第18話 そんなことございません
文字数 1,716文字
がたごと揺れる板の分厚い荒削り箱の横に付けられた鉄格子 越しに朝日が差し込みだした。
アイリ・ライハラとヘッレヴィ・キュトラは4頭立ての馬に曳 かれる移送用牢 の中にいた。
「アイリ、夜が明けましたよ。起きなさい」
「あぁ──まだ寝る────」
顔も向けずそう答えた少女は8人掛けのテーブルほどの床板に腕枕で横になり、元異端審問官は進行側とは逆の側板に背を預け座りずっと起きていた。
寒くて寝られるものじゃないとヘッレヴィは思った。アイリがよく寝ていられたと呆れていた。
10人や20人ぐらいの兵ならなんとかなったかもしれなかったが、異教徒の街に十字軍4千余りが攻め入っていたのでどうすることもできず捕らわれの身となった。
しかも拘束 された理由も聞かされていない。
半壊した屋敷にいただけで多くのスピアと剣 を向けられそのままこの移動牢 に入れられた。
鉄格子 の外に馬に乗った兜 被らぬ騎士が1人下がってきて箱の中を覗 き込んだ。
「うむ、大人しくしておれ。さすれば食事と水は与えられる」
「なぜ我々を捕らえたのですか? 異教徒の地にいたからですか?」
直ぐには応えず騎士は値踏みするように役人落ちを見据えた。
「────ヤドヨ教地区のハヒゥランタの街に人の姿した魔物がいると教皇様の耳に入り、由々 しき事態であり捕らえよと教皇様がご判断をお下しになられた」
人を偽 る魔物はアイリ・ライハラが倒したのだ。だが少女は怪物をバラバラに街へ吹き飛ばし成敗した証拠はなかった。
「なぜ我々が魔物なのです? 我々は町長の家にわけあっていただけです。魔物ではないので即時 解放されたい」
騎士はまた様子を探るように見つめ間 をおいて口を開いた。
「────街に多くの密偵 を入れ、その1人が町長の屋敷で化け物が宴 をやっていると連絡を入れその場にお前らがいたので嫌疑 をかけた」
「ならば我々は妖魔嫌疑で裁判に立たされるのですか?」
「裁判? 冗談を抜かせ。魔女でもあるまいし、巧妙 に魔物は人になっておるのだろう。躯 切り刻 み確かめるしかない」
切り刻 む!? 元異端審問官は眼を丸くした。
バラバラにされて魔物の痕跡 がなければどうするのだ!? 縫い合わせて何もなかったことにはできないのだぞ!
教皇国ヴィツキンに着くまでに魔物嫌疑をひっくり返す方法を何としても見つけなければならないとヘッレヴィは思った。
「むにゃむにゃ────おいで、おいで、お前たち──魔石をわたしにおくれでないかい────むにゃむにゃ」
突然の少女の寝言に元異端審問官は青ざめて飛びつき口を塞いだ。そうしてゆっくりと鉄格子 へ振り向くと馬上の騎士がじ────っと見つめているので弁解した。
「いや、これは寝言でして────」
「ほう、魔石を持っているのは魔物。魔物をお前たちと言うその娘、怪しいな」
あぁ、このままでは生きたまま切り刻まれる!
ヘッレヴィ・キュトラは鉄格子 に飛びつき騎士に懇願 した。
「我々は魔物ではありません!我 はデアチ国異端審問官ヘッレヴィ・キュトラです。この娘はデアチ国剣竜騎士団団長アイリ・ライハラ。お調べになって頂ければ本当だと明白です」
「デアチの異端審問官や剣竜騎士団の長 が遠くの、それも異教徒の地になぜいるのだ? そのことすら怪しいではないか。さらにそのような小娘が騎士団長だと? ますます怪しい」
騎士に指摘され役人落ちは懸命に言い訳を考えた。
「このものは間違いなくデアチ国の新たな統治者であるイルミ・ランタサル王妃 の召 し抱える1番若手の騎士アイリ・ライハラで間違いないし、我 はデアチ国教区司教より任命された異端審問官ヘッレヴィ・キュトラで間違いないです。どうか問い合わせて頂けないだろうか?」
騎士は眼を細め思案顔になった。そして妥協案を出してくれた。
「そなたの言い分が口先だけの言い逃れには思えんな。遣 いのものを出しても戻るまで3日かかる。その間は魔物嫌疑の身体あらためは猶予するよう教皇様に提案してやろう」
「ありがとうございます」
ヘッレヴィ・キュトラが頭を下げ礼を言うと背後で少女がいきなり起き上がり喚 いた。
「トイレ! トイレに行きたい!」
恨 めしそうな顔で元異端審問官が振り向いた。
アイリ・ライハラとヘッレヴィ・キュトラは4頭立ての馬に
「アイリ、夜が明けましたよ。起きなさい」
「あぁ──まだ寝る────」
顔も向けずそう答えた少女は8人掛けのテーブルほどの床板に腕枕で横になり、元異端審問官は進行側とは逆の側板に背を預け座りずっと起きていた。
寒くて寝られるものじゃないとヘッレヴィは思った。アイリがよく寝ていられたと呆れていた。
10人や20人ぐらいの兵ならなんとかなったかもしれなかったが、異教徒の街に十字軍4千余りが攻め入っていたのでどうすることもできず捕らわれの身となった。
しかも
半壊した屋敷にいただけで多くのスピアと
「うむ、大人しくしておれ。さすれば食事と水は与えられる」
「なぜ我々を捕らえたのですか? 異教徒の地にいたからですか?」
直ぐには応えず騎士は値踏みするように役人落ちを見据えた。
「────ヤドヨ教地区のハヒゥランタの街に人の姿した魔物がいると教皇様の耳に入り、
人を
「なぜ我々が魔物なのです? 我々は町長の家にわけあっていただけです。魔物ではないので
騎士はまた様子を探るように見つめ
「────街に多くの
「ならば我々は妖魔嫌疑で裁判に立たされるのですか?」
「裁判? 冗談を抜かせ。魔女でもあるまいし、
切り
バラバラにされて魔物の
教皇国ヴィツキンに着くまでに魔物嫌疑をひっくり返す方法を何としても見つけなければならないとヘッレヴィは思った。
「むにゃむにゃ────おいで、おいで、お前たち──魔石をわたしにおくれでないかい────むにゃむにゃ」
突然の少女の寝言に元異端審問官は青ざめて飛びつき口を塞いだ。そうしてゆっくりと
「いや、これは寝言でして────」
「ほう、魔石を持っているのは魔物。魔物をお前たちと言うその娘、怪しいな」
あぁ、このままでは生きたまま切り刻まれる!
ヘッレヴィ・キュトラは
「我々は魔物ではありません!
「デアチの異端審問官や剣竜騎士団の
騎士に指摘され役人落ちは懸命に言い訳を考えた。
「このものは間違いなくデアチ国の新たな統治者であるイルミ・ランタサル
騎士は眼を細め思案顔になった。そして妥協案を出してくれた。
「そなたの言い分が口先だけの言い逃れには思えんな。
「ありがとうございます」
ヘッレヴィ・キュトラが頭を下げ礼を言うと背後で少女がいきなり起き上がり
「トイレ! トイレに行きたい!」