第28話 触れた想い
文字数 2,547文字
座っている場所と視線の順番、それにこれ見よがしにティーカップの握り手を向けた置き方と扇子 で口を隠しっぱなしで話すのが気になって仕方ない。
アイリ・ライハラとノッチはイルミ・ランタサル王妃 謁見 の後、半時 をおいて王妃 の居間に呼び出された。
いつもイルミはアイリの真向かいか肩触れあうほどの隣に腰を下ろす。
それが向かい合ったソファの1番反対側に腰を下ろし近づこうともしない。
「────そ、そうですか。聖霊守護を切り離す魔法のせいで、し、少女に戻れたんですね。良かったです」
なんで、どもるんだぁ!? にこにこしながらアイリは王妃 が口先とは別なことばかり考えていると思った。
なぜ、俺とノッチとこいつの股間 へ順番に視線を向けるんだ!?
「で、ま、魔女はたいそうな魔法で騎士らを、く、苦しめたのですね。特にその臓腑 の怪物──ひ、一目見てみたいものです」
嘘こけぇ! 魔物のことなんかこれっぽっちも考えてねぇだぁろがぁ! 言い終える間に俺の顔とノッチの顔と股間 へ3回も視線を游 がせたくせに。
「で、そんな山奥で、ど、どうしてそなたがノッチ殿と出逢うのですか?」
やっぱりそっちのことばかしこの女は考えているんだぁ、とアイリは鼻筋に皺 寄せた。
「遭難してたノッチを魔女討伐 後に見つけ助けだしましたぁ」
そう説明するとイルミ・ランタサルは自分の前に置いていながら握り手をアイリに向けているティーカップへ視線を落とした。
それに気づいた少女はじ────っとカップ見つめやっと理解した。
握り手の付け根がニスか漆 のようなもので補強してある。なんでそんな不細工な陶器をイルミは使っているんだとさらに見つめ罅 が入っていることにアイリは眼を点にした。
この馬糞────口にできないことをカップで表現してる!?
「そ、そうですか──で、ど、どちらが口説 いたのですか?」
イルミは扇子 で口元を見せずにノッチの顔を見て眉根寄せた。それを見逃さなかったアイリ・ライハラは王妃 の想いに気がついた。
こ、こいつ────連れてきた男に嫉妬 してやがる!
「わたくし が口説き落とされました」
アイリはイルミ・ランタサルが無理難題を押し付けるばかりでなく、乗馬用の鞭 でばしばしに叩きやがったと思いだした。
「そ、それで、夜営で、ほ、他の騎士がいるにも関わらず、千切った と?」
アイリはわざとらしく顔をぷいと逸 らしあらぬ方を向いて囁 くように答えた。
「そ・う────で・す」
「アイリ────アイリ・ライハラ!私 夜中にどんな思いで折れたティーカップの握り手を、しょ、職人をわざわざ呼び寄せて直させたとお思いです!」
いきなり扇子 で口をつけてないティーカップを叩いてイルミ・ランタサルが鼻孔広げ息も荒く七宝張りのテーブルに身を乗りだした。
あ!? アイリは思わず身を引いてしまった。
く、くるんくるん────お、お前の思いと取っ手千切れたカップがどう繋がるんだぁ!?
わ、わからん!?
アイリは不当なことで責 められているようで、イルミが落ち着くまで一旦 身を引こうと思った。そうしていきなり立ち上がると王妃 に言い切った。
「イルミ、この話は明日の昼にでも。俺は魔女が大人しくしてるか見に行ってくる」
陽が暮れてこんな話するから感情的になるんだとアイリは王妃 にぷいと背を向けて出入り口に向かった。
イルミ・ランタサルは素知らぬ顔で紅茶啜 るノッチを睨 みつけるとドアを開いたアイリが夫 を呼びつけた。
「ノッチ!!」
デアチ国の牢獄 に来るのは初めてだった。
アイリはノーブル国ディルシアクト城で牢屋 や尋問 部屋へは行ったことがあったが、旧王制転覆以来1年大国デアチのファントマ城の地下に足踏み入れたことがなかった。
どの牢 にキルシがいるかすぐにわかった。
ドア周囲に衛兵が4人もつけられている。
異端審問司祭のヘッレヴィ・キュトラへキルシを引き渡しまだ半日もたたず、魔女嫌疑 の尋問 はまだ始まってもいない。
アイリとノッチがやって来ると衛兵が扉の錠を開いた。
ミルヤミ・キルシはアイアンメイデンに入れられることもなく、奥の壁から伸びる鎖 を足枷 に繋 がれ後ろ手に手枷 をされ革の猿ぐつわを着け暗い石畳 に座り込んでいた。
アイリらと松明 持った衛兵の2人が牢 に入るとキルシが顔を上げアイリをじっと見つめた。
「ちょっと話したい。責任は持つから松明 と猿ぐつわの鍵を貸してくれ。それと話しが終わるまで扉は閉じておいてくれ」
騎士団長から頼まれ衛兵は松明 と鍵を渡しアイリとノッチを残し外に出た。アイリはキルシに寄ると頭の後ろに手を回し口の拘束倶具を外してやった。
「我 を笑いにきたか──アイリ・ライハラ」
魔女は険がなく落ち着いた物言いだった。
「話しをしようキルシ」
「我 が魔女というのは明白。今更 、それを確かめる必要もないだろう」
しばしアイリは黙ってキルシの目を見つめた。
「どうして魔女なんかになったの?」
「親が憎くて悪魔の大王──蝿 の王ベルゼビュートへ売り飛ばし永遠の少女の姿を手に入れてからだ」
「親に酷い仕打ちされ続け自分は孫を守ろうと思った?」
キルシは無言で顔を逸 らした。
「なあ、あなたは心底悪い人じゃない」
魔女はじっと石畳 を見つめている。
「アレクサンテリを本気で守ろうとしたじゃん」
それを聞いてぼそりとキルシはアイリへ本音を語りだした。
「だが我 が多くの民 や騎士を殺したことに変わりない。火炙 りにでもなんでもするがいい」
アイリはため息ついて魔女ミルヤミ・キルシの顔向ける前に回り込み膝 を折り顔を近づけた。
「魔女が確定すると火炙 りか河底へ沈められる刑になる。どちらもとても辛い酷い刑だ。だけどわたしはそれを覆してやれはしない」
不意にミルヤミ・キルシは顔を上げ正面からアイリ・ライハラを見つめ訴えた。
「我 はお前やお前の仲間のみならずお前の祖国ランタサルの王族を殺そうとしたんだぞ! なぜ恩情をかける!?」
「育ちがお前の生き方を誤らせたんだ。でも罪は償わないといけない────」
潤 るませる黒い瞳で天涯孤独の魔女が見返していてアイリ・ライハラは決心した。
「────楽に逝 かせてやるよ」
寸秒、アーウェルサ・パイトニサムと忌 み嫌われた裏 の魔女ミルヤミ・キルシがぼろぼろと泣き崩れた。
アイリ・ライハラとノッチはイルミ・ランタサル
いつもイルミはアイリの真向かいか肩触れあうほどの隣に腰を下ろす。
それが向かい合ったソファの1番反対側に腰を下ろし近づこうともしない。
「────そ、そうですか。聖霊守護を切り離す魔法のせいで、し、少女に戻れたんですね。良かったです」
なんで、どもるんだぁ!? にこにこしながらアイリは
なぜ、俺とノッチとこいつの
「で、ま、魔女はたいそうな魔法で騎士らを、く、苦しめたのですね。特にその
嘘こけぇ! 魔物のことなんかこれっぽっちも考えてねぇだぁろがぁ! 言い終える間に俺の顔とノッチの顔と
「で、そんな山奥で、ど、どうしてそなたがノッチ殿と出逢うのですか?」
やっぱりそっちのことばかしこの女は考えているんだぁ、とアイリは鼻筋に
「遭難してたノッチを魔女
そう説明するとイルミ・ランタサルは自分の前に置いていながら握り手をアイリに向けているティーカップへ視線を落とした。
それに気づいた少女はじ────っとカップ見つめやっと理解した。
握り手の付け根がニスか
この馬糞────口にできないことをカップで表現してる!?
「そ、そうですか──で、ど、どちらが
イルミは
こ、こいつ────連れてきた男に
「
アイリはイルミ・ランタサルが無理難題を押し付けるばかりでなく、乗馬用の
「そ、それで、夜営で、ほ、他の騎士がいるにも関わらず、
アイリはわざとらしく顔をぷいと
「そ・う────で・す」
「アイリ────アイリ・ライハラ!
いきなり
あ!? アイリは思わず身を引いてしまった。
く、くるんくるん────お、お前の思いと取っ手千切れたカップがどう繋がるんだぁ!?
わ、わからん!?
アイリは不当なことで
「イルミ、この話は明日の昼にでも。俺は魔女が大人しくしてるか見に行ってくる」
陽が暮れてこんな話するから感情的になるんだとアイリは
イルミ・ランタサルは素知らぬ顔で紅茶
「ノッチ!!」
デアチ国の
アイリはノーブル国ディルシアクト城で
どの
ドア周囲に衛兵が4人もつけられている。
異端審問司祭のヘッレヴィ・キュトラへキルシを引き渡しまだ半日もたたず、魔女
アイリとノッチがやって来ると衛兵が扉の錠を開いた。
ミルヤミ・キルシはアイアンメイデンに入れられることもなく、奥の壁から伸びる
アイリらと
「ちょっと話したい。責任は持つから
騎士団長から頼まれ衛兵は
「
魔女は険がなく落ち着いた物言いだった。
「話しをしようキルシ」
「
しばしアイリは黙ってキルシの目を見つめた。
「どうして魔女なんかになったの?」
「親が憎くて悪魔の大王──
「親に酷い仕打ちされ続け自分は孫を守ろうと思った?」
キルシは無言で顔を
「なあ、あなたは心底悪い人じゃない」
魔女はじっと
「アレクサンテリを本気で守ろうとしたじゃん」
それを聞いてぼそりとキルシはアイリへ本音を語りだした。
「だが
アイリはため息ついて魔女ミルヤミ・キルシの顔向ける前に回り込み
「魔女が確定すると
不意にミルヤミ・キルシは顔を上げ正面からアイリ・ライハラを見つめ訴えた。
「
「育ちがお前の生き方を誤らせたんだ。でも罪は償わないといけない────」
「────楽に
寸秒、アーウェルサ・パイトニサムと