第4話 整理の接続曲 その1
文字数 4,060文字
病棟での事件の次の朝、緑祁たちは【神代】の病院で事情聴取を受けた。【神代】は情報をまとめることを選んだのである。
「負傷者はどうしました?」
鬼越長治郎に聞くと、
「病院に運んだから、心配はしなくていい。幸い、病棟の崩壊では怪我人は出なかった」
とのこと。どうやらみんな避難できたらしい。病棟に入れられていた人たちは一時的に、【神代】の息がかかったホテルに移動してある。
ただし、とある三人を除いて。
「行方不明な人物がいるんだ。緑祁、知らないか?」
「誰ですか?」
「天王寺修練、日影皐そして美田園蛭児だ。どうもこの三人の行方がわからない。見たって人もいないんだ」
「修練が、ですか……」
緑祁は首をガクッと下げたい気分だった。やはり峻や洋次の思惑を止められなかったのである。
「知っているのか。ああ、そういえば二年前にアイツを捕まえたのがお前だったか……」
修練が脱走したのは、緑祁にとってかなりショックな出来事だろうと長治郎は察した。
「他には何か知らないか? 病棟での事件、不自然としか思えない。あんなことが起こらないように、結界を張っているんだから」
「寛輔から聞いたんですが、式神を建物内に持ち込んで召喚したらしいです」
「なるほど。それに関しては脆弱だったようだな……」
式神や幽霊による攻撃を想定しての結界だったので、内部に繰り出されては総崩れしてしまう。
「長治郎さん、僕にも疑問なんですが」
「ん、何だ?」
「逃げ出したのは修練だけではないですよね? 皐と蛭児って言いましたっけ? その二人は今どこにいるのでしょう?」
「これは俺の仮説だが……。峻や洋次が修練を連れて逃げた、だから修練の行方がわからない。そう考えると、皐と蛭児もがむしゃらに逃げたのではなく、修練たちについて行ったのではないだろうか? 行方を眩ませるには一番都合がいいし、だいたい二人には行く当てもなければ、協力者が外部に都合よくいたとも思えない」
「でも、どうして…?」
「それはこれから明らかにする!」
とにかく今はわかっていることから、これからの作戦を決める。寛輔によれば、拠点にしている廃旅館があるらしいので、そこを捜索してみる。
「ただし、昨晩に緑祁たちが病棟に来ている、つまり情報が漏れていることは向こうも把握しているだろう。別の場所に移っているかもしれないが、何かしら形跡やてがかりを掴めるかもしれない。緑祁、そこに行ってくれ」
「わかりました。今すぐにでも出発します。確か、千葉と茨城の県境ですよね?」
車を【神代】に貸してもらう。そしてチームを編成し、行くのだ。
「頼んだぞ。修練たちが何か動けば、こちらからも連絡を入れる」
「他に逃げ出した人はいませんか?」
「そこは大丈夫だ。みんな模範的だな、避難指示に従って逃げなかったらしい」
特に気になる人物が緑祁にはいた。
まず、正夫だ。騒ぎに乗じて逃げてもおかしくはない人物だったが、聴取によれば、
「あそこで便乗して逃げたら、修練とかいう小僧に従うことになってしまう。そうなるくらいなら、逃げない方がいい」
と言っていた。また垂真雉美と逆巻峰子も気がかりだったが、彼女たちは病棟に来てから、淡島豊雲を見捨てたくなかったという緑祁の思いが間違っていなかったこと理解したのだ。だからか、二人は自分の罪を意識して更正に努めているとのこと。
緑祁は部屋から出た。同じタイミングで別の部屋から、朔那が飛び出した。
「そんな馬鹿な!」
彼女は何やら焦っている。病射と弥和の腕を引っ張ってエレベーターに乗り込んだ。
「どうしたんだろう……?」
この時、緑祁には何が起きているのかわからなかった。院内食堂で香恵と合流した際にそのことを話すと、
「多分、霊安室に行ったんだと思うわ」
「どうしてだい?」
「聞かなかったの? 昨日、亡くなられたのよ……。上杉左門が……」
ただ一人、遺体で発見された人物がいる。それが左門である。目立った外傷はなく、建物の崩壊や式神の攻撃が原因ではないとすぐにわかった。
「でも一つだけ、傷つけずに人を殺める方法があの時にあったわ」
「……毒厄だね。確か逃げた皐が使えたはず」
だから、【神代】は結論付けた。逃げようとした皐を説得する際に、左門は彼女に触れられて毒厄を流し込まれ、殺害されたのだ、と。彼の遺体はこの病院に運ばれている。
「香恵、一緒に霊安室に行こう。朔那と話がしたい」
「そうね。行きましょう」
今、彼女を放っておくわけにはいかない。二人はエレベーターに乗り込み、地下の霊安室に向かう。
朔那たちは左門の遺体と面会していた。何も言わず、苦しそうな表情で横たわる左門の体。朔那と弥和の体は震えているが、それは恐怖を感じているからではない。
「許せない……」
二人は以前、左門に対し怒りを抱いていた。恨んでいたからこそ、復讐を企て実行しようとした。それに病射も加わって行動した。
「待て、朔那! 弥和! 病射!」
でも、やめた。自分たちの行く手を阻む緑祁と辻神に勝てなかったこと、自分たちが戦いの中で怒りを費やし燃え尽きたことが要因だ。許したわけではないが、最後の最後で誠意を見せ、謝罪した左門のことは素直に見直したし、実際に彼は自ら出頭し精神病棟に入った。
そんな真面目に生きると誓ってくれた彼が無残にも殺された。
「誰だ、その皐ってヤロウは! この落とし前、絶対につけさせるぞ! この世から消してやる!」
かなり強い口調で朔那が叫んだ。目の前に皐はいないが、豆鉄砲を構えている。
「朔那、落ち着いて!」
彼女が振り上げた拳を緑祁が掴む。
「な、何だ緑祁? 離せ!」
「離さない!」
怒りは人を突き動かすのに十分すぎる感情だ。もしこのまま彼女たちを放置したら、また三人は同じ道を通ってしまう。復讐という、誰にも歓迎されない行いだ。緑祁はこれ以上、朔那たちに復讐をさせたくないのである。
「朔那、怒らないでくれ! これ以上復讐のために動かないでくれ」
「この怒りを忘れろと言うのか、緑祁! 冗談を言うんじゃない!」
「ふざけてなんか、いない!」
「コイツ……!」
朔那は、緑祁のことを突き飛ばして壁にぶつけてやりたい衝動に駆られ、豆鉄砲を彼に向けた。彼女だけではない。共に育った弥和も、一緒に活動している病射もだ。自分たちの感情を理解してくれない緑祁のことが、邪魔者に思えた。
「違うわ、朔那」
そこで香恵が言う。
「緑祁だって、苦しいのよ。逃げ出した修練が何をしでかすかわからないんだから。【神代】に対する報復かもしれないし、他に目的があるかもしれないわ。それに皐と蛭児まで取り逃がして……。全部、事前に計画を知ることができた自分の力不足……。これが悔しいわけないじゃないのよ!」
でも緑祁には怒りはない。あるのは修練たちを絶対に止めるという硬い決心である。自分のためではなく、【神代】のため……正しいことをしたいというのが、その心の覚悟の源だ。
「だけど、人を恨んでも意味はないわ! 怒りを燃やしたところで、それをぶつけても得られるのは一時の満足感だけ……。そのために、道を外さないで!」
今度は朔那は、香恵をぶん殴ろうと拳を構えた。
しかし、数秒冷静になってみる。
「………」
「朔那……」
ここで病射が喋った。
「おれは、緑祁たちの言うことの方が正しいと思うぜ。左門を殺されたのは許せねーけど、だからと言っておれたちがその皐ってヤツを殺していい理由にはならねーよ」
元々、復讐を目的としていなかったからだろう。だから病射は緑祁と香恵の言葉を理解できたのだ。
「じゃあ、どうするつもりなんだお前は?」
「正しいことをしようぜ、朔那」
それは、皐や蛭児、修練を捕まえることだ。
「それが【神代】にとって、霊能力者にとって正しい行いだぜ。なあ、そうだろう? 香恵、緑祁?」
「うん、そうだよ。逃げ出した三人を捕まえるんだ。朔那、弥和、できるかい?」
できないのなら、その行動には参加させない。三人には悪いが、怒りや復讐のために動いて欲しくない。
(難しいだろうね、朔那……。怒りはそう簡単には消せないし、無視もできない感情だ。それこそ、道を平然と踏み外させる……)
かつてヤイバに精神面で敗北した緑祁は、その感情の強さとおかしさを知っている。無理強いはしないつもりだが、
「そうなら、それでいい。皐たちをもう一度、檻の中に入れてやればいいんだろう?」
やっと朔那が受け入れてくれた。
「殺すのは駄目だよ?」
「わかっている! 私にかかれば楽勝だ。だって皐は、毒厄しか使えないんだろう? 私の薬束を突破できないんじゃ、もう勝負は決まったようなものだぜ!」
それでいい。捕まえることさえできれば、左門の殺害に関してもちゃんと罰で裁くことができる。【神代】は至極真っ当な処理をしてくれるだろう。
「緑祁、香恵! これは私の戦いじゃないな。【神代】のための、戦いだ」
「朔那の言う通りだわ。自分の感情だけで動いちゃ駄目ね……」
目が覚めた朔那と弥和。緑祁と香恵と、仲直りの握手をした。
「なら早速、出発だ。香恵と僕は、寛輔から聞いた廃旅館に行くんだけど、一緒に来てくれるかい?」
「わたったぜ。情報収集だな?」
現状、わかっていることが非常に少ない。ハッキリ言ってしまえば、修練が何をしたいのかすらも不明だ。
「以前修練は、青森で霊界重合を引き起こした。その時に自分が死んだように見せかけていたんだけど、どうしてそういうことをしたのか……。霊界重合は欲しい結果じゃなくて、目的への過程でしかなかったんだ」
その野望を途中で止めた緑祁は、その先を知らない。
病院を出て【神代】から借りた車に乗り込む。
「緑祁は運転しないのか?」
「電信柱に突っ込むような人にハンドルは握らせられないわ」
「よく免許取れたな、それ………」
運転席には香恵が、助手席には緑祁が座る。後部座席に、病射、朔那、弥和の三人が乗り込んだ。ここからなら一時間とちょっとしかかからない。
「では、出発よ!」
「負傷者はどうしました?」
鬼越長治郎に聞くと、
「病院に運んだから、心配はしなくていい。幸い、病棟の崩壊では怪我人は出なかった」
とのこと。どうやらみんな避難できたらしい。病棟に入れられていた人たちは一時的に、【神代】の息がかかったホテルに移動してある。
ただし、とある三人を除いて。
「行方不明な人物がいるんだ。緑祁、知らないか?」
「誰ですか?」
「天王寺修練、日影皐そして美田園蛭児だ。どうもこの三人の行方がわからない。見たって人もいないんだ」
「修練が、ですか……」
緑祁は首をガクッと下げたい気分だった。やはり峻や洋次の思惑を止められなかったのである。
「知っているのか。ああ、そういえば二年前にアイツを捕まえたのがお前だったか……」
修練が脱走したのは、緑祁にとってかなりショックな出来事だろうと長治郎は察した。
「他には何か知らないか? 病棟での事件、不自然としか思えない。あんなことが起こらないように、結界を張っているんだから」
「寛輔から聞いたんですが、式神を建物内に持ち込んで召喚したらしいです」
「なるほど。それに関しては脆弱だったようだな……」
式神や幽霊による攻撃を想定しての結界だったので、内部に繰り出されては総崩れしてしまう。
「長治郎さん、僕にも疑問なんですが」
「ん、何だ?」
「逃げ出したのは修練だけではないですよね? 皐と蛭児って言いましたっけ? その二人は今どこにいるのでしょう?」
「これは俺の仮説だが……。峻や洋次が修練を連れて逃げた、だから修練の行方がわからない。そう考えると、皐と蛭児もがむしゃらに逃げたのではなく、修練たちについて行ったのではないだろうか? 行方を眩ませるには一番都合がいいし、だいたい二人には行く当てもなければ、協力者が外部に都合よくいたとも思えない」
「でも、どうして…?」
「それはこれから明らかにする!」
とにかく今はわかっていることから、これからの作戦を決める。寛輔によれば、拠点にしている廃旅館があるらしいので、そこを捜索してみる。
「ただし、昨晩に緑祁たちが病棟に来ている、つまり情報が漏れていることは向こうも把握しているだろう。別の場所に移っているかもしれないが、何かしら形跡やてがかりを掴めるかもしれない。緑祁、そこに行ってくれ」
「わかりました。今すぐにでも出発します。確か、千葉と茨城の県境ですよね?」
車を【神代】に貸してもらう。そしてチームを編成し、行くのだ。
「頼んだぞ。修練たちが何か動けば、こちらからも連絡を入れる」
「他に逃げ出した人はいませんか?」
「そこは大丈夫だ。みんな模範的だな、避難指示に従って逃げなかったらしい」
特に気になる人物が緑祁にはいた。
まず、正夫だ。騒ぎに乗じて逃げてもおかしくはない人物だったが、聴取によれば、
「あそこで便乗して逃げたら、修練とかいう小僧に従うことになってしまう。そうなるくらいなら、逃げない方がいい」
と言っていた。また垂真雉美と逆巻峰子も気がかりだったが、彼女たちは病棟に来てから、淡島豊雲を見捨てたくなかったという緑祁の思いが間違っていなかったこと理解したのだ。だからか、二人は自分の罪を意識して更正に努めているとのこと。
緑祁は部屋から出た。同じタイミングで別の部屋から、朔那が飛び出した。
「そんな馬鹿な!」
彼女は何やら焦っている。病射と弥和の腕を引っ張ってエレベーターに乗り込んだ。
「どうしたんだろう……?」
この時、緑祁には何が起きているのかわからなかった。院内食堂で香恵と合流した際にそのことを話すと、
「多分、霊安室に行ったんだと思うわ」
「どうしてだい?」
「聞かなかったの? 昨日、亡くなられたのよ……。上杉左門が……」
ただ一人、遺体で発見された人物がいる。それが左門である。目立った外傷はなく、建物の崩壊や式神の攻撃が原因ではないとすぐにわかった。
「でも一つだけ、傷つけずに人を殺める方法があの時にあったわ」
「……毒厄だね。確か逃げた皐が使えたはず」
だから、【神代】は結論付けた。逃げようとした皐を説得する際に、左門は彼女に触れられて毒厄を流し込まれ、殺害されたのだ、と。彼の遺体はこの病院に運ばれている。
「香恵、一緒に霊安室に行こう。朔那と話がしたい」
「そうね。行きましょう」
今、彼女を放っておくわけにはいかない。二人はエレベーターに乗り込み、地下の霊安室に向かう。
朔那たちは左門の遺体と面会していた。何も言わず、苦しそうな表情で横たわる左門の体。朔那と弥和の体は震えているが、それは恐怖を感じているからではない。
「許せない……」
二人は以前、左門に対し怒りを抱いていた。恨んでいたからこそ、復讐を企て実行しようとした。それに病射も加わって行動した。
「待て、朔那! 弥和! 病射!」
でも、やめた。自分たちの行く手を阻む緑祁と辻神に勝てなかったこと、自分たちが戦いの中で怒りを費やし燃え尽きたことが要因だ。許したわけではないが、最後の最後で誠意を見せ、謝罪した左門のことは素直に見直したし、実際に彼は自ら出頭し精神病棟に入った。
そんな真面目に生きると誓ってくれた彼が無残にも殺された。
「誰だ、その皐ってヤロウは! この落とし前、絶対につけさせるぞ! この世から消してやる!」
かなり強い口調で朔那が叫んだ。目の前に皐はいないが、豆鉄砲を構えている。
「朔那、落ち着いて!」
彼女が振り上げた拳を緑祁が掴む。
「な、何だ緑祁? 離せ!」
「離さない!」
怒りは人を突き動かすのに十分すぎる感情だ。もしこのまま彼女たちを放置したら、また三人は同じ道を通ってしまう。復讐という、誰にも歓迎されない行いだ。緑祁はこれ以上、朔那たちに復讐をさせたくないのである。
「朔那、怒らないでくれ! これ以上復讐のために動かないでくれ」
「この怒りを忘れろと言うのか、緑祁! 冗談を言うんじゃない!」
「ふざけてなんか、いない!」
「コイツ……!」
朔那は、緑祁のことを突き飛ばして壁にぶつけてやりたい衝動に駆られ、豆鉄砲を彼に向けた。彼女だけではない。共に育った弥和も、一緒に活動している病射もだ。自分たちの感情を理解してくれない緑祁のことが、邪魔者に思えた。
「違うわ、朔那」
そこで香恵が言う。
「緑祁だって、苦しいのよ。逃げ出した修練が何をしでかすかわからないんだから。【神代】に対する報復かもしれないし、他に目的があるかもしれないわ。それに皐と蛭児まで取り逃がして……。全部、事前に計画を知ることができた自分の力不足……。これが悔しいわけないじゃないのよ!」
でも緑祁には怒りはない。あるのは修練たちを絶対に止めるという硬い決心である。自分のためではなく、【神代】のため……正しいことをしたいというのが、その心の覚悟の源だ。
「だけど、人を恨んでも意味はないわ! 怒りを燃やしたところで、それをぶつけても得られるのは一時の満足感だけ……。そのために、道を外さないで!」
今度は朔那は、香恵をぶん殴ろうと拳を構えた。
しかし、数秒冷静になってみる。
「………」
「朔那……」
ここで病射が喋った。
「おれは、緑祁たちの言うことの方が正しいと思うぜ。左門を殺されたのは許せねーけど、だからと言っておれたちがその皐ってヤツを殺していい理由にはならねーよ」
元々、復讐を目的としていなかったからだろう。だから病射は緑祁と香恵の言葉を理解できたのだ。
「じゃあ、どうするつもりなんだお前は?」
「正しいことをしようぜ、朔那」
それは、皐や蛭児、修練を捕まえることだ。
「それが【神代】にとって、霊能力者にとって正しい行いだぜ。なあ、そうだろう? 香恵、緑祁?」
「うん、そうだよ。逃げ出した三人を捕まえるんだ。朔那、弥和、できるかい?」
できないのなら、その行動には参加させない。三人には悪いが、怒りや復讐のために動いて欲しくない。
(難しいだろうね、朔那……。怒りはそう簡単には消せないし、無視もできない感情だ。それこそ、道を平然と踏み外させる……)
かつてヤイバに精神面で敗北した緑祁は、その感情の強さとおかしさを知っている。無理強いはしないつもりだが、
「そうなら、それでいい。皐たちをもう一度、檻の中に入れてやればいいんだろう?」
やっと朔那が受け入れてくれた。
「殺すのは駄目だよ?」
「わかっている! 私にかかれば楽勝だ。だって皐は、毒厄しか使えないんだろう? 私の薬束を突破できないんじゃ、もう勝負は決まったようなものだぜ!」
それでいい。捕まえることさえできれば、左門の殺害に関してもちゃんと罰で裁くことができる。【神代】は至極真っ当な処理をしてくれるだろう。
「緑祁、香恵! これは私の戦いじゃないな。【神代】のための、戦いだ」
「朔那の言う通りだわ。自分の感情だけで動いちゃ駄目ね……」
目が覚めた朔那と弥和。緑祁と香恵と、仲直りの握手をした。
「なら早速、出発だ。香恵と僕は、寛輔から聞いた廃旅館に行くんだけど、一緒に来てくれるかい?」
「わたったぜ。情報収集だな?」
現状、わかっていることが非常に少ない。ハッキリ言ってしまえば、修練が何をしたいのかすらも不明だ。
「以前修練は、青森で霊界重合を引き起こした。その時に自分が死んだように見せかけていたんだけど、どうしてそういうことをしたのか……。霊界重合は欲しい結果じゃなくて、目的への過程でしかなかったんだ」
その野望を途中で止めた緑祁は、その先を知らない。
病院を出て【神代】から借りた車に乗り込む。
「緑祁は運転しないのか?」
「電信柱に突っ込むような人にハンドルは握らせられないわ」
「よく免許取れたな、それ………」
運転席には香恵が、助手席には緑祁が座る。後部座席に、病射、朔那、弥和の三人が乗り込んだ。ここからなら一時間とちょっとしかかからない。
「では、出発よ!」