第1話 大会開催 その3

文字数 3,979文字

 ちょうどこの辺りで、正午を迎えた。すると海の方で打ち上げ花火がババーンと上がった。

「何事?」

 みんなの視線が海に向けられる。一隻のフェリーがそこにあって、そのバルコニーに人がいる。

「あれは……富嶽さん?」

 間違いない。どうやら船の上から挨拶をするらしい。マイクを握り、スピーカーをセットすると、

「ようこそ、霊能力者諸君! 今日ここに来たということは、霊能力者大会に参加するということ!」

 その通り。ここにいる誰もが優勝の夢を見ている。

「今から開催の挨拶を行う! その後に陸の方にある仮設テントで出場登録をしてくれ!」

 騒がしかった古戦場が、一気に静かになる。みんな富嶽の話に集中するのだ、誰も何も呟かない。

「このレースの細かいルール、それを発表する! 聞き取れなかった場合に備え、今からデータベースにもファイルをアップロードする。そっちで確認してもらっても構わん」

 この日まで秘密にされていた、レースの概要。それは、

「諸君らには、青森の三内丸山遺跡を目指してもらう! そこがこのレースのゴール! 一番にそこに到達できた者、その者のチームが優勝だ!」

 だがそこに至るまでに課題がある。それは、

「だが、ただそこに行けばいいのではない! 出場登録時に配る三十四ページの手帳に、御朱印を入れるのだ! それは各都府県を回った証拠! これがなければ、優勝資格はない!」

 その寺院や寺は、各県に一つではない。もしそうなると、みんなが同じ方へ向かって、今日中にサバイバルが発生し青森に着く前に終わってしまう。それを避けるために、各県の四つの寺院や神社、教会をチェックポイントとして【神代】側でピックアップ。その四つの内、一つを回る。こうすれば出場者の密集を避けることが可能だ。

「移動手段は問わん! 誰よりも早くゴールを目指し、ライバルたちを蹴落とせ! 己の強さを証明しろ!」

 ここで、勝負に関するルール説明。参加者は登録時に、決闘の杯を飲むことになる。これは死を一度だけ肩代わりしてくれるものだ。この大会期間中のみ効力があるよう、調合した。その酒を飲んでいれば、全力で戦っても相手を殺す必要はないし、脱落もわかりやすい。ちなみに脱落した者は大会に続投することは不可能で、それはルール違反でチームごと失格だ。

「霊能力者諸君! 勝ちたいか!」
「おおー!」
「優勝したいか!」
「うおおおおおおー!」

 熱気が三月の寒さを消す。盛り上がったら最後に、

「では諸君! この大会は今日の午後六時からスタートだ! その時間になると専用のデータベースに、どの神社寺院教会に行けばいいのかがわかる! 登録を済ませたら、早めに散らばった方がいいかもな。健闘を祈っておるぞ!」
「うおおおおおお! 富嶽万歳ぃいいいい!」

 開催の挨拶はこれで終了だ。仮設テントに【神代】の係員が来て、

「では、出場する方々はこちらで登録をお願いします! 今日の午後六時までです!」

 受付を開始した。当然人が殺到。

「今は混んでるね。もうちょっと待った方がいいかも……」

 緑祁たちはこの混雑を避けるために、一旦近場のカフェで時間を潰すことに。

「登録用紙に生年月日と名前の記載をお願いします。あと、身分証明書も提示してください」
「ほい」

 西鳥空蝉は免許証を見せ、名前と誕生日を紙に記入。

「チームのみなさんも記入してください」
「わかったでござる」

 東花琥珀、南風冥佳、北月向日葵も言われた通りにする。その際、紙コップに注がれた白い酒を手渡された。

「では、決闘の杯です。苦味はありませんし、アルコール度数はかなり控え目ですので酔いません。今ここで飲んでください」

 一口分しかないが、効果はてきめんだ。飲んだだけで、セーフティガードがかかったことがわかる。

「それと御朱印帳を一人一冊、です。紛失した際に再発行はできませんので、大事に保管しながら移動してください。御朱印をもらう際に毎回、出場者の名前と場所を係員が記載します。表紙に名前をここで、筆ペンでお書きください。他のチームの手帳を奪うこと・攻撃することは反則です。交換もできません」
「厳しいわね」
「ですが、どこから攻略しても構いません」
「どういうこと?」
「必ずしもこの山口のチェックポイントに最初に訪れる必要はない、ということです。後回しにして先に広島や島根に行っても構いません。最終的に全てのページに御朱印を入れた手帳を、三内丸山遺跡で提出するのが優勝条件ですので」

 となると、自分たちなりのルートを決める必要がある。当然他の霊能力者と遭遇することは危険。だが、チェックポイントを通過しないといけないために、避けられない場合が出てくる。
 そうなったら、戦って相手を打ち負かせてしまえばいいのである。

「脱落した場合もしくは棄権した場合ですが、【神代】への報告は不要です。決闘の杯の大本が、各霊能力者とリンクしてますので敗北はこちらに自動的に伝わります。御朱印をもらった際も係員がチェックしてますので報告はいりません。勝手に順位表に反映されます」
「まあ拙者たちが負けるとは思えんでござるな!」

 こんな感じで大会登録は順調に進む。
 だが、

「どうして未成年が出場できないのか、教えて欲しいですぜ!」

 クレーマーがいるらしい。

「不公平じゃないですかい?」
「ええと……」

 係員では話にならなさそうである。それを見かねた比叡山絹子が、

黄昏(たそがれ)窓香(まどか)さん、よね?」
「はいですぜ」
「まだ高校生のあなたが決闘の杯を飲める? 飲酒になっちゃうけど? 日本の法律を【神代】が犯すわけにはいかないの。だから今回は諦めて」
「ぐぬぬ……。そうなると無理ですな…………」

【神代】としては彼女のような人にも出場の機会を与えたかった。しかし決闘の杯はどうしても調合にアルコールが必要で、法律で禁じられている未成年には飲ませられないので諦めることに。
 この酒がないと、【神代】側も誰が勝ち残ってて誰が負けたのかを把握しづらい。だから飲めない場合は参加を認めていないのだ。

「ここまで来た記念に、命繋ぎの数珠をあげるから。第二回以降は参加、待ってます」
「それはいつですかい?」
「まだ第一回が終わってないから、未定!」

 窓香は潔く諦め、帰路に就く。

「登録、いいか?」
「はい、どうぞ。ってあなたたちは……」

 絹子は驚いた。目の前にいる三人組、それは俱蘭辻神、田柄彭侯、手杉山姫だ。【神代】で二月、話題になった人物たち。

「許可が出たの?」
「ああ。私たちの出場について富嶽さんにも聞いたが、心地よく許可してくれた」

 辻神たちの目標は、優勝ではない。【神代】の目的である、霊能力者の鍛錬を促すことだ。それが【神代】のためになると思っての出場。ちなみに富嶽に聞いたが、普通に優勝しても問題はないらしい。

「【神代】への背反行為をしたのはさ、確かに悪かったよ。でもそれとこの大会は関係ないもんな? オレたちだってやってやるぜ!」
「ぼくたちに勝てないようなへっぽこは、片っ端から脱落させてやるヨ!」

 富嶽が許可したのなら、絹子が参加を拒否することは不可能だ。

「そう。ならこの用紙に必要事項を書いて身分証を……」


 二時間が経った。ちょうど人混みはなくなっている。

「今、行こう」

 緑祁たちはやっと大会の出場登録をする。

「そなたたち、まさかチームを組んでおるのか?」

 受付の係員は皇の四つ子の長女、皇緋寒だった。彼女は緑祁と紫電のライバル関係を知っているために、これに驚きを隠せない。

「うん。この大会のために、一致団結したんだ。もう優勝する気満々さ」
「果たしてそうかな?」
「どういうこと?」

 緋寒は腕時計を見せ、六を指差した。

「この受付の係が終わったら、わちきたちも出場登録をして大会に出るのじゃ」
「な、何だって!」

 四人に衝撃が走った。

「係員でしょ、そちらは? 出場登資格があるの?」
「当たり前じゃ。ちゃんと【神代】の方に断ってあるから、何も問題はない。今日の受付の時に、不正を働く者がいないかどうかを見たら、あとは自由! もちろんわちきたちは四つ子で参加する!」

 実際に手合わせしたことはないため、皇の四つ子の強さは不明瞭。だが【神代】から監視役を任されるような人物が、弱いわけがない。

「んむむ、バッタリ遭遇したら、覚悟するんじゃな」

 どうやらこの大会、簡単ではないらしい。

「まいったな。皇の四つ子が出るんじゃ、かなり厳しそうだ……」

 若干ナーバスになりつつある緑祁に対し、香恵は、

「その時は、生き残る方法を優先しましょう。必ずしも遭遇したら勝負ってわけじゃないはずだわ」

 とフォローする。
 用紙に必要事項を記載している時、緑祁は紫電の誕生日を目にした。

(ええっ! 紫電って僕より八か月も速く生まれてるのか!)

 大晦日生まれの緑祁にとってそれは少し羨ましい。というのも彼の小学校では何故か出席番号が五十音順ではなく誕生日順だったために、六年間後ろの方だったからだ。四月生まれの紫電は間違いなく一桁。
 緑祁たちの登録は終わった。すると紫電は、

「よーし! じゃあ目的地が発表される六時まで、カフェで作戦会議だ! 場所はそうだな……新下関駅で!」

 移動が便利なところを選ぶ。そこなら発表された場所に、豊富な交通手段で移動できるはずだ。

「電車が駄目ならタクシーはどう、紫電?」
「待って雪女、私たちそんなに財布が肥えてないわ」
「心配はいらねえ。四人分くらい俺が全部出せる」

 紫電の財布は大きく、金銭面の心配は必要ない、とのこと。

(いよいよ始まる……! 今日の夕方に、発表されるんだ……!)

 緑祁はタブレット端末を開いて専用のデータベースが更新されるのを待った。


 霊能力者たちは山口で、運命の午後六時が過ぎるのを待つ。
 はたして、誰が優勝するのだろうか?
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