第12話 見方
文字数 1,963文字
「お前、我を畳みかけようとしているだろう」
荷馬車のキャラバンを脇道の目立たぬ場所に停めおき昼の休憩を取る皆 から女騎士ヘルカ・ホスティラを引っぱり出したアイリ・ライハラは彼女にイルミ・ランタサルがやろうとしてる事を打ち明けた。
「イルミ王女は謁見 の場でデアチ国の元老院の長──サロモン・ラリ・サルコマーに嫌がらせをするために出かけるんじゃないよ」
ムスッとした表情のヘルカは真剣に話す少女の真実をありのままには受け入れられなかった。
確かに魔女が操っていたとされるガウレムは多数の近衛兵を蹴散らし城の奥へと真っ直ぐに突き進んでいた。
それが王や王女を狙った企 みだと見ることもできようが、そのためにイルミ王女が意趣返しを望みそれが大国デアチとの全面戦争で構わないとするアイリ・ライハラの意見が突飛 過ぎるとヘルカは思った。
大国と一戦、交 えればそれはノーブル国のような小さな国は勝てても国力の衰退、民 の疲弊 、国内の情勢不安定になるばかりで得な要素がない。そうイルミ・ランタサルが知らぬはずがなかろうと女騎士は思い少女に告げた。
「お前の憂 いは気負いすぎからだ、アイリ。イルミ王女は民 や我々国の治安を預かるものの無駄死にを一番好まぬ」
「うん、王女がその様に人徳の人ならヘルカに話さなかった。だけど──」
一瞬、ヘルカ・ホスティラは少女が不和の種を撒 こうとしているのかと考えたがそれこそ杞憂だと思った。アイリの性格は迷宮 ではっきりと見ていた。竹を割ったような性格で決して奸計 企 む──ずる賢さはないとヘルカは自分の見立てを信じた。
ならイルミ王女が本当に大戦を望んでいることになるかというと、決してそうではないと思った。アイリ・ライハラの勘違いということもある。
「お前の心配に確証はあるのか? 考え過ぎではないのか?」
アイリ・ライハラがヘルカの前に右手を差し出し女騎士は何なのだとその手の甲をじっと見つめた。
いきなり少女が右手の指を多足の昆虫がせわしなく足を動かすように妖しく蠢 かせ始めヘルカはすぐにそれが何か思い当たった。
イルミ・ランタサルが一計を弄 する時に見せる仕草そのもの!
「ヘルカ、あんた自身が確かめてごらんよ。イルミ王女に問いかけ、指をどうするか」
「よしわかった。我自身で確かめようぞ」
ヘルカ・ホスティラは両の膝 を叩 き、下生えの草から腰を上げると少女も立ち上がった。女騎士はその立ち上がり方を見て驚いた。
人は何かの動作をするときに予備の動作を事前に行う。例えば殴ろうとするときにわずかでも腕を引く。
だがアイリ・ライハラは立ち上がる寸前にまったく重心を変えずに腰を上げた。それは見方を変えればまったく隙 がない理想の動き方だった。なかなかできるものでない。並みの剣士ではできない。
ヘルカ・ホスティラは唇を曲げ妖しいのはお前の方だぞと近衛兵副長を思った。
2人が一行に戻ると侍女 ヘリヤがイルミ王女の世話を焼いていた。
「どこへ行っていたのです、ヘルカ?」
イルミ王女は顔も向けずに女騎士に尋ねた。
「ちょっとアイリに剣技について立ち入ったことを尋ねておりましたゆえ、お側 を離れましたことをご容赦くださりませ」
「お前もアイリのブルーライトニングに魅せられましたか。でもあれはアイリ・ライハラだけの神業 」
「ですが王女、あれをやれるものが増えますなら、王女をお護りする騎士団が実質、倍となりましょう」
「駄目です、ヘルカ。蒼 髪の御業 。何人もが戦場で使うと遠方でアイリ・ライハラと区別がつかぬではないか」
ヘルカ・ホスティラは苦笑いし顔を引き攣 らせたのを誤魔化した。
イルミ・ランタサルはあんな年端 もゆかぬ少女を戦場に出させるつもりなのか!?
「大戦への備えは平時にあります。我々騎士団が剣技を磨 くのはどの様な戦 であろうとノーブル国と王家を御守りするため。絶えず大国を相手することを視野に入れておきませぬと」
言いながら女騎士は顔を上げぬイルミ王女の横姿を見つめ、その実、広がったスカートに乗せられた両手の指を見つめていた。
「それは頼 もしい。北の大国デアチや西の大国イルブイに手袋をいつでも投げつけられます」
ヘルカ・ホスティラは身体を強ばらせた。
イルブイ!? あの西の大陸国はデアチの数倍の大きさを持つ僅 かな土地続きゆえに攻めて来ぬ蛮族の国。このイズイ大陸国すべてを合わせても立ち向かえるか分からぬ兵力があると風の噂を耳にしたことがあった。
「イルミ王女、イルブイなどご勘弁ください。命が両手の指の数あったとて勝てると申 せませぬ」
ヘルカ・ホスティラが正直に言うと、王女は含み笑いの声を漏らした。
「そうよね、ホスティラ────」
女騎士は両の膝 が笑いだしそうだった。
イルミ・ランタサルがスカートの上で両手指すべてを妖しく蠢 かせていた。
荷馬車のキャラバンを脇道の目立たぬ場所に停めおき昼の休憩を取る
「イルミ王女は
ムスッとした表情のヘルカは真剣に話す少女の真実をありのままには受け入れられなかった。
確かに魔女が操っていたとされるガウレムは多数の近衛兵を蹴散らし城の奥へと真っ直ぐに突き進んでいた。
それが王や王女を狙った
大国と一戦、
「お前の
「うん、王女がその様に人徳の人ならヘルカに話さなかった。だけど──」
一瞬、ヘルカ・ホスティラは少女が不和の種を
ならイルミ王女が本当に大戦を望んでいることになるかというと、決してそうではないと思った。アイリ・ライハラの勘違いということもある。
「お前の心配に確証はあるのか? 考え過ぎではないのか?」
アイリ・ライハラがヘルカの前に右手を差し出し女騎士は何なのだとその手の甲をじっと見つめた。
いきなり少女が右手の指を多足の昆虫がせわしなく足を動かすように妖しく
イルミ・ランタサルが一計を
「ヘルカ、あんた自身が確かめてごらんよ。イルミ王女に問いかけ、指をどうするか」
「よしわかった。我自身で確かめようぞ」
ヘルカ・ホスティラは両の
人は何かの動作をするときに予備の動作を事前に行う。例えば殴ろうとするときにわずかでも腕を引く。
だがアイリ・ライハラは立ち上がる寸前にまったく重心を変えずに腰を上げた。それは見方を変えればまったく
ヘルカ・ホスティラは唇を曲げ妖しいのはお前の方だぞと近衛兵副長を思った。
2人が一行に戻ると
「どこへ行っていたのです、ヘルカ?」
イルミ王女は顔も向けずに女騎士に尋ねた。
「ちょっとアイリに剣技について立ち入ったことを尋ねておりましたゆえ、お
「お前もアイリのブルーライトニングに魅せられましたか。でもあれはアイリ・ライハラだけの
「ですが王女、あれをやれるものが増えますなら、王女をお護りする騎士団が実質、倍となりましょう」
「駄目です、ヘルカ。
ヘルカ・ホスティラは苦笑いし顔を引き
イルミ・ランタサルはあんな
「大戦への備えは平時にあります。我々騎士団が剣技を
言いながら女騎士は顔を上げぬイルミ王女の横姿を見つめ、その実、広がったスカートに乗せられた両手の指を見つめていた。
「それは
ヘルカ・ホスティラは身体を強ばらせた。
イルブイ!? あの西の大陸国はデアチの数倍の大きさを持つ
「イルミ王女、イルブイなどご勘弁ください。命が両手の指の数あったとて勝てると
ヘルカ・ホスティラが正直に言うと、王女は含み笑いの声を漏らした。
「そうよね、ホスティラ────」
女騎士は両の
イルミ・ランタサルがスカートの上で両手指すべてを妖しく