第8話 救出作戦 その2

文字数 3,609文字

「手短に済ませましょう。その方が面倒ではないです。そう思いませんか?」
「お望み通りにしてやるぜ!」

 すると、ガガの方が先に動いた。やはり予想通りの電霊放で、おもちゃの銃が雷を発射したのだ。

「うおおお!」

 でもここは、電霊放のスペシャリストである紫電。軌道を予測して避けることは難しくない。逆にロッドの先端を彼女へ向け、電霊放を叩き込む。

「ん?」

 この時、何とザビがガガの前に出て盾になろうとしたのだ。別にこの行為自体は何も疑うべきことではない。そういう戦術なのだろうし、ザビの方には攻める手段がないのでガガを守ろうとしているのかもしれない。
 だが、その行為の中で明らかに不自然な動きがザビにはあった。彼は持っていたロザリオを突き出したのだ。そして十字架に電霊放が当たる。

「うおおおおおおあああ!」

 瞬時に紫電の体に、電撃が流されたかのような衝撃が伝わった。

「どうだ、自分のファントムフェノメノンにやられる気分は? このカースマジック、ナンジに避ける術はない!」
「じ、呪縛かよ……。お前の霊障、パッと見では気づけなかったぜ………」

 日本では呪縛を使う時、通常藁人形を用いる。どうしてそうなっているのか起源は不明だが、それが一番効率が良いことを霊能力者は知っているのだ。だがそれは国内だけの話。海の向こうで呪縛を使うのなら、呪いの依代となるものはロザリオなどでも良いらしい。

(油断した! あのロザリオにはもう攻撃できねえ! 今みたいに電霊放の威力がそっくりそのまま俺に跳ね返ってくる!)

 衝撃でふらつく足取り。そこにガガが突っ込んでくる。

「さっさと終わりにしてしまいましょう。メタリックジェネラルで……!」

 もう片方の手に、突然バールが出現する。

(女の方の霊障は、機傀も!)

 何とか立とうとする紫電だが、何故か足に力が入らない。電霊放の影響だろうか?

「ええい!」

 ガガは容赦なくバールを振る。しかし紫電はこれを、あえて足を崩して地面に落ちることで避けた。

「防戦一方ですか? 追い詰められている証拠ですよね? そう思いませんか?」
「うるせえぞ、黙ってな……」

 威勢よく返事したのはいい。だがまたどうしてか、立ち上がれない。

(何だ? 頭がボーっとする……? 眠気か? 眠いのか、俺は?)

 体調不良だろうか? 紫電はそう考えた。
 だがこれにはカラクリがあるのだ。

(もう終わりだ。ナンジの方から地面に這いつくばってるんだ。ワレはそれを利用させてもらっている。パラライズフェイズなのだ)

 触れた相手を病気にする、毒の霊障・毒厄。ザビはそれを呪縛の依り代であるロザリオに使っている。その病気は紫電へ向かうため、今彼は原因不明の睡魔に襲われているのだ。

「もう立てませんか? では、一撃! 安心してくださいな、命を取ることはしませんので」

 そう言って腕を振り上げるガガ。狙いは腰か脚だ。機動力を削ってしまえば、紫電はもう満足に戦えなくなるという算段。

(ま、マズい………!)

 起きなければやられる。しかし眠気が邪魔で、起きれない。
 その時に紫電が取った行動は、一つ。何と自分のこめかみにダウジングロッドの先端を当て、電霊放を撃ったのである。

「え…?」

 流石のガガも一瞬手が止まる。

「馬鹿な……?」

 隣にいたザビも驚いて声を漏らすが、これは紫電の奇行に引いているのではない。

(まさかコイツ、もうパラライズフェイズを見切ったのか? 自分の頭に電流を流してそのショックで意識を覚醒させやがった……?)

 毒厄に気づかれたと感じたからだ。

「う、うおお!」

 電霊放の威力は抑えたが、それでも紫電の鈍くなった脳を叩き起こすには十分だった。

「何をしているガガ! 早くやれ!」
「わ、わかりました……」

 止まっていた腕を振り下ろそうとする彼女。しかし、

「そうじゃない! こっちに戻ってこのロザリオを攻撃するん………」

 しかしその忠告は遅かった。

「うおおおおりゃあああああ!」

 瞬時に紫電は体を起こした。迫りくるバールを、ダウジングロッドを交差させて防ぐ。そして逆に電霊放を直に流し込む。金属は電気を通すので、それを握っているガガは、

「ビビャビャビャビャ……!」

 当然痺れる。

「そう……してきますか! ではアタチも!」

 もう機傀には頼らない。同じ電霊放使い同士、これで決着をつけるのだ。ガガはバールを放すと二、三メートル後ろに下がって、おもちゃの銃を構えた。それに対し紫電も片方、ダウジングロッドを構える。

「いくぜ、電霊放!」
「シャドープラズマ! ええいぃ!」

 解き放たれた二つの稲妻は激しくぶつかり、その光で周囲が明るく照らされる。

「おい、シデン……。ナンジと同じ名前の飛行機があるらしいじゃないか、この日本には」

 唐突に何かを語り出すザビ。

「しかし日本人は狂った考え方の持ち主だ。戦時中、戦闘機に乗って敵艦に体当たり! 当然パイロットの命はない。どんな気分だ? そんな呪われた名前を付けられて?」

 これは精神攻撃だ。少しでもガガを有利にするため、動揺を誘っているのだ。

「それがどうかしたか?」

 だが、その攻撃に紫電は動じない。

「俺は自分の名前、悩んだことはねえ。確かに家柄、そういう名前を付けられるがそれだけだ。お前たちは俺も戦闘機の紫電と同じように、自分を顧みずに無茶をするヤツ、って思ってんのかもな。だが、そんなのは名前に対する偏見でしかねえぜ。名前で人生は決まらねえんだ!」

 逆に精神的に優位に立った紫電はそのまま電霊放の押し合いに勝ち、ガガを吹き飛ばした。

「きゃああああ!」
「大丈夫か、ガガ!」

 すぐにそっちに駆け寄ろうとするザビだったが、

「おっと、動くな! 今俺のロッドがお前に向けられている! 動けば電霊放を撃つ! さっきお前の動きは見たから、今度はそのロザリオを避けて体に命中させる」
「ほう、やけに自信たっぷりだな?」

 ザビはロザリオを握っているが、毒厄は使ってない。きっとそれをすれば目で見えなくても感覚で使われたことが察せられ、撃ち込まれる。きっと少し力を込めただけでも撃たれる。

 両者、黙る。沈黙がこの場を支配した。
 突然ザビはロザリオを紫電に投げつけた。

「お、おい……!」

 それを上手くキャッチする紫電。呪縛を使う場合、呪いの依り代は手で持っていないといけないので、ザビが自ら呪縛を放棄した形だ。

「ナンジに話がある! 交渉だ」
「何だ?」
「ギルとゼブを解放しろ! そうすればワレとガガはここから去り、二度とこの寺院を襲わない! だがそれができないのなら、ガガもワレもここへの攻撃をやめない。寧ろ仲間を招いて一斉にする。どうだ?」

 悪くはない条件。しかし問題は、本当に信用できるかどうか。

(とか言って、いざ解放したら四対一になったりしねえだろうな? しかし……)

 一度、ザビから視線を逸らした。ガガはまだ気を失っているようだが、いつ起きるかわからない。もし目覚めたら、きっとまた戦闘に移るつもりだろう。電霊放同士の撃ち合いなら負けないが、機傀で巧みに攻め込まれたら一人では対処できそうにない。
 向かい合うザビは、紫電のことを騙そうとは考えていない。仲間の奪還だけが目的だし、そもそも騙し討ちなんかで紫電に勝てるとも思えない。それに頷くのなら本当にここにはもう近づかないし、首を横に振ったのならディスとジオを呼んで叩き潰すだけのこと。

(どっちに転んでも、ワレらには損はない)

 紫電は彼に視線を戻すと、ダウジングロッドを下げた。

「わかった。その条件、受け入れよう」


 紫電は言われた通り二人を解放した。

「ベー! もう二度と来てやんねえからオマエの寺! ばっちぃ罰当たり!」
「やっと外の空気が吸えるねぇ。もみじ饅頭買って帰ろうかぁ」

 ギルとゼブは、ガガとザビと合流。

(どうなる? 約束通りに、なるか……?)

 一応紫電の横には道雄と勇悦がいる。
 四人は紫電たちに背を向け、海神寺から出て行った。ちゃんと約束通りだ。念のためそのあと一キロほど四人を尾行したが、誰も戻って来るような素振りを見せない。

「ふ、ふう……」

 海神寺に戻って来た紫電は肩をなでおろした。

「よかったんか、これで?」

 道雄が言う。

「いいのさ。戦う意思を捨てた相手に、無理を言わせる気はねえよ。それにお前らもあの二人をいつまでも抱えているわけにはいかねえだろう?」

 ギルたちの仲間は救出を諦めないだろうし、そうなると海神寺の平和がずっと脅かされ続けることになる。これは不利益と紫電は判断し、解放したのだ。

「そうやな。いつまでもいられると邪魔や、新しい女の子が入ってけぇへん」

 紫電はすぐにこのことを【神代】に報告。勝手な行為を咎められると思ったが、

「問題はない。日本に居残られても迷惑だ」

 重之助の意見は紫電と同じだった。【神代】は【UON】と交渉なぞする気がなく、捕虜もいらないのだ。
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