第7話 簀巻(すま)き
文字数 1,760文字
アイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラの罵声に大カマキリ──マンティドを相手に格闘している騎士ら後衛が振り向くと2人が簀巻きにされ黄色と黒の縞模様の大蜘蛛から天井へ引き上げられようとしていた。
気づいた騎士らが剣で蜘蛛の糸を斬ろうとしたが弾力があり刃が弾き返されあれよあれよという間に2人は洞窟の天井近くに引き上げられた。
天井にしがみつく大蜘蛛目掛け10人の騎士らは剣を投げつけ始めた。だが高い天井にいる大蜘蛛に小傷を負わせられても致命打にはならず大蜘蛛は簀巻きのアイリとヘルカを連れて洞窟奥へと移動し始めた。
大カマキリ──マンティドを倒した騎士らも加わって剣を投げつけたが天井まで届かぬほど高く、騎士らは落ちている石を拾って投げつけ始めた。
数個に1、2個巻きつけられたアイリとヘルカに命中し2人は呻いてヘルカが罵声を浴びせた。
「馬鹿野郎! どこ狙ってるんだ! 蜘蛛の頭を狙えよ!」
投石が頭に当たり始めると黄色と黒の大蜘蛛は堪えかねて簀巻きのアイリとヘルカを落とした。2人は地面に叩きつけられたがぐるぐる巻きの糸がクッションになり数回跳ねて転がると数人の騎士が巻きついた糸を切り放した。
「騎士団長どの、参謀長どの無事でありますか」
「痛たたっこれだから蜘蛛は嫌いなんだ」
起き上がったアイリが悪態つくと横でヘルカ・ホスティラが剣を引き抜いた。
「くそう。蜘蛛野郎はどこだ!?」
「まだ天井にいます」
ヘルカ・ホスティラは助走して力尽くで剣を投げあげると回転した刃が蜘蛛の頭に突き刺さった。天井近くで霧散した蜘蛛は拳大の魔石を落として消えてしまった。
「あの天井に刺さった剣どうすんだぁ」
アイリが指摘するとヘルカは騎士団長に告げた。
「アイリ、鎧を脱げよ」
言われるままに鎧を脱いだアイリの襟首と腰の後ろをむんずとつかんだヘルカ・ホスティラは力任せに天井へ振り上げた。
「なにすんだ────ぁ──ぁ」
天井へ投げあげられた騎士団長は突き刺さった剣のハンドルにしがみついた。
「アイリ! 引き抜いて落ちてきたら受け止めてやる」
「うそだぁ! 避けるつもりだろ」
「大丈夫だ。ど────んと下りてこい。受け止め損ねたら騎士団長の座を誰かに押しつけてやるぞ」
その甘言を信じアイリは天井に片足ついてヘルカの剣を引き抜いた。
背中から落ちたアイリをヘルカ・ホスティラはがっしりと受け止めた。両腕に抱きしめられた騎士団長はヘルカの腰の鞘に長剣を差すと地面に下ろされため息をついた。
「あ──ぁ、騎士団長止めれるチャンスだったのに」
ぼやくアイリ・ライハラにヘルカはたしなめた。
「あんな高いところから背中から落ちたら死んでしまってたぞ」
騎士団長が鎧を身につけると全員は再び洞窟の奥に向かい行軍を始めた。しばらく歩くと急な坂になっていた。そこを滑る様な勢いで下りると、広い場所に出た。館でも建てられそうなかなりの広場で壁面のいたる所から水晶が突き出ていた。
「全員発光石を手のひらで覆い隠してみろよ」
アイリに言われ騎士らは発光石を両手で覆い隠すと辺りは闇に覆われ、直後赤い夕暮れのような色合いで染まった。この光景を見るのが2度目のヘルカ・ホスティラが説明した。
「これは赤水晶といって魔物の餌だ。魔物の魔力の供給源だ。それが魔物の中で溜まって魔石となってる。諸君これを取って持ち帰ろうとは思わぬ事だ。大した価値はないからな」
「気をつけて! 何かいます!」
先頭の騎士の1人が指さした先の奥の壁に飛びだした岩の塊が赤い薄明かりの中で動き出し手足を伸ばし躯を起こすとバラバラと薄い岩盤が落ち立ち上がるその大きさに26人はそれぞれの武器に手をかけた。
立ち上がった後ろ姿は人と同じ様な体躯をしているが、その腕の筋肉は屈強な男の太腿よりも大きく、肩幅は馬の体ほども長さがあり、頭には毛がなく代わりに真ん中に一本の角が生えていた。
そしてその身長は女騎士ヘルカ・ホスティラの倍以上もあり、魔物が振り向く前に女騎士が命じた。
「抜刀!」
その刃引き抜く金属の音に魔物が脚を踏み換えゆっくりと振り向いた。
「コイツがこの水晶洞の主」
女参謀長がそう言うと、アイリ・ライハラが怪物の名を告げた。
「気をつけろ! そいつはサイクロプスだぁ! 殴られたら一発で即死だぞ!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)