第27話 打倒

文字数 1,680文字


 家老(かろう)のクリフトン・フロストを城の中を探し回るのにうんざりしかかったとき、問いただした侍女(じじょ)の一人が案内役を買って出た。

 主斜塔のある大きな居館(パレス)の上の階にいるという。

「あんたどうして教えてくれるんだ?」

 ヘルカが案内する侍女(じじょ)に尋ねた。

「私たちあの家老(かろう)嫌いなんです」

 感情がこもっていたので女騎士は苦笑いした。

 その侍女(じじょ)が案内したドアをアイリ・ライハラが押し開くと司祭のような服装の歳嵩(としかさ)の男が白髪の白いガウンの女と話しており男が振り向いた。

「クリフトン──クリフトン・フロストか!?」

 見覚えのない騎士らに男が返答せずにいると白髪の女が振り向いて言い放った。

「青よ、しつこい剣士め」



「ルースクース! 銀眼の魔女め! ここで(とど)めをさしてやる!」

 そう言い放ちアグネスを身体の後ろに隠したアイリ・ライハラの両側をテレーゼ・マカイとヘルカ・ホスティラが立ち並び(ソード)を引き抜いた。

(とど)めだと!? きさまらこそ────袋の(ねずみ)

 そう告げながら後退(あとず)さる銀眼の魔女の姿が薄れてゆくと壁に溶け込み消えてしまったので残された家老(かろう)クリフトン・フロストは露骨にうろたえた。

「くせ者じゃ、出会え! 出会え!!」

 押し開いた窓から大声で命じる老獪(ろうかい)にアイリは言い切った。

「無駄だクリフトン。ここにいたるまでに多くの騎士や近衛兵を倒してきた。逃げ道はないぞ」

「きさまら、どこの国の手のもの!?」

 問われアイリは押し殺した声で名乗った。

「国は関係ない。(われ)はクラウス・ライハラの娘────アイリ・ライハラ」


「き、貴様ぁ! 宮廷魔導師が連れ去った旧ヨーク王の王女アグネスかぁ!?」

 そう言い放ちクリフトン・フロストは短剣を引き抜いた。


 そうかやっぱり父を追い立てた張本人はこいつなのだとアイリは納得し後ろに隠した王女へ声をかけた。

「アグネス! こいつどうする!?」

 アイリの横へ姿現したアグネス・ヨークが家老(かろう)に言い切った。

「父と母を殺したものの有り(よう)は一つアイリさん倒して下さい」

 なぜアグネスが二人いるのだと家老(かろう)のクリフトン・フロストは混乱し帯刀しているアイリへ短剣を振り向けた。

「父クラウスはアグネスを城下に隠し(おとり)として私と母を連れノーブル国へ逃れたんだ」

 それを聞いて理解した家老(かろう)は青ざめていた顔を激昂(げきこう)に赤く染め短剣をアグネスへ向け走り込んできた。

 アイリは数歩前に出ると居合い抜きで家老(かろう)クリフトン・フロストの短剣握る手首を切り落とし呆然となった男の首を一瞬で()ねた。

「アイリさん、現国王は傀儡(かいらい)です。すべて家臣(かしん)らが操っていました。だから殺さないで」

 そうアグネスが頼みこむとアイリが王女に(たず)ねた。

「わかるはずだ。身代わりに追われた父と俺の気持ちが。命奪い政権をつかむ卑怯(ひきょう)で最低の連中だぞ」

「アイリ────あなたは同じ(てつ)を踏みはしない。あなたは考える騎士だから」


「アイリ、一本取られたな」


 そうヘルカに言われアイリが振り向くとしてやったりの女騎士の笑顔があった。





 王と王妃(おうひ)を玉座から追い立てたアイリらは玉座にアグネスを座らせ赤いカーペットに(ひざまづ)いた。

「アグネス、玉座に座ったからとて政権を変えられるほど簡単じゃない」

 そう警告したアイリ・ライハラに言葉少なにアグネスは決意をあらわした。

「ええ、わかっています」

「王制が安定するまでしばらくは俺らは手をかすが、半月ほど辛抱したら乗り込んでくる──くるんくるん────イルミ・ランタサルに細かいことは教わるといい」

「乗り込んでくる? イモルキはノーブルの属国になるのですか?」

「それじゃあ国民は納得しないだろう。イモルキはノーブル、デアチ、イルブイの共和国となるイズイ大陸最大の共和国だ」

 アイリらのはからいにアグネスは微笑んだ。

「無血クーデターじゃなかったので、同じことを画策する(やから)が出てくる。用心なさいアグネス」

 ヘルカ・ホスティラに言われアグネスは首を縦に振った。

「ところでアイリさん、イルミ・ランタサルも同じ手段でデアチとイルブイを手にされたのですか」

 玉座のアグネスに問われアイリは(かぶり)振った。



 あれは啖呵(たんか)切る勢いあれど後のことを考えちゃいない。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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