第8話 裏路地
文字数 2,229文字
「どこへ行くの?」
「だぁ、かぁ、ら! ついてくんな!」
街並みを早足で歩くアイリにイルミ王女は小走りでついて来ていた。
「あなたが城壁都市から出ることはできないのよ」
「ちがうって言ってんだろう。親父への
ぐんぐん歩きながらアイリは見たこともないような商品の並ぶ幾つもの屋台の間を眼を走らせ自分でも買えそうなものを探した。
だがなぜにイルミ王女がついてくる? 彼女がまるで子犬のようにまとわりつくのがイラつきの1つでもあった。本当に王女としての自覚があるのかと疑ってしまう。塀でかこまれていても町だ。何が起きるかわからないのに、彼女についてこようとした近衛兵数人を城に残してきた。
まあ、何かあればどうにでもできるから本気で心配してはいないけれどと少女は思った。
しかし見回すどの屋台の展示品も値段が表示されてなく高いのか安いのかわからんとアイリは服屋の前で足を止めた。店先に地味だがしっかりとしたマントが吊してある。少女は親父が擦り切れたマントを着て出かけるのを知っていた。これを買って帰れば、帰宅が遅くなった言い訳にできると思い店主に尋ねた。
「なあ、このマント幾らだい?」
「お嬢さん御目が高い。大まけで80万デリ(20万円)にしとくよ」
アイリは口をあんぐりと開いて店先から顔を背けた。たかだかマントに80万デリも払う阿呆はいないぞ。同じ金額で
「おじさん、そのマント頂くわ」
背後で聞こえたその声にアイリはぎこちなく振り向いた。すると眼の前でイルミ王女が何かの紙
「──いや、いや、そうじゃない。あんたが着るには地味で安物過ぎるだろ」
「あら? アイリが着るには
「チビだと言いたいのかぁ!」
少女はイルミ王女の顔の前に
「違うわよ。あなたのお父様への贈り物よ」
「違うぞ! 私が最初に土産物としてツバつけたんだからな」
「だいじょうぶ。あなたの代わりに誰かに届けさせますから。あなたはわたくしの
アイリは王女から顔を
その
「ちょっとアイリ、次は何を探すんです?」
「王女様、あんた近衛兵以外に護衛を──アサシンの類を使うの?」
アイリが問いかけると王女は一瞬思案して返答した。
「アサシンって暗殺者じゃないですか。わたくし護衛は騎士団と近衛兵以外には頼みませんことよ」
「じゃあ、いつも騎士の数人が人目を避けて護衛につく?」
「彼らは堂々としています。隠れてコソコソなどしません──でも一体どうして?」
王女が問い返すと、アイリは大通りから2頭立ての馬車がやっと通れるぐらいの細い路地へ入り込んで王女も合わせて曲がりながら警告した。
「ちょっとアイリ、いくらディルシアクト城の城壁都市でもあまり細い路地に入らない方がよろしくてよ。人目を避けて悪いことをする人にでも出くわしたらどうするんです」
「人目がないというのは巻き添えの怪我人を出さないということだよな」
そう言いいながらどんどんと奥に入って行くと、大通りの喧騒が遠ざかり2人の足音とは違う、石畳を踏む金属音が聞こえ始めた。
いきなりアイリが立ち止まり振り向くと、戸惑いながらイルミ王女も歩くのを止めて振り向き自分達の歩いてきた路地にマントとフードで
「王女様、そこの2人は人目を避けて悪いことをする類の連中じゃないよ」
アイリはイルミ王女にそう告げ、フードを被ったものらに警戒の視線を向けながら路地並びの居住者が洗濯物を干している場所へ横へ移動すると下がっているシーツをつかんだ。
「強盗は
アイリが言い切り
息を呑んだイルミ王女が後退りするとシーツに引っ張られ落ちてきた長い木の棒を握りしめアイリが彼女の前に進み出た。
「イルミ! 私の前に出ないで! こいつらは命を盗りにきたんだ!」
アイリ・ライハラがそう警告した