第20話 希望の光り
文字数 1,808文字
ヒルダ・ヌルメラが止めに入ろうとした矢先、しゃがんでいたアイリ・ライハラは長剣 を引き抜くなりすさまじい勢いです跳び上がってしまった。
緋熊 が殺 られるのは傍観 したのになぜ山羊 にこだわるとヒルダは青ざめた。
空中高くアイリは剣 の数振りでまず子どもの山羊 を縛り上げた触手を切り離した。
そして少女は空転し親の山羊 の後足を吊 し上げた触手へ剣 を振り切った。だが届かず飛び上がった勢いなくしアイリは堕ち始めると、下にうねっている触手を蹴り二度跳び上がり山羊 の前後の足首に絡まる触手を両断した。山羊 の親が落ちた直後だった。
アイリ・ライハラへ四方上下の闇から一斉に斬られなかったミルヤミ・キルシの触手が襲いかかった。
まるでアイリが跳び上がった勢いなくすのを待っていたように次から次に触手が勢いつけ伸びてくると群青の耀 きが途切れとぎれになり数条の光りを最後に空中のアイリ・ライハラの耀 きが闇に飲み込まれた。
見上げていたヒルダ・ヌルメラは半月刀 を抜いたものの届かぬ高さで顔を強ばらせ歯ぎしりした。
あの緋熊 のように皮膚を剥 がれアイリ・ライハラは肉を貪 られ骨も殆 ど残らずに捨てられる!
空中の触足に捕らえられた恩師をどうすることもできぬとも、その本体────臓腑の塊 になったミルヤミ・キルシの成りの果てを殺すことはできると、蛮族の女総大将は地上に視線を振り下ろし闇の先にいる貪欲な魔女に振り向いて剣 を構えた。
自分もあの触足の集団に捕まり皮剥 がれ貪 られると三白眼で闇の先にいる怪物を睨みつけながら顳顬 から一筋の冷や汗を流し落とす。
それでもミルヤミ・キルシ本体に一撃を加えれば、捕らえられたアイリ殿が逃げだすチャンスになるやも知れぬとヒルダは脚を踏みだした。
アイリのいなくなった今、辺りは星明かりも頼りなく殆 ど岩の輪郭も見えぬほど闇に包まれていた。
その暗がりの先からびちゃびちゃと不穏な音が聞こえ出す。
嫌 らしい赤い魔石の耀 きがぽつんと見え近づくにつれ大きさを増す。
その紅い光点を中央にゆらゆらと小屋よりも大きな山形 のシルエットがなんとか見えてきた。
まわりには繊毛 のような折り重なる触手が蠢 いている。
触手の数がずっと増えていた。
怖い魔物。強そうな魔物。気持ち悪い魔物────と色々あれど不安を具現化したようなこの魔女ミルヤミ・キルシが変貌 した何かはでたらめにかき鳴らすバイオリンの弦楽が数多く重なった不快感があり戦うに二の足を踏んでしまうとヒルダは思った。
迷っているとアイリ殿が死んでしまう。
大きく息吸い込みいきなり罵声 張り上げヒルダは突進した。
すぐに数十本の触足が迫ってくる圧迫感を肌で感じ蛮族の女総大将は闇雲に半月刀 を振り回した。
音と、血飛沫 や、飛び散る肉片が顔にかかり圧しているとヒルダは思って振るう腕に駆け回る脚にさらに力込めた。
いきなり両足首と剣 振り回す腕が動かせなくなりヒルダ・ヌルメラは絶句した。その動き束縛された手足をぬらぬらとした粘着質の触足が這 い上って革の防具下の着衣の隙間 から胴体目指し入り込んできて手鳥肌立った。
「ひぃぃぃぃ────っ! 変態めぇえええ!!」
引き攣 った声を絞り出しヒルダ・ヌルメラは込み上げくる吐き気に必死で抗い手足をばたつかせた。
首に巻きついた触足が真綿しめるように喉笛を圧 しだしヒルダはまだ自由な左手でスクラマサクス(:一般的な西洋剣よりやや短めの剣)を引き抜き巻きついた触足を次々に斬 り落とし始めた。
寸秒、両脚に絡まった数本の触足に引き倒されヒルダは顔面から瓦礫 に激突し突き刺さった鋭利な岩で鼻筋や唇を切って痛みに転がろうとした。
その手足を四方に引っ張られ、ヒルダ・ヌルメラはうつ伏せで身動きできなくなった。
口に入ってきた小石を咬み悔し涙を流した。
黄泉から連れ帰ってくれたアイリ・ライハラに報いることもできずこんな辺鄙 な場所で夜中に怪物の贄 となる自分が情けなさすぎて涙と鼻水で顔をべたべたにした。
眼の前さえなにも見えなかった闇に突如 青い光が走り揺れ動き、確かめようにも身動きままならぬヒルダ・ヌルメラは直後、顔の前の瓦礫 が真っ青に染まってゆくのが幻ではないと己 に言い聞かせた。
・作者よりのお知らせ(ФωФ)ω
いつも群青のアイリをお読みくださりありがとうございます。
11月1日水曜日より毎日夕刻に掲載更新となります。
どうぞお楽しみくださりませ。
空中高くアイリは
そして少女は空転し親の
アイリ・ライハラへ四方上下の闇から一斉に斬られなかったミルヤミ・キルシの触手が襲いかかった。
まるでアイリが跳び上がった勢いなくすのを待っていたように次から次に触手が勢いつけ伸びてくると群青の
見上げていたヒルダ・ヌルメラは
あの
空中の触足に捕らえられた恩師をどうすることもできぬとも、その本体────臓腑の
自分もあの触足の集団に捕まり皮
それでもミルヤミ・キルシ本体に一撃を加えれば、捕らえられたアイリ殿が逃げだすチャンスになるやも知れぬとヒルダは脚を踏みだした。
アイリのいなくなった今、辺りは星明かりも頼りなく
その暗がりの先からびちゃびちゃと不穏な音が聞こえ出す。
その紅い光点を中央にゆらゆらと小屋よりも大きな
まわりには
触手の数がずっと増えていた。
怖い魔物。強そうな魔物。気持ち悪い魔物────と色々あれど不安を具現化したようなこの魔女ミルヤミ・キルシが
迷っているとアイリ殿が死んでしまう。
大きく息吸い込みいきなり
すぐに数十本の触足が迫ってくる圧迫感を肌で感じ蛮族の女総大将は闇雲に
音と、
いきなり両足首と
「ひぃぃぃぃ────っ! 変態めぇえええ!!」
引き
首に巻きついた触足が真綿しめるように喉笛を
寸秒、両脚に絡まった数本の触足に引き倒されヒルダは顔面から
その手足を四方に引っ張られ、ヒルダ・ヌルメラはうつ伏せで身動きできなくなった。
口に入ってきた小石を咬み悔し涙を流した。
黄泉から連れ帰ってくれたアイリ・ライハラに報いることもできずこんな
眼の前さえなにも見えなかった闇に
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