ!」
すると鋭い稲妻が飛んできて、それが香恵の体を貫いた。
「な、な、な、何が起こった………?」
紫電も緑祁も雪女も、この事態を飲み込めていない。ただ、香恵が脱落したという結果だけがこの場に残されている。
「香恵、香恵ぇえええっ!」
彼女に近寄る緑祁。決闘の杯を飲んでいなかったら、即死レベルの攻撃だった。でも意識は途切れそうで、
「り、緑祁……。は、だいじょう、ぶ…?」
「大丈夫だよ! しっかりしてよ、香恵! 一緒にゴールしようよ! だから立って!」
駄目だ。完全に力が出せていない。緑祁が腕で支えていないと、すぐに地面に落ちてしまうほどに。
「落ち着け、緑祁!」
紫電は厳しくそう言った。
「で、でも!」
「俺たちがすべきことは一つだけだ! 香恵をこんな目に遭わせたヤロウを、潰す!」
そのためにも、一旦香恵はこの近くのバス停のベンチに座らせていかなければいけない。
(一緒に行くとなると、相手がまた狙ってくる……。辛いけど、置いていくしか……)
雪女も嫌な気分に陥った。ここまで一緒に頑張ってきた仲間が、こうもあっさりとやられてしまうとは予想外過ぎる。しかも重要な回復役の香恵が、だ。
「まずは隠れろ!」
緑祁のことを引っ張って紫電は近くの街路樹の後ろに隠れた。雪女は建物の裏へ。
「大丈夫か、緑祁?」
プルプル震える彼だが、何とかその怒りを落ち着かせ、
「ああ、大丈夫だよ。ただちょっとイライラしただけさ」
と余裕を取り繕って返した。
「紫電、今の攻撃はさ……やっぱり電霊放?」
「それ以外には考えられねえぜ。だが……」
だが、威力が段違いすぎる。電霊放の強さを決めるのは、使う者の霊力だ。外部電源の量は持久戦になると有利であって、琥珀のようにバッテリーを背負っていても瞬間火力が底上げされるわけではない。
「これは、霊能力者の力も強い」
「……も?」
引っ掛かりを感じた雪女はそれを聞くと、
「香恵がやられる前に、ちょっと周りが暗くなっただろう? 何でだと思う?」
紫電にはその答えが見えている。
「多分コイツは! 町全体に供給される電力を使って……つまりは電信柱の上に立って、電霊放を撃った!」
使う外部電源の次元が、紫電や琥珀たちとはかなり差がある。
「そんなことができるの?」
「霊力が高ければ、不可能じゃねえぜ……。実行するかどうかは別だが、これはそれ以外に説明ができねえ!」
「電信柱の、上……」
緑祁は顔を上げた。しかし近くにそれらしい人影がない。
「かなり距離のある一撃だったぜ。二、三キロは離れてる!」
「でもそうだとしたら、そんなに近づいてないのに勘付かれたってこと? 長距離射撃で狙いもブレずに 二キロも離れてたら、米粒程度の大きさだよ? 私たちの方から見ることもできないじゃん……」
「確かにそうだが……」
できないわけではない。電霊放は人によっては曲げることができるし、こちらの位置さえ把握していれば狙える。
「……風だ」
その答えを今度は緑祁が見出した。ベンチで横たわる香恵の髪が、風に吹かれて揺れている。それもさっきから何度も向きを変えながら。
「旋風を使って、僕らの位置を空気の動きで感じ取ってるんだ」
「なるほど」
しかし緑祁も旋風は使えるので、カラクリがわかればこちらも風を起こし誤魔化せる。それを紫電たちに伝えると、
「よし! なら一気に近づこうぜ。危険かもしれねえけど、そもそもこんなところでグズグズしてたらいつまで経っても前に進めない」
「そうしよう。私の雪も、こんなに離れてたら無理だから」
緑祁は一瞬、迷った。香恵はもう脱落した。でも側にいたい。けれど敵を倒しに行かないといけない。
(香恵…………)
心臓がえぐり取られる気分だ。決心を迫られた彼は、
「うん、行こう。行って倒すべきだよ」
断腸の思いで決断を下した。出発する前に香恵に駆け寄り、
「ごめん、香恵。少しここを離れるよ。すぐに戻って来るから!」
手を握り、そう言う。すると香恵の方も、
「がんばって……」
弱々しく握り返し、そう答えてくれた。
「雪女! 雪の結晶を前に展開しろ! 緑祁は旋風だ! 後ろは俺が警戒する!」
三人はこの、遠距離攻撃を仕掛けてくる敵を倒すべく出発した。
新幹線を降りた紫電の声は、あまり高くない。それもそのはずで、ここ福島を突破しているチームがないからだ。一瞬だけ、順位表のトップが辻神たちのチームだったが、それも本当に束の間。
「何か、あるよね。そうじゃないと説明ができないんだ。辻神たちはそんなやわな霊能力者じゃない。僕ですら、勝てるかどうか怪しかったくらいだよ」
「そうよね……。特に辻神は、式神二体…[ライトニング]と[ダークネス]を退けるほどの実力者だわ」
実際にその目で見た緑祁と香恵の説得力は強い。
「でも、脱落してるじゃん? 誰かに負けたってことでしょ?」
そこに雪女の指摘が。
「でもこれ、不思議なんだよな……」
ここ二、三日順位表を見ていて感じたことがある。それは、上の順位になったチームから大会から消えていくのだ。
「もしも……仮に辻神だっけ? ソイツのチームがトップを奪ったのならよ、何ですぐに消えちまうんだ?」
首位を得たチームがずっと一位をキープできていない。繰り上がって行くチームも、またすぐに脱落するのだ。
「追い上げてくるチームが強いってこと? でもそういうわけではないわよね……」
「香恵、やっぱり実際に目で見てみないとわからないんだよこれは」
「そうね……。何が起きているのか、ハッキリさせましょう」
もう既に日が暮れている。
「やっぱり飯盛山の厳島神社だろう。なあ、緑祁?」
「もちろんだよ。もう夜だから鶴ヶ島には寄れないけどね」
「何でよ…?」
紫電と緑祁の意見が意外にも一致した。二人とも東北地方出身なので、白虎隊の話題を避けては通れないからだ。一方関東圏にルーツを持つ香恵にはその謎の魂がわからない。
「二人がそこがいい、って言うならそうしよう」
雪女は故郷を東北地方に移したので、紫電と緑祁に賛成だ。多数決によって、そこのチェックポイントを目指すことに。今夜は市内のホテルに泊まる予定だ。
郡山駅から歩いて飯盛山を目指す一向。
「特に不審な点はないけど……?」
キョロキョロしながら緑祁が言った。変に悪い霊がいるわけではない。寧ろ町全体に、怪しい気配自体がない。
「じゃあ何で、みんなここを突破できねえんだよ?」
「さあ? でも私たちは普通に歩けてるよ。そうだよね、香恵?」
「ええ。何も変わったことはないわ。……んん?」
一瞬、辺りの街灯や建物の灯が暗くなった気がしたのだ。
この直後、道の遠い奥の方が光った。
「きゃあああああああああああああああっ!」
すると鋭い稲妻が飛んできて、それが香恵の体を貫いた。
「な、な、な、何が起こった………?」
紫電も緑祁も雪女も、この事態を飲み込めていない。ただ、香恵が脱落したという結果だけがこの場に残されている。
「香恵、香恵ぇえええっ!」
彼女に近寄る緑祁。決闘の杯を飲んでいなかったら、即死レベルの攻撃だった。でも意識は途切れそうで、
「り、緑祁……。は、だいじょう、ぶ…?」
「大丈夫だよ! しっかりしてよ、香恵! 一緒にゴールしようよ! だから立って!」
駄目だ。完全に力が出せていない。緑祁が腕で支えていないと、すぐに地面に落ちてしまうほどに。
「落ち着け、緑祁!」
紫電は厳しくそう言った。
「で、でも!」
「俺たちがすべきことは一つだけだ! 香恵をこんな目に遭わせたヤロウを、潰す!」
そのためにも、一旦香恵はこの近くのバス停のベンチに座らせていかなければいけない。
(一緒に行くとなると、相手がまた狙ってくる……。辛いけど、置いていくしか……)
雪女も嫌な気分に陥った。ここまで一緒に頑張ってきた仲間が、こうもあっさりとやられてしまうとは予想外過ぎる。しかも重要な回復役の香恵が、だ。
「まずは隠れろ!」
緑祁のことを引っ張って紫電は近くの街路樹の後ろに隠れた。雪女は建物の裏へ。
「大丈夫か、緑祁?」
プルプル震える彼だが、何とかその怒りを落ち着かせ、
「ああ、大丈夫だよ。ただちょっとイライラしただけさ」
と余裕を取り繕って返した。
「紫電、今の攻撃はさ……やっぱり電霊放?」
「それ以外には考えられねえぜ。だが……」
だが、威力が段違いすぎる。電霊放の強さを決めるのは、使う者の霊力だ。外部電源の量は持久戦になると有利であって、琥珀のようにバッテリーを背負っていても瞬間火力が底上げされるわけではない。
「これは、霊能力者の力も強い」
「……も?」
引っ掛かりを感じた雪女はそれを聞くと、
「香恵がやられる前に、ちょっと周りが暗くなっただろう? 何でだと思う?」
紫電にはその答えが見えている。
「多分コイツは! 町全体に供給される電力を使って……つまりは電信柱の上に立って、電霊放を撃った!」
使う外部電源の次元が、紫電や琥珀たちとはかなり差がある。
「そんなことができるの?」
「霊力が高ければ、不可能じゃねえぜ……。実行するかどうかは別だが、これはそれ以外に説明ができねえ!」
「電信柱の、上……」
緑祁は顔を上げた。しかし近くにそれらしい人影がない。
「かなり距離のある一撃だったぜ。二、三キロは離れてる!」
「でもそうだとしたら、そんなに近づいてないのに勘付かれたってこと? 長距離射撃で狙いもブレずに 二キロも離れてたら、米粒程度の大きさだよ? 私たちの方から見ることもできないじゃん……」
「確かにそうだが……」
できないわけではない。電霊放は人によっては曲げることができるし、こちらの位置さえ把握していれば狙える。
「……風だ」
その答えを今度は緑祁が見出した。ベンチで横たわる香恵の髪が、風に吹かれて揺れている。それもさっきから何度も向きを変えながら。
「旋風を使って、僕らの位置を空気の動きで感じ取ってるんだ」
「なるほど」
しかし緑祁も旋風は使えるので、カラクリがわかればこちらも風を起こし誤魔化せる。それを紫電たちに伝えると、
「よし! なら一気に近づこうぜ。危険かもしれねえけど、そもそもこんなところでグズグズしてたらいつまで経っても前に進めない」
「そうしよう。私の雪も、こんなに離れてたら無理だから」
緑祁は一瞬、迷った。香恵はもう脱落した。でも側にいたい。けれど敵を倒しに行かないといけない。
(香恵…………)
心臓がえぐり取られる気分だ。決心を迫られた彼は、
「うん、行こう。行って倒すべきだよ」
断腸の思いで決断を下した。出発する前に香恵に駆け寄り、
「ごめん、香恵。少しここを離れるよ。すぐに戻って来るから!」
手を握り、そう言う。すると香恵の方も、
「がんばって……」
弱々しく握り返し、そう答えてくれた。
「雪女! 雪の結晶を前に展開しろ! 緑祁は旋風だ! 後ろは俺が警戒する!」
三人はこの、遠距離攻撃を仕掛けてくる敵を倒すべく出発した。