第15話 ふたりでひとつ
文字数 1,776文字
眠りの腕揺すられて重い瞼 開く半眼に居座る焦げ茶色の瞳で見たのは数多 の気泡浮かぶ群青色の海の中。
太腿 の下に回した両の腕の指絡め胎児のように丸まり浮かんでいた。
その泡立ちの音が突如 大きくなり真っ白な泡の幾重にも折りかさなるカーテンが立ち上り一面を覆 う。
様々な青の幾何学模様に海中が様変わりしそこに浮かんでいる自分が目の当たりにする不思議な光景。
手足の感覚が冷たく不確かで他人のもののようだと感じた直後、死後の世界は初めてではなかったが、こんな眺めは眼にしたことがないと黒髪の少女は思った。
波打つように幾つもの群青のステンドグラスが入れ替わり立ち替わり見渡していると何か大きな姿が断片的に見えてくる。
────形定まらず見るものによって如何様 にも────
人の有り様はそれぞれ違えどもそれぞれが同じだ。
天上人 の世界では信じるものの真の姿が見えてくる。
不意に黒髪の少女は興味をなくし瞼 を下げ半眼になると唇を歪 め引き結んだ。
その心慰めるようにそばにいる──あまりにも近すぎて、身近すぎて気づかぬ存在。
そんなことないと黒髪の少女は否定した。
ずっと長い年月、この胸の膨らみの間 にあったそれが、なくなった今、それの痕 に開いた洞 はどこまでも深くどこまでも広く闇へと引き摺 り込む。
逃げ出すより進む美しさを感じさせてくれていたそれはどこかへ消え去った。
消えてしまった今だからよくわかるんだと黒髪の少女は思う。
生きる理由を奪われたようだ。
半眼の焦げ茶色の瞳に光りはなく曇りが被い周囲のステンドグラスが組み合わさり、形成してゆくのも気づかず黒髪の少女は寄せては崩れる波の泡ぐらいに茫洋と見つめていた。
その茫洋が揺れ収斂 し形成 し見えたものに少女は眼 を開き視座を高めた。
抜けるような青さした大きな双翼の竜がそこにいた。
瞬 く間 、両の下瞼 に溢 れた雫 が頬 を流れ落ち顎 先から胸へ滴 った。
自分が見失ったもの。
己 が無くしたもの。
我 が忘失したすべて。
少女が両腕差し伸べた刹那 、その大きな双翼の竜が泳ぎ足下へくると突然に声が聞こえた。
────悲しむでない────
いいえ、わたしはあなたを見失い立ち直れない。
────そなたと諸 とも────
────心配するなかれ────
もうこの胸からあなたはいなくなったのよ。
────身も心も────
足下の竜がぐるぐると巡り見下ろす少女はぽっかりと穴開いた胸が踊るような楽しさが込み上げてきた。
その河床の大きものが告げていた言 の葉の枝の幹が見えた寸秒、黒髪の少女は理解した。
────さよう。此 の方 ──そちがまだ幼きときに命授かりしそうろう。その暗夜の灯火 これしきのことでは報いきれず────
胸の膨らみの間 に両の手のひらを重ね当て黒髪の少女は洞 を埋 めてゆくように閉じていた唇を開き息を吸い込み始め思った。
いつからだったっけ。
お前とが当たり前だったんだ。
もう形あるものとしてこの胸にいなくなったけれど、お前はいつもそばにいてくれるんだ。
とまっていた芯の臓が脈打ち身体を駆け巡る群青の血が遠く足先の指まで行き渡り冷さを追いやった。
瓦礫 だらけの地面に座り込んで尖った石畳 に両手ついて脅 えながら闇を見回し続けていた。
この漆黒 のどこかにあの狂暴な怪物がいるのだと大陸一嫌われている魔女──ミルヤミ・キルシは気配を探り続けていた。
その正面の高い暗闇に人の足のようなものが微 かに見えてキルシは確かめようと呟 くように火炎の魔法を詠唱 し地面に椅子ほどの焔 を生みだした。
上空の闇からぶら下がる両脚がゆっくりと下りていた。
魔女の焔 に照らし出されたのは顔傾けた巨竜に項 を咥 えられたチェインメイル姿のアイリ・ライハラ────!!!
魔女ミルヤミ・キルシの顔が強張った。
揺れる炎の向こう先、瓦礫 の地面に爪先からそっと下ろされ、黒髪の少女がノッチス・ルッチス・ベネトスの顎 先を上げた片手で撫で呟 いた。
「ありがとう、懸 けまくも畏 きわたし ────」
その巨竜が信じられないような静さで闇に下がり黒髪の少女が顔を下ろし魔女を見つめ優しくも鋭く言い放った。
「わたし を引き裂くなど────」
「おまえ如 きにはできない」
その一閃 、アイリ・ライハラの頭先から駆け下りた群青の色彩が風そよぐ長髪を変貌 させ眩 いばかりの耀 き放ち渓 を蒼 で染め上げた。
その泡立ちの音が
様々な青の幾何学模様に海中が様変わりしそこに浮かんでいる自分が目の当たりにする不思議な光景。
手足の感覚が冷たく不確かで他人のもののようだと感じた直後、死後の世界は初めてではなかったが、こんな眺めは眼にしたことがないと黒髪の少女は思った。
波打つように幾つもの群青のステンドグラスが入れ替わり立ち替わり見渡していると何か大きな姿が断片的に見えてくる。
────形定まらず見るものによって
人の有り様はそれぞれ違えどもそれぞれが同じだ。
不意に黒髪の少女は興味をなくし
その心慰めるようにそばにいる──あまりにも近すぎて、身近すぎて気づかぬ存在。
そんなことないと黒髪の少女は否定した。
ずっと長い年月、この胸の膨らみの
逃げ出すより進む美しさを感じさせてくれていたそれはどこかへ消え去った。
消えてしまった今だからよくわかるんだと黒髪の少女は思う。
生きる理由を奪われたようだ。
半眼の焦げ茶色の瞳に光りはなく曇りが被い周囲のステンドグラスが組み合わさり、形成してゆくのも気づかず黒髪の少女は寄せては崩れる波の泡ぐらいに茫洋と見つめていた。
その茫洋が揺れ
抜けるような青さした大きな双翼の竜がそこにいた。
自分が見失ったもの。
少女が両腕差し伸べた
────悲しむでない────
いいえ、わたしはあなたを見失い立ち直れない。
────そなたと
────心配するなかれ────
もうこの胸からあなたはいなくなったのよ。
────身も心も────
足下の竜がぐるぐると巡り見下ろす少女はぽっかりと穴開いた胸が踊るような楽しさが込み上げてきた。
その河床の大きものが告げていた
────さよう。
胸の膨らみの
いつからだったっけ。
お前とが当たり前だったんだ。
もう形あるものとしてこの胸にいなくなったけれど、お前はいつもそばにいてくれるんだ。
とまっていた芯の臓が脈打ち身体を駆け巡る群青の血が遠く足先の指まで行き渡り冷さを追いやった。
この
その正面の高い暗闇に人の足のようなものが
上空の闇からぶら下がる両脚がゆっくりと下りていた。
魔女の
魔女ミルヤミ・キルシの顔が強張った。
揺れる炎の向こう先、
「ありがとう、
その巨竜が信じられないような静さで闇に下がり黒髪の少女が顔を下ろし魔女を見つめ優しくも鋭く言い放った。
「
「おまえ
その