第10話 つながり

文字数 2,221文字


「ねぇ、ねぇ、アイリ、あなたはどうしてそこまで強くなれたの?」

 城下の大通りをアイリ・ライハラの横に並んでイルミ王女が興味深げに尋ねた。

「ああ、それはだな────」

 言いかけ口ごもった少女は話題を変えた。

「あのヨエルって奴は何ものなんだぁ? あんたに向けられた殺気をびしびし感じたぞ」

「彼は騎士団の1人よ」



「ぁ、ああ!? あ!! 騎士団だぁ!?」



 いきなり立ち止まりアイリが大声を上げると辺りをすれ違う町人が驚いて振り向いた。

「ちょっと、アイリ、声が大きすぎますことよ」

「きっ、騎士団って、王様やあんたを命懸けて護るもんだぁろ?」

 少女はイルミ王女の顔を指差し詰め寄ると詰問(きつもん)した。

「おおかた、誰かに(そそのか)されたのでしょう。彼らの中には忠誠心薄れるものもいるのです。それもこれも父が病に()せるようになったのちわたくしがいたらないからです」

 素直に認められアイリは問い詰める気を失してしまい王女の手をつかんで歩き始めた。

「イルミ、知っていて何にもしないのか?」

 少女は横目でイルミ王女を見つめやんわりと尋ねると、彼女がいきなり笑い声を上げた。

「ほほほ、してますとも──してるのよアイリ」

 そう告げイルミ王女は少女がつかむ手へ逆の手を伸ばし少女の小さな手に重ねた。

「あんた──まさか──」

 アイリは口をあんぐりと開き覚束(おぼつか)ない足取りになって王女の顔をまじまじと見つめると、視線の先でイルミ・ランタサルが少女にとびっきりの笑顔を返した。

「わ、わた、私を騎士団の当て馬にするつもりかぁ!?」

 こくこくと(うなづ)く王女の手を振り解こうと、少女は押さえられた自分の手をぶんぶん振り回し始めた。



「ぶつけるのでなく──アイリ・ライハラ、あなたが騎士団の(かなめ)となりまとめて頂きます──先々(さきざき)



 アイリはしっかりと握る王女の手を振り解こうと暴れだした。

「てっ、てめぇ! 近衛兵副長だ、騎士団まとめろだぁ、頼む相手間違ってるだろうがぁ!」

 振り解けない王女の指に少女は顔をひきつらせて彼女から離れようと手を引っ張った。

「アイリ、あなたはもうわたくしの術中にあるのよ」



「じゅ、術中!? おまえ──ま、ま、魔女なのかぁ!?」



「ほ~ら、ほ~ら、アイリ・ライハラ、あなたはわたくしを護りたくて、ど・う・し・よ・う・も・な・い」

 妖しく微笑む王女の顔に恐ろしいほどの自信を感じとり少女は父親の言葉を思いだした。



『アイリ、(おび)えすくみ受け入れ難い運命を押しつけられることは絶対にあってはならないんだよ』



「てめぇ! 王女! そんなことないぞ! あんたが襲われてもぜってぃ助けないからな!」

 じたばたと足掻(あが)きながらアイリが怒鳴ると、イルミ王女がさらりと言い切った。

「ほら、これが──」

 王女の華奢(きゃしゃ)な手にどうしてこれほど力があるのだとアイリは混乱していた。

「──あなたとわたくしの(きずな)の強さなのよ」



 手の甲を(おお)う王女の指が妖しく(うごめ)かされ少女は髪の毛まで逆立て鳥肌になった。



 突然、王女は少女の手のひらへ指を移し握りしめ先導して歩き始めた。

「アイリ、あなたは(みずか)らわたくしの授ける()く靴を受け取ったわ。それはあなたがわたくしとの道を歩むため。さらにあなたが我がディルシアクト城において平民と(さげす)まされないよう、しかるべき衣装を選びましょう」

「ま、まて、王女、わたし──帰るから──家に帰るから──」

 王女は露天商でなく一軒の店の前で歩みを止め彼女の背中にアイリはぶつかって脚を止めた。そうして少女は顔を振るとその店のガラス窓の越しに飾られた服を眼にして顔を強ばらせた。



 (きら)びやかなドレスばかりが並んでいた。



「おっ、王女、おまえ私にあのテントみたく広がったスカートの服を──」

「ここは王室御用達の衣装職人の店。アイリ、()じないで。あなたに選ぶ権利を与えます」

 そう告げイルミ王女はなかば引き()るようにアイリを連れ店の扉を開いた。



「てぇめぇ、殺すぞ! ひぇ、助けて!」

 十数秒後、いきなり店のドアが乱暴に開き可愛らしいドレスを着たままのアイリが(わめ)きながら外に出ようとして後ろに振った腕をつかまれ引き()り戻された。



「やめてぇ~! いやだいやだいやだ!」

 十数秒後、またいきなり店のドアが乱暴に開きドアの倍の幅のフリルだらけスカートを穿()いたままのアイリが(わめ)きながら外に出ようとしてスカートの後ろをつかまれ数段の階段にうつ伏せに倒れ引き()り戻された。



「うれしいなぁったら、嬉しいなぁ」

 十数分後、突如(とつじょ)店のドアが乱暴に開き深緑の()ぢんまりとしたベルベット・ワンピースを着たアイリがにこやかに外へスキップで出て来ると、髪を乱したイルミ王女がよたよたと追うように出てきて片手を少女に()ばした。





「待ちな──さい──アイリ・ライハラ──帽子を──買いにぃ──」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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