第7話 兵役(へいえき)

文字数 1,735文字

 いいニュースと悪いニュースがある。

 騎士団長代理に言われアグネス・ヨーク王妃(おうひ)は覚悟した。

「悪いニュースからにして」

「アイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラの行方が今朝から不明です」

 昨夜の今日だ。まさか二人は────イルベ連合に。

 そんなに短絡的に!?

「良いニュースを」

「アイリ騎士団長のお部屋に置き手紙が、イルベ連合のことは気に病むな。いい方へ進める────と」

 イルミ・ランタサル王妃(おうひ)の言うとおり、すごい人だとアグネスは思った。彼女を共和国の王妃(おうひ)に引き上げたのは(わたくし)と一歳しか違わない(おのれ)をお子さまという少女。宝石の髪色をしたアイリ・ライハラなのだと息を呑んだ。

「イルベ連合との合戦に備えなさい」

「えぇ!? イルベが攻めてくるんですか!?」

「その恐れがあるのよ」

「各大隊長を集めないと、王妃(おうひ)様からご説明できますか?」

(わたくし)にできること────あなた方を鼓舞(こぶ)することぐらいかしら」

「それで十分(じゅうぶん)です」

 そう告げ騎士団長代理は立ち上がった。





 城下街に入るのに城壁の爆破を覚悟していたが、検問を顔パスで通れたことに、ノッチは腹立たしく感じた。

 この連合には我が輩に似たものがゴロゴロいるのか!?

 異国を(たしな)みたいと言ったら我が(あるじ)は、ならイズイ大陸南のイルベ連合を見てこいと野に放たれた。

 人間の街なぞ五十歩百歩だと決めてかかっていたら砂漠に隣接する街並みからかエキゾチックだと気づいた。だがデアチの西──荒れ地(デザート)の先にあるイルブイも同じくエキゾチックじゃないのかとノッチは考え込んだ。

「あら兄さん、珍しい髪色だね。ちょっと遊んでいきなよ」

 誘い文句にふらふらと入り込んだ店で(ばばあ)にしこたま酒を飲ませられ法外な金を要求されむしり取られた。

 これはもしかしてぼったくられたんじゃないのか!?

 ノッチは初めて人間が怖いと思った。

 この大きな街がぼったくる店ばかりかと困惑した。

 酒を抜くために歩き回っていると良い香りに誘われてふらりと飲食店に入った。

 人間の食べ物は嫌いではない。味も香りも天上界のものに比べ濃厚だ。入った飲食店は中華という分類だと後に知った。

 四川(しせん)麻婆豆腐なるものを他の客が注文していて同じものを頼んだ。

 出てきた挽き肉と豆腐がゴロゴロ入った料理をがっついて火を吐きそうになった。

 辛いのを通り越して痛い!

 それを先に頼んだおやじは淡々と食っていて、負けじと食べようとするのだが、辛すぎてノッチは咳き込み始めた。

 人の味覚はちょっと変だぞ!

 気がついた時には半皿残して店を出て荒い息でむせいだ。

 これがエキゾチックなのかとノッチはさまよい歩きながら眼にする飲食店に顔を引き()らせた。

 歩きあきたころ近衛兵が門番に立つ詰め所に出くわした。

 近衛兵募集中とある。

 このエキゾチックな国の兵士かとノッチは興味()かれた。ノッチが小屋を(のぞ)き込むと座っていた1人の歳嵩(としかさ)の兵が立ち上がった。

「近衛兵に応募するのか!?」

 そう言って兵士はノッチの(かたわ)らにテーブルを回り込んできた。

「君ぃ! 運動は好きか!?」

 身体を動かすのは嫌いではないとノッチが(うなづ)くとその兵はそうかと破顔した。

 歳嵩(としかさ)の兵は片手で重そうな長剣(ロングソード)をつかみ片手でノッチの手首をつかんで小屋裏の空き地に出た。

(ソード)を抜いて自由に振り回してみたまえ」

 この(われ)(ソード)を振り回せるのかと試すつもりかとノッチはムッスリして片手で(さや)をつかみ片手で重そうな長剣(ロングソード)を引き抜いた。







 その(ブレード)を大げさに振り回して剣技(けんぎ)の8の形を連続して空()りしてみせた。

「凄いじゃないか君。重い(ソード)でも自在じゃないか! 剣の手習いがあるのか! 腰に軽そうな剣を下げていたので試させてもらった。合格だ! 詰め所で書類にサインしたら今日から近衛兵だ」

 当たり前だ(われ)を何だというのだ。ノッチス・ルッチス・ベネトス──天上人(てんじょうびと)(つるぎ)だぞ。それを人に言うのはアイリ・ライハラに禁じられているのでノッチはサインさせられた。

 ノッチ・ライハラ。家族:妻帯者。

「そうか嫁さん持ちか。給料、福利厚生は充実している。ノッチ君、君は今日から近衛兵第一連隊第三偵察騎兵に配属だ。凄いぞいきなり重要部隊に配属だ。ここ数年そんな若者はいなかった」


 ちょっと経験してみるつもりでエキゾチックな兵になってしまった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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