第3話 無実の証明 その2
文字数 3,940文字
赤実はソファーに腰かけた。そしてテーブルの上に、蛭児が資料を置く。
「具体的には?」
研究は皇の四つ子の専門分野ではないために、紙を見せられただけではわからない。だから解説を頼む。
「そうですね……。赤実さん、君は考えたことはないですか? どうして死者の魂は写真に写るのか? 写真とは、その場所を絵のように切り抜くもの。だから写るのは当たり前? いいえ、違うのです。物は光を反射しなければフィルムに焼き付かない。ということは霊も、その場所に存在しているということ……」
蛭児の専門分野は、心霊写真の分野だ。
「確かにおかしな話じゃな。目に見えないものがどうして写真には入り込むのか。普通ではあり得んことじゃ。そういう霊障なのかもしれん」
霊の魂がどうやってカメラに写り込むのか、そのメカニズムは未だに明らかになっていない。それを解明しようというのが、蛭児の研究。
「カメラが日本に上陸した時、こういう人がいましたよ。写真を撮ると、魂が抜き取られる、って」
だから、自分の写真を残さなかった人もいる。この話はただの迷信ではあるのだが、関係があるのかもしれないと蛭児は睨んでいる。
「だから霊も、フィルムに焼き付けられてしまう。可能性としてはあるのです。しかしながら……」
「その後も幽霊が健在の時もあるんじゃろう?」
彼のセリフを予想し赤実は言った。そして蛭児は頷いた。
「そうなのですよ。撮って終わりではないのです。その後も幽霊はその場に残り続ける。これでは先ほどの仮説が実証できないわけです……」
行き詰っている部分は、そこ。また、フィルムが関係しないデジタルカメラにも霊は写り込む。何ならビデオカメラにも映る。それも謎なのだ。
「これを見てみてください」
と、蛭児はとあるビデオテープを再生した。それは彼が持っている、幽霊が映っているものだ。研究のために神社に納められた物を、許可を取って拝借しているのである。映像は、一昔前の遊園地の光景を収めている。
「ああ、これは大変じゃな……」
見ただけで伝わってくる、この世ならざる瘴気。悪い霊が映り込んでいるのだ。その該当部分が流れると、もっと冷たい空気を感じる。被写体の子供の背後に、こちらを睨む赤い目をした女性の霊。悪霊だ。
「この遊園地を訪れた後、この子供は病気で亡くなったと聞きます」
「じゃあ死神じゃったのか、これ?」
「でしょうね。同日、一緒に撮られた写真がこちらです」
今度はアルバムから、一枚抜き取って見せる。被写体はさっきの映像と同じ子供で、顔の左半分が黒ずんでいる。
「守護霊が弱いのか?」
普通、守護霊が守ってくれているのは、人体の左半身と言われている。その半分が、ここまで変化しているとなると、
「その通りです。この子の守護霊は弱く、近寄って来た死神を退けることはできなかった。だから、残念な結果に……」
霊的な事件に巻き込まれやすくなるのだ。
「しかし蛭児、心霊写真は何も悪いものだけではないであろう?」
赤実は言う。よく、自分の体の一部が透けている写真がある。それは先祖の霊が、警告を出していると言われている。透けた部分に何かある、もしくはそこを怪我をするなどだ。
「この世には良い霊と悪い霊がいますからね。そうなってくると今度は、写真が魂を封じ込めているという考え自体が改められる必要性が出てきます」
ここで蛭児は、赤実に尋ねる。どうして心霊写真が撮れるのか、霊が写り込むその原理はどうなっているのか、を。だが彼女はこの分野に関しては素人で、守備範囲ではない。当然蛭児もそれは承知である。
「素人故に、面白い考えが飛び出すことだってありますよ。そこから研究が進むことも!」
拍子抜けな発想は特異点になりやすいから、意見を求めているのだ。
「ひょれ………どう、じゃな? かなり間抜けなことを言うが、写真自体がそもそも、目に映る光景を収めておるのではない、とかか?」
「と言うと?」
メモ帳を用意し、ペンを持って蛭児はそれを聞いた。
「写真や映像がとらえるものは、魂なんじゃきっと! 動物を写したのならそれは動物の魂で、物体なら物体の魂! だから、目には見えない幽霊も写る。魂だから、じゃ」
科学的に考えればこの赤実の考えは、間違っているどころの話ではない。全世界の写真家を敵に回す発言だ。でも蛭児は真面目にメモを取る。
「……なるほど、なるほど! 参考にしてみよう!」
「………恥ずかしいんじゃが……」
蛭児の話はここまでとし、今度は赤実が喋る番だ。
「前に紅華が電話で聞いておると思うが、改めて! そなた、慰霊碑が破壊された日にはどこにいた?」
「それですか……。確かに前にも言いましたよ? 私は最近研究の行き詰まりを感じて、つい酒を飲んでしまいましてね」
「何時から何時までじゃ?」
「夕食も食べたので、午後七時からだったと思います。こう見えて私、酒癖が悪いのでね、酔った時の記憶は全然。なのでいつごろ家に帰ったかは覚えていませんが……」
しかし、居酒屋の店主が記憶してくれている。日付が変わる頃まで飲んでいたらしい。
「となると、アリバイは証明可能か」
「いつもの店には防犯カメラもありますし、確認したと【神代】の方からも聞きましたが、君はまだ見ていないのですか?」
「その辺は大丈夫じゃ」
居酒屋の店員や客が、嘘を吐く理由がない。【神代】のことは基本的に一般人には知られていないし、犯罪紛いのことの手伝いなど、いくら金を積まれても協力するとはとても思えないからだ。それにその居酒屋も既に調査済みで、嘘はなかった。
「じゃあ次じゃ。この人物に覚えは?」
赤実は、四人の男女の写真を見せた。だがこれ、実は絵美のは本人のものだがそれ以外は全く関係ない人で、霊能力者ですらない。
(反応は……?)
きっと蛭児は、身に覚えがないと言うだろう。だが偽物の写真を見て、何か反応があるかもしれない。呼吸の頻度と速度、目の動きや汗のてかりも見逃さないつもりだ。
「う~ん? あいにくですが私は、こういう若い人とはあまり交流がないので………。四人いるとは聞いてましたが、彼らが犯人なのですか?」
「それを調査しておるのじゃ」
「だとしたら、私ではお役には立てそうにないですね………」
「もっとよく見ておくれ! 手に取って、さあ!」
少しでも時間を稼ぐ。
(絵美たちは蛭児のことを名指しした。ということは、何か、あるはずなんじゃ! でなければ名前を言うわけがない!)
しかし、蛭児の表情は動かない。呼吸も乱れず汗も出ない。
「………申し訳ないですね、何も……」
一枚ずつ手に取って見てもらったが、それでも何もなかった。
「そうか……」
「しかしどうして、私が関与を疑われているのです?」
「件の四人が、そなたに騙されたと言っておってな。何か関係があるのではないかと思ったんじゃ」
「そんなことが、知らない間に……」
「もう一つ聞きたいんじゃが、ここ最近に秋田県、千葉県、長崎県、高知県に訪れたことは? 他の県に行ったことは?」
「ない、ですかね……? 私は基本的にここで研究してますし。あ、第三回の【神代】の講演には行ったので、千葉はありますけど……」
十二月の話だ。あの時の講演会は赤実も聞いていたので、蛭児の発表があったことを覚えている。
「そんな前ではない……。ということは、関係なし、か……」
蛭児への事情聴取は、これで終わりだ。
帰る前に赤実は我儘をダメもとでお願いした。
「研究室を覗いていいか? 少し興味があって……」
「いいですよ」
二階がそうなっているらしく、赤実は蛭児の後をついて行って階段を登る。研究室には丁寧に鍵もついており、厳重な管理をしている様子だ。
「こんな感じです」
「わわ……」
まず驚いたのは、あまり整理整頓がなされていないこと。最初に蛭児が言ったように、本が机どころか床にもアンバランスに積み重ねられている。ダンボールも多く、まだ組み立てられていないのが散乱している有様だ。
「ここで毎日、頭を悩ませておるわけか」
「そうですよ。しかし、絶対に私が生きている間に、謎を解明してみせます!」
興味があるフリをして赤実は、研究室の内部を探った。何か証拠があるかもしれないと思っての行為だ。その時、心霊写真の山に隠れてとある写真が埋もれていた。
「これは?」
見たところ、幽霊が写っていない。それに心霊写真特有の霊気も感じない。ただの写真ゆえに、怪しい。
「ああ、これはどこかでもらった……。場所は何て言ってましたっけね、呪いの谷、だそうです」
「呪いの谷?」
聞きなれない単語に思わず聞き返す赤実。
「日本のどこかにあると言われているんですよ。そこにはおぞましい幽霊が潜む、と。足を踏み入れたが最後、生きては帰れない……」
どうしてそんな場所の写真があるのか、赤実は、
「霊能力者ゆえにそういう場所のお祓いを頼まれた、というわけじゃな?」
「察しがいいですね」
見抜く。同時に、
「代わりにわたいら皇の四つ子がやっておこうか? その除霊。言っておくがわたいらには、不可能はないぞ?」
「結構ですよ。今時そんな場所が日本にあると思いますか? 国土地理院に怒られますよ? そんな冗談を鵜呑みにしては……」
本気にしていないから、気にしなくていいと言われる。赤実も追求はやめた。
「うむ、参考になった!」
一通り見学を終えた赤実は美田園家を後にし、テープレコーダーをオフにしてスマートフォンを取り出し電話をかける。
「もしもし。わたいじゃ、赤実じゃ。今、蛭児の事情聴取が終わった。嘘は何も感じなかったぞ、特には何も。やはり四人が嘘を吐いておるのでは?」
赤実は理解した。蛭児は自分の無実を簡単に証明できると。
「具体的には?」
研究は皇の四つ子の専門分野ではないために、紙を見せられただけではわからない。だから解説を頼む。
「そうですね……。赤実さん、君は考えたことはないですか? どうして死者の魂は写真に写るのか? 写真とは、その場所を絵のように切り抜くもの。だから写るのは当たり前? いいえ、違うのです。物は光を反射しなければフィルムに焼き付かない。ということは霊も、その場所に存在しているということ……」
蛭児の専門分野は、心霊写真の分野だ。
「確かにおかしな話じゃな。目に見えないものがどうして写真には入り込むのか。普通ではあり得んことじゃ。そういう霊障なのかもしれん」
霊の魂がどうやってカメラに写り込むのか、そのメカニズムは未だに明らかになっていない。それを解明しようというのが、蛭児の研究。
「カメラが日本に上陸した時、こういう人がいましたよ。写真を撮ると、魂が抜き取られる、って」
だから、自分の写真を残さなかった人もいる。この話はただの迷信ではあるのだが、関係があるのかもしれないと蛭児は睨んでいる。
「だから霊も、フィルムに焼き付けられてしまう。可能性としてはあるのです。しかしながら……」
「その後も幽霊が健在の時もあるんじゃろう?」
彼のセリフを予想し赤実は言った。そして蛭児は頷いた。
「そうなのですよ。撮って終わりではないのです。その後も幽霊はその場に残り続ける。これでは先ほどの仮説が実証できないわけです……」
行き詰っている部分は、そこ。また、フィルムが関係しないデジタルカメラにも霊は写り込む。何ならビデオカメラにも映る。それも謎なのだ。
「これを見てみてください」
と、蛭児はとあるビデオテープを再生した。それは彼が持っている、幽霊が映っているものだ。研究のために神社に納められた物を、許可を取って拝借しているのである。映像は、一昔前の遊園地の光景を収めている。
「ああ、これは大変じゃな……」
見ただけで伝わってくる、この世ならざる瘴気。悪い霊が映り込んでいるのだ。その該当部分が流れると、もっと冷たい空気を感じる。被写体の子供の背後に、こちらを睨む赤い目をした女性の霊。悪霊だ。
「この遊園地を訪れた後、この子供は病気で亡くなったと聞きます」
「じゃあ死神じゃったのか、これ?」
「でしょうね。同日、一緒に撮られた写真がこちらです」
今度はアルバムから、一枚抜き取って見せる。被写体はさっきの映像と同じ子供で、顔の左半分が黒ずんでいる。
「守護霊が弱いのか?」
普通、守護霊が守ってくれているのは、人体の左半身と言われている。その半分が、ここまで変化しているとなると、
「その通りです。この子の守護霊は弱く、近寄って来た死神を退けることはできなかった。だから、残念な結果に……」
霊的な事件に巻き込まれやすくなるのだ。
「しかし蛭児、心霊写真は何も悪いものだけではないであろう?」
赤実は言う。よく、自分の体の一部が透けている写真がある。それは先祖の霊が、警告を出していると言われている。透けた部分に何かある、もしくはそこを怪我をするなどだ。
「この世には良い霊と悪い霊がいますからね。そうなってくると今度は、写真が魂を封じ込めているという考え自体が改められる必要性が出てきます」
ここで蛭児は、赤実に尋ねる。どうして心霊写真が撮れるのか、霊が写り込むその原理はどうなっているのか、を。だが彼女はこの分野に関しては素人で、守備範囲ではない。当然蛭児もそれは承知である。
「素人故に、面白い考えが飛び出すことだってありますよ。そこから研究が進むことも!」
拍子抜けな発想は特異点になりやすいから、意見を求めているのだ。
「ひょれ………どう、じゃな? かなり間抜けなことを言うが、写真自体がそもそも、目に映る光景を収めておるのではない、とかか?」
「と言うと?」
メモ帳を用意し、ペンを持って蛭児はそれを聞いた。
「写真や映像がとらえるものは、魂なんじゃきっと! 動物を写したのならそれは動物の魂で、物体なら物体の魂! だから、目には見えない幽霊も写る。魂だから、じゃ」
科学的に考えればこの赤実の考えは、間違っているどころの話ではない。全世界の写真家を敵に回す発言だ。でも蛭児は真面目にメモを取る。
「……なるほど、なるほど! 参考にしてみよう!」
「………恥ずかしいんじゃが……」
蛭児の話はここまでとし、今度は赤実が喋る番だ。
「前に紅華が電話で聞いておると思うが、改めて! そなた、慰霊碑が破壊された日にはどこにいた?」
「それですか……。確かに前にも言いましたよ? 私は最近研究の行き詰まりを感じて、つい酒を飲んでしまいましてね」
「何時から何時までじゃ?」
「夕食も食べたので、午後七時からだったと思います。こう見えて私、酒癖が悪いのでね、酔った時の記憶は全然。なのでいつごろ家に帰ったかは覚えていませんが……」
しかし、居酒屋の店主が記憶してくれている。日付が変わる頃まで飲んでいたらしい。
「となると、アリバイは証明可能か」
「いつもの店には防犯カメラもありますし、確認したと【神代】の方からも聞きましたが、君はまだ見ていないのですか?」
「その辺は大丈夫じゃ」
居酒屋の店員や客が、嘘を吐く理由がない。【神代】のことは基本的に一般人には知られていないし、犯罪紛いのことの手伝いなど、いくら金を積まれても協力するとはとても思えないからだ。それにその居酒屋も既に調査済みで、嘘はなかった。
「じゃあ次じゃ。この人物に覚えは?」
赤実は、四人の男女の写真を見せた。だがこれ、実は絵美のは本人のものだがそれ以外は全く関係ない人で、霊能力者ですらない。
(反応は……?)
きっと蛭児は、身に覚えがないと言うだろう。だが偽物の写真を見て、何か反応があるかもしれない。呼吸の頻度と速度、目の動きや汗のてかりも見逃さないつもりだ。
「う~ん? あいにくですが私は、こういう若い人とはあまり交流がないので………。四人いるとは聞いてましたが、彼らが犯人なのですか?」
「それを調査しておるのじゃ」
「だとしたら、私ではお役には立てそうにないですね………」
「もっとよく見ておくれ! 手に取って、さあ!」
少しでも時間を稼ぐ。
(絵美たちは蛭児のことを名指しした。ということは、何か、あるはずなんじゃ! でなければ名前を言うわけがない!)
しかし、蛭児の表情は動かない。呼吸も乱れず汗も出ない。
「………申し訳ないですね、何も……」
一枚ずつ手に取って見てもらったが、それでも何もなかった。
「そうか……」
「しかしどうして、私が関与を疑われているのです?」
「件の四人が、そなたに騙されたと言っておってな。何か関係があるのではないかと思ったんじゃ」
「そんなことが、知らない間に……」
「もう一つ聞きたいんじゃが、ここ最近に秋田県、千葉県、長崎県、高知県に訪れたことは? 他の県に行ったことは?」
「ない、ですかね……? 私は基本的にここで研究してますし。あ、第三回の【神代】の講演には行ったので、千葉はありますけど……」
十二月の話だ。あの時の講演会は赤実も聞いていたので、蛭児の発表があったことを覚えている。
「そんな前ではない……。ということは、関係なし、か……」
蛭児への事情聴取は、これで終わりだ。
帰る前に赤実は我儘をダメもとでお願いした。
「研究室を覗いていいか? 少し興味があって……」
「いいですよ」
二階がそうなっているらしく、赤実は蛭児の後をついて行って階段を登る。研究室には丁寧に鍵もついており、厳重な管理をしている様子だ。
「こんな感じです」
「わわ……」
まず驚いたのは、あまり整理整頓がなされていないこと。最初に蛭児が言ったように、本が机どころか床にもアンバランスに積み重ねられている。ダンボールも多く、まだ組み立てられていないのが散乱している有様だ。
「ここで毎日、頭を悩ませておるわけか」
「そうですよ。しかし、絶対に私が生きている間に、謎を解明してみせます!」
興味があるフリをして赤実は、研究室の内部を探った。何か証拠があるかもしれないと思っての行為だ。その時、心霊写真の山に隠れてとある写真が埋もれていた。
「これは?」
見たところ、幽霊が写っていない。それに心霊写真特有の霊気も感じない。ただの写真ゆえに、怪しい。
「ああ、これはどこかでもらった……。場所は何て言ってましたっけね、呪いの谷、だそうです」
「呪いの谷?」
聞きなれない単語に思わず聞き返す赤実。
「日本のどこかにあると言われているんですよ。そこにはおぞましい幽霊が潜む、と。足を踏み入れたが最後、生きては帰れない……」
どうしてそんな場所の写真があるのか、赤実は、
「霊能力者ゆえにそういう場所のお祓いを頼まれた、というわけじゃな?」
「察しがいいですね」
見抜く。同時に、
「代わりにわたいら皇の四つ子がやっておこうか? その除霊。言っておくがわたいらには、不可能はないぞ?」
「結構ですよ。今時そんな場所が日本にあると思いますか? 国土地理院に怒られますよ? そんな冗談を鵜呑みにしては……」
本気にしていないから、気にしなくていいと言われる。赤実も追求はやめた。
「うむ、参考になった!」
一通り見学を終えた赤実は美田園家を後にし、テープレコーダーをオフにしてスマートフォンを取り出し電話をかける。
「もしもし。わたいじゃ、赤実じゃ。今、蛭児の事情聴取が終わった。嘘は何も感じなかったぞ、特には何も。やはり四人が嘘を吐いておるのでは?」
赤実は理解した。蛭児は自分の無実を簡単に証明できると。