第25話 あれも私これも私

文字数 1,874文字

 迷いの森で手分けして銀眼の魔女を探そうとしたが、(みな)がばらばらになり迷子になるのがオチだったので徒党を組んでうろうろと探した。

 迷いの森には夜がなく始終薄明の明るさで霧が垂れ込めている。

 だからどこをどう歩いているのかわからなくなる。陽が昇ったり星空でも見えれば歩く方向を見当づけすることもできるのだろうが、カローンとアイリ以外は周り見渡すばかりであてどもなく歩こうとする。

「銀眼の魔女を見かけたのは本当にこっちだったのかよ?」

 アイリはヘルカとテレーゼに問いかけた。

 2人はてんで違う向きを指さした。

 アイリ・ライハラはムスッとなると一人ごちた。

「まさかミエリッキ・キルシの名を大声で呼ぶわけにもゆかないし」

 するとイルミ・ランタサルが問いただした。

「アイリ、どうしてあの魔女を連れ帰るのです? このまま死なせておけばいいものを」

「だってさぁ、あいつ分身したじゃん。分身を蘇らせて味方につけたら銀眼の魔女を倒しやすいかなぁ────と思ったわけ」

 いきなりテレーゼがアイリの腕を引っ張り耳打ちした。

「ほらアイリ! 左の方に!」

 アイリが振り向くと白髪で白装束の何ものかが、霧に吸い込まれそうな距離にいた。

 素早くアイリは駆け追いつくとその白髪の女らしい何ものかの肩に手をかけ名を呼んだ。

「ミエリッキ・キルシか!?」

 何が起きても対応できるように帯刀のグリップに手をかけていた。


 振り向いた女は見紛(みまご)うことなき銀眼の魔女だった。


「どなたです?」

「名前教えても知るわけじゃないよな。だけど俺っちの顔は覚えているだろう?」

 銀眼の魔女は小首かしげ問い返してきた。

「ごめんなさい。覚えはないわ」

 こいつ本当に銀眼の魔女かとアイリ・ライハラは不思議に思った。しゃべり方もごく普通で、変な笑みも見せない。

「お前、銀眼の魔女だろ」

 その名前に驚いたのか女は片手で口元を隠し目を丸くした。

「どうしてその名を────!?」

 こいつすっとぼけてるのかと少女は思いミエリッキ・キルシに問いただした。

「お前こそ銀眼の魔女じゃないのか!?」

 だが女は(かぶり)振った。

「私はこの霧の森に迷い込んで数百年彷徨(さまよ)い続けているの。そのずっと昔に後から彷徨(さまよ)い込んだ別の私らしい人がその名を口に────」

「ちょ、ちょっと待てよ! お前に似た奴ってそいつも銀眼で白い髪の毛の長髪なのか?」

「ええ、ここには鏡もないから人から聞いた容姿でしか自分がわからないから」

 アイリ・ライハラはミエリッキ・キルシの腕をつかみ命じた。

「ミエリッキ、俺っちの仲間のとこへ行こう。(みんな)色々とお前に聞きたいことがあるから」

 アイリがそう告げると(あらが)うこともなくミエリッキ・キルシは遠巻きで見ていたイルミらの元へついてきた。

(みんな)、こいつやっぱりミエリッキ・キルシだ。それにこの迷いの森に他にもいるらしい」

 それを聞いてイルミらは驚いた顔を見合わせた。

「ミエリッキさん、貴女(あなた)誰に殺されたの?」

 まずイルミ・ランタサルが銀眼の魔女に(たず)ねるとミエリッキ・キルシは右手の人さし指を下唇に当て小首傾げた。

「ずっと昔に私にそっくりの女に──でも数百年も前だから正確かどうか怪しいわ」

 数百年いるという話しにイルミがあからさまに眉根しかめたのをアイリは気づいた。

「アイリ、この迷いの森でお腹すいいたり、眠くなったりしないの?」

 アイリはちょっと考え込んでイルミ王妃(おうひ)に応えた。

「そういや、ないなぁ。ここから出ることをいつも先にしていたから気づかなかったよ」

「エミリッキさん、この森に他にも貴女(あなた)がいるってどういうこと?」

「さあ? でも同時に5人の私に会ったこともあるから沢山いるんじゃないかしら」

 その話を聞いてイルミは苦悩の河(アケローン)河守(かわもり)のカローンに問うた。

「カローンさん、この人が5人もいるってご存知?」

 カローンは空を見上げ思いだそうとしてイルミに答えた。

(わし)が知ってるだけでこいつは20人ぐらいいるかな」

 イルミ・ランタサルが鼻筋に(しわ)を刻んだので20人いるっていうことに驚いたのだとアイリは思った。

「エミリッキさん、貴女(あなた)魔法使ったり、どこでも好きな場所に──出入り口作って出入りできるの?」

 銀眼の魔女が(かぶり)振った。

「魔法なんて────(みな)さん何を勘違いなさってるの?」

 ミエリッキ・キルシが魔法使いじゃないと言い張りアイリ・ライハラは王妃(おうひ)(たず)ねた。


「で、どうするよ? 他のこいつも探して聞いてみる?」



 イルミ・ランタサルが(うなづ)いたのでアイリはめんどくさそうな顔で舌打ちした。




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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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