第10話 雷が瞬いた その1

文字数 4,870文字

(まだなのか………)

【神代】の本店での会議は、もう二日目に突入している。紫電をはじめとする、今回の作戦に導入された人は全員が無事だった。これは【UON】が殺人行為を行わなかった点が大きい。そして報酬を口座に振り込んでもらった。また、自分たちが交戦した人物のデータも報告済み。
 しかしそれでもまだ終わらないのだ。

「【UON】からの返事はまだか?」

 今回の件が完全に終わるのは、【UON】の本部から連絡がなければいけない。二度目、三度目の遠征を企画している場合、また守備につかなければいけないからだ。
 そしてその間【神代】はあることを考えていた。それは逆にこちらから勝負を仕掛けることだ。【神代】の中には、海外の勢力を取り入れようと意見を出す人もいた。

「だが……」

 けれどもこれに難色を示したのが、富嶽だ。彼としては穏便に済ませたいと考えており、過激派の意見にはそう簡単に頷けない。

「明日も行くんだね」
「そうなる」

 この会議には、紫電たち末端の霊能力者も参加できた。寧ろ出席を強制させられた。
 帰り道で二人は、ある人物に遭遇。それは賢治と柚好だ。

「へえ君、あのディスを倒したのか! すごいじゃないか!」
「意外です……」

 賢治たちはディスと対峙したことはあったが、打ち負かすことはできなかった。だからその功績を純粋に褒める。

「結構危ねえバトルだったぜ……。無限に着弾する霊魂とどんな傷も治せる無病息災は、強すぎだ!」

 正直、勝利は奇跡がもたらしてくれたと感じている。
 賢治たちとは同じホテルに泊まっているらしく、夕食で同席した。その際に彼らの話も聞いた。

「俺たちは全然活躍できずじまいだったんだけど、氷月兄弟とか夏目聖閃とかは結構頑張ったらしいよ」
「そうなのか!」
「でも一番驚いたのは、富山の話ですよ。誰も派遣されていないのに、【UON】を返り討ち! 一体何があったんでしょうね? 不思議です」

 その他にも他の霊能力者の活躍っぷりを教えてもらった。

「なんだ、俺ばっかり苦戦してたわけじゃねえのか……」

 安心すべきなのか、ガッカリすべきなのか。複雑である。
 食事を済ませてレストランを出ると、

「おい……」

 何やら怪しい雰囲気を醸し出している人物がいることに、四人は気づいた。

「誰だ? 俺が出会った【UON】のメンバーじゃねえ。初めて見る顔だ」
「それは俺と柚好もだよ」

 しかしその人物、紫電たちに向かって手招きをしているのだ。これには何かあると四人は本能で感じる。

「行ってみる?」
「【神代】に報告するか?」
「相手は一人ですよ? たとえドンパチやっても赤子の首を捻る程度の難易度! わざわざ報せる必要はないでしょう?」

 ついて行ってみることに。


 不思議に、歩いても歩いても距離が詰まらない。相手とは常に一定間隔だ。
 気づけば明治神宮の境内の中に入っているし、空も暗い。その森の奥まで行く。
 すると、急に件の人物の姿が薄くなって消えた。

「えっ? げ、幻覚だったの……? さっきの人は、蜃気楼?」

 これが霊障であったことに、雪女は真っ先に気づいた。どうやら何者かに化かされて、ここまで連れてこられたらしい。

「不用心だな、こんなところまでノコノコやってくるなんて。何も警戒してないのかよ?」

 背後で誰かが喋った。反射的に振り向くと、四人いる。男三人に女が一人。見るからにディスたちではない。

「誰だお前たちは?」
「名乗る意味はない。だから自己紹介はしないぞ?」
「酷い屁理屈です……」

 正体がバレたくないのか、言葉を濁してくる。

「ここを戦場に選んだってワケだな?」

 紫電が言った。

「お前らが【UON】であることは、見ればわかるぜ。誰もいない場所に呼び出し、【神代】でどのようなことが話し合われているかを聞き出し、暴く! そういう魂胆だろう?」
「違うと言ったら?」

 しかし彼らはこれに、否を唱えたのだ。

「どういうことだ?」

 増々意味がわからない状況に賢治が嘆く。

「どうでもいいぜ! ここでお前らを叩く! それでいい!」
「おう何だ? おれたちとやる気かよ?」

 ピリピリする空気。そこに、

「そこまでにするね」

 と、言って現れた眼鏡をかけた人物が一人。その男に、【UON】の四人は頭を下げた。

(誰だコイツは? コイツらが敬意を表するほどの人物?)

 そんな疑念が湧く中、その人物は喋り出す。

「人間って、面白い生き物ね。平和を望む割には、その本質は暴力ね。理性は平和を、本能は戦いを望んでいるってわけね。だからこそ血が上れば言葉よりも先に手が出るね」
「何だ君は……?」
「ああ、申し遅れたね。ミーは、ハイフーン。ヴァージル・イロコイス・ハイフーンね。今回、ミーだけがコードネームを持ってないね」

 彼……ハイフーンはただの【UON】の霊能力者ではない。今回の遠征を提案し、実行に移した張本人でもある。
 言い換えれば、ディスよりもさらに上の位の人物。

「………ということは、お前が本当の黒幕! 親玉!」
「正解ね」

 ハイフーンはディスとそのチームがお気に入りだった。だが彼らは敗北してしまった。そこで、ディスたちを負かせた紫電に興味を持ったのである。

「ユーは相当の実力者ね。どうかね、ミーたちの仲間にならないか、ね?」
「お断りだ」

 スカウトを即答で断る紫電。それはハイフーンも予想していたらしく、

「では、平和的な話し合いは終わりでいいね? これからは、ちょっと暴力的になるね。ゼキア! テギア! ゲイト! ガイザ! 無理にでも頷かせるね!」

 呼ばれた四人は、構えた。

「やっぱり罠だったんだ、これ……」

 雪女は思った。紫電は結構活躍した。その彼を最優先で排除する。【UON】にとっては当然の願望だ。

「さあ、始めるね!」
「お任せを、マスター・ハイフーン!」
「ユーたちの活躍を、ミーは見せてもらうね」

 ハイフーンはそう言うと、近くの木に腰掛けた。どうやら今は自分では動かないらしい。
 既に紫電たちの霊障は調べてある。ゼキアは紫電の、ゲイトは雪女の、テギアは賢治の、ガイザは柚好の相手をする。相性的に自分が有利になれると目論んだ結果だ。

「ぼさっとする必要はないぜ! さあ、始めようか!」
「言われるまでもねえ! お前ら【UON】が【神代】を諦めるって言うまで何度でも! そのくそったれ根性を叩き折ってやる!」
「できるか、おまえに!」

 ゼキアは瞬時に礫岩を使って地面を隆起させた。

「なるほど……。俺の霊障では、確かに相性が悪いらしい! だが、そんなものはひっくり返してなんぼのもんだぜ!」

 通常電霊放は、地面に当たると拡散してしまい散り散りになって無力化されてしまう。だが紫電はそれでも電霊放を使った。

「バカの一つ覚え……え?」

 それはただの目晦ましだった。紫電は相手が稲妻に気を取られている隙を突き、一気に近づいてゼキアの腹にパンチを入れた。メリケンサックが電霊放を、彼の体に直に流す。

「プワアアアア!」

 ここで拳に力を入れてゼキアの体を上に放り出す。地面から離れた時なら、電霊放は防げない。

「もらったぜ!」

 撃った。解き放たれた青白い稲妻が、ゼキアを襲う。

「グフッ!」

 地面に落ちた時、ゼキアは立っていられなかった。

「ぼくはきみに勝つよ、悪く思わないでね?」

 ゲイトは機傀を使ってバールを出すと、それで雪女に殴り掛かる。それに対し彼女は、雪の氷柱を繰り出し握って防御する。

「鉄よりも氷が硬いと思うかい? 残念! 一方的に砕け散れ!」
「そう、思う?」

 氷柱に接触しているバールが、何と霜を帯びている。氷柱によって冷やされてしまっているのだ。

「や、ヤバい……!」

 このままでは自分も冷やされると感じたゲイトはすぐにバールを手放した。

「ふ、ふう………うっ!」

 その直後、氷柱が彼の肩に突き刺さる。雪女が瞬時に新しい氷柱を投げたのだ。

「このままでは終われない! 一矢報いる!」

 諦めの悪いことにゲイトは機傀を使って、果物ナイフを生み出した。

「くらえ!」

 それを投げつける。だが既に雪女は雪の結晶を作り出している。それに跳ね返されて、逆に自分の太ももに刺さった。

「ワギャアアアア!」
「全然駄目じゃん……」

 ここまでくると、もう劣勢をひっくり返すのは難しいだろう。あとは敗北を待つのみだ。
 隣では、賢治とテギアが対峙。

「結構イケメンじゃないのあんた。でも、あたしと釣り合うとは思わないことね!」
「俺も君は好きじゃないな……」

 テギアは電霊放を使える。それは電気の流れでもあるので、鉄に当たればよく通る。だから何かを機傀で生み出し手に持っているのは、危険。

「でもな、俺と柚好は昨日までと一緒じゃないぜ? 【UON】が襲い掛かってくるという危機的状況で、進化してみせた!」

 ディスとの戦いでは間に合わなかったが、彼と柚好は新たな霊障を獲得したのだ。賢治の場合、それは木綿。しかし彼は今、植物の種を持っていない。これではせっかくの新しい霊障も、宝の持ち腐れ。

「そうじゃない! 霊障が増えたということは、合体させることができるということ! 俺の霊障合体を見せてやるぞ!」

 機傀で鉄の棒を繰り出す。

「そこよ!」

 すぐさまペンライトから電霊放を撃つテギア。だが賢治はすぐにその鉄棒を地面に落とした。

「何がファントムフェノメノンの合体よ? あたしのシャドープラズマの方が上だわ!」
「かもね。でも、それは体験した後に言うべきセリフだ!」
「強がるのもいい加減に……」

 しなさい、と本来テギアは言いたかった。だが一瞬視線を落とした際、違和感に気づいたのだ。

「な、何よこれ…!」

 鉄棒が、植物のつたのようにグニャグニャに伸びる。本来機傀ではあり得ない挙動だ。

「これが霊障の合わせ技……螺旋鋼(らせんこう)!」

 金属が植物のように動くこの霊障合体。見方を変えれば植物の種が必要な木綿を、機傀の金属で補っている形だ。そしてその動きは木綿並みに素早く、テギアの足に巻き付いた。

(か、硬い! のに、曲がっている……!)

 もしこれがただの植物なら、電霊放で剥がすことができるだろう。だがこの螺旋鋼は金属なので、撃ってしまうと接触している自分に確実に電霊放が逆流する。

「あうっ!」

 両方の足を絡めとられたために、転んだ。すると賢治が追加で螺旋鋼を使った。機傀は一分しか維持できない。だから次々と新しい機傀を出さなければいけないのだ。そしてそれらが螺旋鋼の力を得て、鞭のようにしなり、テギアの体を拘束する。

「これでよし。傷つけてないぞ」

 最後に、柚好とガイザの戦いだ。ガイザとしてはどうやって毒厄を相手に通すかがカギとなる。

「悪いが、拳を振るわせてもらおう」

 この時点ではまだ、ガイザの霊障は柚好にはバレていない。だからこの発言を聞いた彼女は、

(乱舞でしょうか…?)

 と予想する。

「トゥア!」

 その思考の瞬間、ガイザは駆けた。すれ違うと同時に拳を肩に叩き込んだのだ。たかが一撃だが、それでいい。毒厄を流し込むには十分すぎる接触。

「うっ! ず、頭痛がします……。吐き気も、です…」

 その症状がもう現れ始めた。だが柚好もぼさっとはしていなかったのだ。

「な、何! わたしの腕に虫が? いつの間に?」

 ムカデとタランチュラだ。しかも、熱さも感じる。

「私は、鬼火を獲得しましたよ。そして霊障合体! 応声虫と鬼火で……点灯虫(てんとうむし)です!」

 炎をまとった虫が、それをガイザの腕に押し付ける。

「熱っ! だ、だがこの程度……」
「これで終わりでは、ありませんよ? まだ皮膚を切り裂いて肉をグチャグチャにできてませんから! ここからです」

 応声虫は、音にも関している霊障だ。その音と鬼火を合体させることも柚好には可能。彼女は頭痛と吐き気のせいで地面にしゃがみ込んでいるが、それでも手と手を合わせ音を出すことはできた。そのノイズ混じりの音はガイザの周囲に鬼火を出現させ、虫も生み出すと燃えるカブトムシやクワガタが彼に突っ込む。

「グバババベオウウウウ……」

 あっという間に四人は負けた。
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