第3話 ガチ
文字数 1,638文字
円陣組む騎士らが子鬼に混じって石の棍棒振り回すトロールに苦戦しているのを助けるノッチ・ライハラは、守護する少女がこの妖魔族一群のリーダーの一体とぶつかり合っているのを横目で見た。
アイリは難なく岩石戦士ヴァロの攻撃を躱している。
まだしばらく手出し無用だと青竜は思った。
一方アイリは相手する魔人が見てくれよりも遥かに動きがよくしかも振り回す岩の棍棒の一撃がかなり重く、一発食らうと身動きできなくなると躱す方に集中し、合間あいまに打ち込むアイリの刃は頑強な岩石戦士には刃が立たずアイリの手数に妖魔族一団のリーダーは先読みし始めていた。
素早いステップで後退さりため息を吐いた寸秒、横様に振り回された棍棒を鼻先で躱したアイリ・ライハラは段々と逃げが間に合わなくなっていることに気づいていた。
あ! そうだ。
アイリは魔女ミルヤミ・キルシが操っていた岩石戦士の弱点をふと思いだした。
どんなに頑丈な躰していても鍛えられない場所が動くものにはある。
関節の裏側を狙うんだ。
青髪の少女は急激に大きな弧を描きヴァロの横へ回り込みながら間合いを詰め低く背後に引いた刃を恐ろしい速さで石人の膝裏の曲がる部分へ振り抜いた。
硬質の爆音が響き渡り、アイリが顔を強ばらせると眼の前に地面に突き立てた岩の棍棒があり、少女の振りだした長剣が食い止められていた。
やべぇ! 次が来るぞ!
そう思った刹那横から唸る棍棒の残像が迫るのが見えて、アイリはとっさに石棒を地面に突き立てた魔人の左腕を駆け上り、ゴーレムの赤い片目に切っ先を打ち込み頭を空転して下に見ながら飛び越し肩を蹴り跳び離れた。
間合い取り地面に飛び下りたアイリが半身振り向き岩石戦士の片目を潰せたかと確認しようとしてぎょっとなった。
邪悪な赤い双眼を見開いて図体の大きな魔人が似合わぬ勢いつけ石棒を振り上げ間合いの殆どを踏み込み終わっていた。
その頭上からの爆速の一撃をギリギリで躱したアイリは武器振り下ろした相手の二の腕を斬り込み複雑なステップで駒のように回転し横へ移動しながらふと気づいた。
膝裏を狙われたのをこいつは棍棒で守ったのだ。
やっぱり動き曲がる部分が弱いじゃん!
寸秒、アイリは長剣振り上げ岩石戦士ヴァロの片腕の脇へと刃打ち込んだ。
あ!?
ごいんと大きな音がして眼が点になった。
打ち上げた刃が脇に挟まれている! 眉根しかめて引き戻そうとしたがまったく動かずじたばたしているところへ岩石戦士は逆の腕を曲げてアイリへ石棒を叩き込んだ。
剣手放して飛び退いたアイリだったが、岩石戦士は腕を開いて長剣を地面に落とすとそれを踏みつけてしまった。
こいつ剣を取り返せないようにと──アイリは唇を歪めたがすぐににやついて魔物を嘲った。
「お前そこから動けないじゃん!」
だが少女は無表情になり自分も武器がなく手出しできないことに気がつき小鼻をひくつかせた。
いきなり岩石戦士は振りかぶると手持ちの石棒をアイリへと強速で投げつけた。
アイリが飛び上がった下の地面に石の棍棒が斜めに突き刺さりその横にアイリは飛び下りた。
「お前マジ馬鹿じゃん──相手に武器渡してどうするんだぁ」
そう言い放ち地面に斜めに突き刺さった馬の首ほども太さのある石の棍棒を小脇に抱え引き抜こうと力を入れた。
まったく動かずアイリは小鼻膨らませがに股になり腰を入れて石棒を抜こうと頑張った。
「無駄だ小娘! それを人間が振り回せぬ!」
ヴァロに言われ頑張っても少女は無理だと気がついたが、それを魔物に知られるのも癪で石棒に上下から両腕回し込んで顳顬に青筋浮かべ思いっきり力んだ。
突如、魔物の武具刺さった地面に罅が走りアイリが抱き込んだ棒の端が持ち上がって岩石戦士ヴァロが赤目を丸くした直後、少女は土中から自分の身長よりも長く重い岩の棍棒を引き抜いて振り上げ妖魔群を率いる岩石戦士ヴァロに振り向いて宣言した。
「さぁ! 殴り合おうじゃん!」
ああ、脚が────震える。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)