第6話 暴走×報復 その2
文字数 3,146文字
一階を探索していた朔那。昨日ホテルの隣にあったデパートで購入した豆鉄砲を構えている。弾丸になる豆は本物で、朔那の木綿があれば一気に成長させることができ、武器として申し分ない。当初はそういうものは必要ないと思っていた彼女だが、病射の電子ノギスをみたら準備した方がいいと感じて急遽調達したのだ。
(感じるな! ピンピンだ! 何かがここにはいる! 得体の知れないこの世ならざる存在! 大きくて重い、何者か!)
隠し切れていない気配が、朔那に警戒心を植え付けているのだ。
当初、彼女はその正体は地下にあると考えていた。元々が病院だったので地下室があってもおかしくはないはずなのだが、一階の廊下を一通り見て回った感じだと、地下への階段は隠されている様子、もしくはそもそも設置されていないのかもしれない。
しかし、何かがこの空間にいることだけは感じ取れる。
(出るなら来い! 捕まえてやる!)
もっと教室をしっかり見た方がいい。そう判断した彼女が最初の教室に入ったその時である。
「な、何だ……? 地震か?」
校舎が揺れ始めた。彼女の礫岩ではない。
「いやこれは……!」
豆鉄砲を構える朔那。おそらくこれは幽霊の仕業。ここに潜む邪念が、彼女たちを追い出そうとしているに違いない。
「そっちから来るのなら! その度胸、認めてやる!」
教室を飛び出した。朔那は、校舎の天井が崩れているのを目にした。
「デカい……!」
背骨から伸びた上半身だけの、骸骨のような幽霊だ。頭部はヤギの頭蓋骨で、まさに悪魔という見た目である。
「だが、ハリボテが! 言っておくが私は威嚇で逃げたりはしないぞ」
この幽霊は使える。捕まえる。即座に判断した朔那は豆鉄砲を構え、種を発射した。
「木綿だ! 動きを封じればすぐに提灯に……」
植物の根と茎が伸びる。それがこの幽霊の腕に巻き付いた。だがすぐにそれを引き千切られる。
「ほう、やるな…! 才能が伺える!」
ならば二発、三発撃つ。これで全身をがんじがらめにすれば、確実に動けなくさせることができる。
そのはずだった。
幽霊は何と体を回転させ、巻き付く植物を排除したのである。その内の数本が朔那の足元に落ちた。それらは枯れていた。
「こんなことができる幽霊、だと……!」
枯れるということは、命を奪ったということだ。朔那は驚きを隠せず、反射的に足が後ろに動いた。
二階にいる病射も、この幽霊と対峙していた。
(うわ。目が、合った……!)
髑髏なので眼球はない。でも相手も自分のことを見ているとわかる。顔がこちらを向いている。
(こんなの、提灯に入るわけがねーぜ! 除霊だ!)
電子ノギスと腕時計を前に突き出し、その二つの電力を使って電霊放を撃ち込んだ。
「手応えあり!」
顔に直撃したのなら、かなりのダメージは免れない。
「な、何いいいいいい!」
しかし、この幽霊は無傷である。
二人の想像を越えている幽霊。その正体は、かつて緑祁と紫電が巌流島で死力を出して戦った犠霊である。邪念こそ巌流島の個体よりも弱いが、それでも朔那と病射をすぐに絶望させるくらいの力がある。
「グオオオオオ!」
手が振られた。その一撃で、壁が崩れた。咆哮するだけで、二人の背筋に鳥肌が立った。
(逃げた方がいい!)
二人は同じことを感じたが、後ろに下がろうとすると犠霊が手を伸ばして捕まえようとしてくる。
「ギガアアアアア!」
叫んだだけで、廊下の先の天井が崩れ落ちて逃げ道が塞がれた。
「馬鹿な? こんなちっぽけな廃墟に、凄まじいレベルの幽霊がいるはずがない!」
「あり得ない! 【神代】はこれを認識していないのか!」
病射はその疑うレベルの強さから、朔那は【神代】がノーマークであったことから、次の結論に至る。
「これは……【神代】が設置した幽霊だ! この廃校に、隠してあったんだ!」
それに遭遇してしまったと。
もちろんこれは間違った考えだ。そもそも数十年前に除霊に失敗して、結界に封印された存在が時を経て犠霊になったのである。だが、片や復讐のために周りが見えていない者、片や暴走して冷静さを欠いた者。そんな乱暴な考えにたどり着いてしまう。
「ならば、コイツは除霊する! おれはもう、後には戻れないんだ……。狂うところまで狂ってやろうじゃねーかよ!」
「コイツを倒さないと命がないのなら……やる! 復讐のためなら、もう手段は選んでられない!」
暴走した病射は、朔那のためにもこの犠霊を祓うことを誓う。また朔那も、病射のように【神代】を敵に回す覚悟を決めた。
(今! コイツには私が見えていないはず!)
朔那は思う。犠霊の目は二階の廊下の方に向いている。ならば自分の動きを目で追えないはずだ、と。そして病射と合流するのを優先するべきとも。
彼女は豆鉄砲を壁に向け、廊下の壁に植物の種を撃ち込んだ。
「砕け、コンクリートを!」
撃ち出されると同時に急成長し、豆は根を壁に伸ばして隙間に食い込んだ。そして豆はコンクリートを砕くレベルに茎と根を大きく太くさせ、上へ上へと成長する。
「今だ!」
一気に木綿の力を解放し、廃校の壁を破壊した。巧みに成長した茎は上に伸びたままで、それを登って朔那は二階に移動する。
(幽霊の方はどうだ?)
この間、犠霊は朔那に手を出していない。病射の方を睨んでいる。
(凄まじいプレッシャーだぜ……!)
彼も犠霊のことを見ている。動き出すのを待っているのだ。
(電霊放を撃ち込めば、倒せないはずはない。拡散タイプは一発一発の威力が低いから、全弾命中させるくらいすれば! それか、嫌害霹靂を撃ち込む!)
電子ノギスを構えたかった病射だったが、右手を動かそうとしたら犠霊の口が動いたのが見えた。
(何か吐き出してくる?)
スカスカの口の中から、黒い煙がモクモクと出て来る。
「おいおいおいおい! これは!」
吸ってはいけない。本能がそう病射に告げている。しかし後ろには下がれない。
「拡散しろ! 電霊放!」
ならば、稲妻で安全地帯を切り開くだけだ。病射は目の前の空間に、電子ノギスから膨大な数の拡散電霊放を撃った。
「よし、どうだ!」
だがこれでも、煙を完全に退けたわけではない。足元に迫りくる。
「これでも駄目なのか……!」
そう思ったその時、
「いいや、大丈夫だ!」
朔那が病射の後ろに現れたのだ。彼の肩を掴むと、
「多分、吸うと危険だ! だがお前は慰療が使えて、私は薬束ができる! お互いにこれを使えばあの煙は多分乗り越えられる!」
「そ、そうか!」
自分自身と相手に、病射は慰療を、朔那は薬束を使う。
「……!」
確かに黒い煙からは、異常なまでの毒気を感じる。でも二人は霊障を駆使して、何とか耐え抜いた。
「反撃だ、病射!」
「任せな!」
煙が晴れた時、真っ先に動いたのは病射だった。
「くらえ! 嫌害霹靂!」
ノギスの先端から、四方八方に桃色の稲妻が走る。
「グウウウウオオオオオオ!」
犠霊に何発も直撃する。それでもまだ、除霊できていない。
「次は私が!」
嫌害霹靂の隙間から、朔那が撃ち出した豆が飛び出す。
「グヌウウウ!」
植物は成長すると、犠霊には巻き付かずに傘のように広がった。
(どうせ、引き千切られるだけだ。だがな、私の目的は目晦まし! ほんのちょっとの隙が欲しいんだぜ)
視線を遮った、わずかな時間。
「病射、あの幽霊をやっつける方法が私にはある!」
「ほ、本当か?」
「もちろんだ。だがここでそれは使えない。ここで使えば私たちは、廃校の下敷きだ……」
だから、どうにかこの校舎から抜け出る必要がある。
「じゃあよ、脱出さえすれば! そうすればおめーが、倒せるんだよな?」
「任せな」
自信満々の朔那。その必殺の一撃さえ決まれば、勝てると確信しているのだ。
(感じるな! ピンピンだ! 何かがここにはいる! 得体の知れないこの世ならざる存在! 大きくて重い、何者か!)
隠し切れていない気配が、朔那に警戒心を植え付けているのだ。
当初、彼女はその正体は地下にあると考えていた。元々が病院だったので地下室があってもおかしくはないはずなのだが、一階の廊下を一通り見て回った感じだと、地下への階段は隠されている様子、もしくはそもそも設置されていないのかもしれない。
しかし、何かがこの空間にいることだけは感じ取れる。
(出るなら来い! 捕まえてやる!)
もっと教室をしっかり見た方がいい。そう判断した彼女が最初の教室に入ったその時である。
「な、何だ……? 地震か?」
校舎が揺れ始めた。彼女の礫岩ではない。
「いやこれは……!」
豆鉄砲を構える朔那。おそらくこれは幽霊の仕業。ここに潜む邪念が、彼女たちを追い出そうとしているに違いない。
「そっちから来るのなら! その度胸、認めてやる!」
教室を飛び出した。朔那は、校舎の天井が崩れているのを目にした。
「デカい……!」
背骨から伸びた上半身だけの、骸骨のような幽霊だ。頭部はヤギの頭蓋骨で、まさに悪魔という見た目である。
「だが、ハリボテが! 言っておくが私は威嚇で逃げたりはしないぞ」
この幽霊は使える。捕まえる。即座に判断した朔那は豆鉄砲を構え、種を発射した。
「木綿だ! 動きを封じればすぐに提灯に……」
植物の根と茎が伸びる。それがこの幽霊の腕に巻き付いた。だがすぐにそれを引き千切られる。
「ほう、やるな…! 才能が伺える!」
ならば二発、三発撃つ。これで全身をがんじがらめにすれば、確実に動けなくさせることができる。
そのはずだった。
幽霊は何と体を回転させ、巻き付く植物を排除したのである。その内の数本が朔那の足元に落ちた。それらは枯れていた。
「こんなことができる幽霊、だと……!」
枯れるということは、命を奪ったということだ。朔那は驚きを隠せず、反射的に足が後ろに動いた。
二階にいる病射も、この幽霊と対峙していた。
(うわ。目が、合った……!)
髑髏なので眼球はない。でも相手も自分のことを見ているとわかる。顔がこちらを向いている。
(こんなの、提灯に入るわけがねーぜ! 除霊だ!)
電子ノギスと腕時計を前に突き出し、その二つの電力を使って電霊放を撃ち込んだ。
「手応えあり!」
顔に直撃したのなら、かなりのダメージは免れない。
「な、何いいいいいい!」
しかし、この幽霊は無傷である。
二人の想像を越えている幽霊。その正体は、かつて緑祁と紫電が巌流島で死力を出して戦った犠霊である。邪念こそ巌流島の個体よりも弱いが、それでも朔那と病射をすぐに絶望させるくらいの力がある。
「グオオオオオ!」
手が振られた。その一撃で、壁が崩れた。咆哮するだけで、二人の背筋に鳥肌が立った。
(逃げた方がいい!)
二人は同じことを感じたが、後ろに下がろうとすると犠霊が手を伸ばして捕まえようとしてくる。
「ギガアアアアア!」
叫んだだけで、廊下の先の天井が崩れ落ちて逃げ道が塞がれた。
「馬鹿な? こんなちっぽけな廃墟に、凄まじいレベルの幽霊がいるはずがない!」
「あり得ない! 【神代】はこれを認識していないのか!」
病射はその疑うレベルの強さから、朔那は【神代】がノーマークであったことから、次の結論に至る。
「これは……【神代】が設置した幽霊だ! この廃校に、隠してあったんだ!」
それに遭遇してしまったと。
もちろんこれは間違った考えだ。そもそも数十年前に除霊に失敗して、結界に封印された存在が時を経て犠霊になったのである。だが、片や復讐のために周りが見えていない者、片や暴走して冷静さを欠いた者。そんな乱暴な考えにたどり着いてしまう。
「ならば、コイツは除霊する! おれはもう、後には戻れないんだ……。狂うところまで狂ってやろうじゃねーかよ!」
「コイツを倒さないと命がないのなら……やる! 復讐のためなら、もう手段は選んでられない!」
暴走した病射は、朔那のためにもこの犠霊を祓うことを誓う。また朔那も、病射のように【神代】を敵に回す覚悟を決めた。
(今! コイツには私が見えていないはず!)
朔那は思う。犠霊の目は二階の廊下の方に向いている。ならば自分の動きを目で追えないはずだ、と。そして病射と合流するのを優先するべきとも。
彼女は豆鉄砲を壁に向け、廊下の壁に植物の種を撃ち込んだ。
「砕け、コンクリートを!」
撃ち出されると同時に急成長し、豆は根を壁に伸ばして隙間に食い込んだ。そして豆はコンクリートを砕くレベルに茎と根を大きく太くさせ、上へ上へと成長する。
「今だ!」
一気に木綿の力を解放し、廃校の壁を破壊した。巧みに成長した茎は上に伸びたままで、それを登って朔那は二階に移動する。
(幽霊の方はどうだ?)
この間、犠霊は朔那に手を出していない。病射の方を睨んでいる。
(凄まじいプレッシャーだぜ……!)
彼も犠霊のことを見ている。動き出すのを待っているのだ。
(電霊放を撃ち込めば、倒せないはずはない。拡散タイプは一発一発の威力が低いから、全弾命中させるくらいすれば! それか、嫌害霹靂を撃ち込む!)
電子ノギスを構えたかった病射だったが、右手を動かそうとしたら犠霊の口が動いたのが見えた。
(何か吐き出してくる?)
スカスカの口の中から、黒い煙がモクモクと出て来る。
「おいおいおいおい! これは!」
吸ってはいけない。本能がそう病射に告げている。しかし後ろには下がれない。
「拡散しろ! 電霊放!」
ならば、稲妻で安全地帯を切り開くだけだ。病射は目の前の空間に、電子ノギスから膨大な数の拡散電霊放を撃った。
「よし、どうだ!」
だがこれでも、煙を完全に退けたわけではない。足元に迫りくる。
「これでも駄目なのか……!」
そう思ったその時、
「いいや、大丈夫だ!」
朔那が病射の後ろに現れたのだ。彼の肩を掴むと、
「多分、吸うと危険だ! だがお前は慰療が使えて、私は薬束ができる! お互いにこれを使えばあの煙は多分乗り越えられる!」
「そ、そうか!」
自分自身と相手に、病射は慰療を、朔那は薬束を使う。
「……!」
確かに黒い煙からは、異常なまでの毒気を感じる。でも二人は霊障を駆使して、何とか耐え抜いた。
「反撃だ、病射!」
「任せな!」
煙が晴れた時、真っ先に動いたのは病射だった。
「くらえ! 嫌害霹靂!」
ノギスの先端から、四方八方に桃色の稲妻が走る。
「グウウウウオオオオオオ!」
犠霊に何発も直撃する。それでもまだ、除霊できていない。
「次は私が!」
嫌害霹靂の隙間から、朔那が撃ち出した豆が飛び出す。
「グヌウウウ!」
植物は成長すると、犠霊には巻き付かずに傘のように広がった。
(どうせ、引き千切られるだけだ。だがな、私の目的は目晦まし! ほんのちょっとの隙が欲しいんだぜ)
視線を遮った、わずかな時間。
「病射、あの幽霊をやっつける方法が私にはある!」
「ほ、本当か?」
「もちろんだ。だがここでそれは使えない。ここで使えば私たちは、廃校の下敷きだ……」
だから、どうにかこの校舎から抜け出る必要がある。
「じゃあよ、脱出さえすれば! そうすればおめーが、倒せるんだよな?」
「任せな」
自信満々の朔那。その必殺の一撃さえ決まれば、勝てると確信しているのだ。