第4話 確保命令 その2

文字数 2,764文字

 ようやく新幹線は郡山駅に到着した。降りた際、空気の違いを肌で感じ取る。

「やっぱり南東北は暖かいな。秋田とは段違いの気候だぜ」

 だが駅から出ると、その様子のおかしさに気づかされた。

「おいおい、何が起きている……?」

 道路に幽霊がいる。雄叫びを上げながら、駅から出て来る人を睨んでいるのだ。

「あれは確か、ランベオサウルスだな。恐竜はもうこの世にいないから、絶対に幽霊だ! そして、どうやら一般の人たちには見えていない様子だ」
「じゃあ、役目は?」
「え?」

 見た感じ、他の人に危害を加えようという様子はない。やっていることはただ、人の顔を見て反応を確認していることだけ。

「しまった!」

 つまりはこの幽霊……業闘(ごうとう)は、駅から出てくる霊能力者を探しているのだ。

「ゴギャアアアアオオオオオオオオ!」

 骸と雛臥は業闘と目を数秒合わせてしまった。それは自分から、霊能力者ですと言っているようなものだ。もちろんこの反応に業闘はターゲットを彼らに決め、突き進む。

「マズいマズいマズい!」

 一瞬、後ろに下がることを考えた。だが駅の中にこの幽霊が入り込んだら何をするかわからない。では前に出て戦うか? 幸いにも人は少ない。

「行けそうか?」
「行くしかないだろ!」

 二人は決断する、ここで業闘と戦うことを。雛臥が鬼火を手のひらの上に出すと、それを早速撃ち込んだ。

「ギガアアアア!」

 動きは鈍いようで、腹に命中。

「いいぞ、この調子で!」

 今度は骸の番だ。街路樹を操り木の枝を突き刺そうとしたその瞬間、

「……ん?」

 突然氷柱が飛んできて、枝を切ってしまった。

「だ、誰だ今のは!」

 明らかに業闘とは違う方向からの一撃だった。ということは、業闘の仲間がいるということ。

「今日は誰も市内には入れられないんだ」

 その声は後ろから聞こえた。

「誰だ!」

 雛臥が振り向くと、タクシー乗り場の屋根の上に少年が座っていた。悲しい表情をしている彼は、

「あれは……! 確か、飯盛寛輔!」
「すごいね。僕の名前をもう知っているなんて。僕は君たちのこと、知らないのにさ」

 寛輔は屋根から飛び降り、業闘の側に駆け寄った。

「そのまま駅に引き返して、この市内からどこかに行ってくれ。そうすれば、見逃せるんだ」
「ほう……」

 だが、そんなことを言われて引き下がる骸と雛臥ではない。

「そう言われると、何としても市内に入ってやるぜ! なあ、雛臥?」
「もちろん。僕たちにだって任務があるからな!」

 二人は一歩前に出る。

(来るか……!)

 寛輔は少し焦った。業闘には特殊な能力などはない。せいぜい耐久力が高いくらいだ。

(あの二人の霊障は、多分鬼火と木綿だ。この業闘と一緒なら負けないとは思うけど、アイツらも緑祁の仲間だということは……)

 しかし今更逃げることはできない。自分の仲間たちを裏切ることになってしまう。それだけは選びたくないのだ。

「行け、業闘!」

 命じると業闘は、嘶きながら突進をする。

「させるか!」

 雛臥が前に出て、業火で炎の壁を作る。流石にこれを突き抜けることはできないらしく、立ち止まる業闘。

「よし、このまま……」

 守れば負けることはない。そう言おうとした際、雛臥は不自然な熱さを感じた。

「変だ? 僕は熱いとは思わないはずなのに、焼けるような感覚だ……? 何だこれは?」
「俺は熱くないぞ?」

 骸は逆に春の気候を普通に感じている。つまりは異常なことが雛臥にだけ起きている。

「あ、熱い! ぐ、ぐううう!」
「大丈夫か、雛臥!」

 炎の壁を指差し、

「一旦アレを消せ! 原因はあれしか考えられないだろ!」
「そ、そうだね……」

 業火を解いた。すると熱さが引いた。

「おい、見ろよアレを! どうやらアイツ……寛輔の仕業だったらしいぜ」
「藁人形……。噂に聞く、呪縛か。そうか、僕はあれで熱さを跳ね返されていたのか!」

 藁人形を持っている寛輔。呪縛が使えるとわかったので、業火を撃ち込むのは危険。

「なら近づいて叩くまでだ。骸、サポートしてくれ」
「任せな」

 雛臥が近寄ってきた。業闘はあまり怖くない様子だ。

(来る……!)

 逆に緊張する寛輔。業闘という脅しの道具が通用していないのだから、焦るのは当然だ。

「うおおおおおおお、おおおおおおお!」

 業闘が頭を振り下ろすのを避け、その顔に蹴りを入れた。

「ギギャ!」

 あまりダメージになっていない。やはり除霊には霊障が必要だ。

「や、やめろ!」

 すると側にいた寛輔が彼の腕を掴む。

「邪魔するなよ。君はだいいち、確保しろって話が……」
「うりゃあああ!」

 その腕を力一杯引っ張って、雛臥をぶん投げる寛輔。

「馬鹿な? こんな怪力どこから………まさか、乱舞?」
「うおおおい、雛臥!」

 幸運なことに投げ飛ばされた方向に骸がいたので、彼が上手く雛臥をキャッチ。

「おかしいな? アイツが乱舞と呪縛、だっけ? 違うヤツの話じゃなかった?」
「いや。見た感じ、寛輔の話っぽいぞ。俺たちの頭の中で情報という根っこがちょっとこんがらがってただけだ」

 情報を整理する。寛輔なら、雪、乱舞、呪縛が使用できる。それは緑祁から聞いた情報だ。彼を倒すには、乱舞と雪の危険を承知で近づき、呪縛を発動させずに彼本体を叩く必要がある。

(それをさせないための、あの幽霊……業闘とか言っていたか?)

 近寄られるとマズいのは、寛輔も熟知しているだろう。そこで、力強い業闘と一緒にいれば相手は遠くから彼を狙うしかなくなる。だがそうなると呪縛で防御される。
 作戦を練っている間にも寛輔と業闘は攻めてくる。

「やれぇ!」

 尻尾だ。フルスイングして弾き飛ばそうという魂胆らしい。

「近づけ、雛臥! 俺がサポートする! あの業闘は俺が引き受ける!」
「いいのか!」

 いやもうここは行くしかない。骸が木霊で街路樹を成長させて何とか業闘の目を引き、雛臥がその横を通って寛輔に近づいた。

「逃がさないぞ!」
「逃げる気なんて、ないよ!」

 このゼロ距離なら、呪縛を使わせない自信が雛臥にはあった。だが、寛輔も反撃に出る。手を雪で凍らせて鋭い手刀を作り、乱舞による身体能力の向上で敵を切り裂くのだ。

「霊障合体だろう、これは! 氷斬刀(ひょうざんとう)だ!」
「ぬおお!」

 瞬時に後ろに下がったが、それでも手刀の先端は雛臥の服を切り裂いた。

「これは前情報になかった! コイツ、成長している!」
「当たり前さ! こんな便利なもの、使わない手はないんだ」

 さらに寛輔は霊障合体を使用するのだ。呪縛と雪の合わせ技である、呪詛(じゅそ)凍結(ととうけつ)。藁人形を雪で凍らせることで相手の動きを封じるのだ。

「ぐ!」

 突然足も手も動かなくなった。そんな雛臥に寛輔は氷斬刀を掲げて近づく。

「手も足も出てないね? 無様だなぁ」

 もう十分という距離まで安全に近づいた寛輔は、勢いよくその腕を振り下ろそうとした。

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