第2話 祈りにも似た闘(たたか)い
文字数 1,593文字
嘲りに来たか────?
イルミ・ランタサルはヘルカが言ったと思った。
「えっ? 何ですの──ヘルカ?」
イルミ・ランタサルが振り向き女騎士と目線が合うとヘルカは逆に問い返した。
「どうされましたか王妃様?」
「嘲る云々とは?」
ヘルカは顔の前で手を振って自分じゃないとジェスチャーで応えたのでイルミは前へ顔を向け残りのもの達に尋ねた。
「誰が嘲り云々と私に言いましたか?」
皆が手や顔を左右に振って言ってないと伝えると王妃は微かに眉根しかめて辺りを見まわした。
浜辺の岩礁に人影は見えず、霧の合間に見える髑髏の眼孔を見上げたがそこにも人の姿がなかった。
プレッシャーに幻聴が聞こえたのかとイルミは心落ち着かせようと知ってる地名を続けて馴染みの曲で適当に口ずさんだ。
「────────髑髏島、髑髏島、髑髏島──」
自分が言ってることが耳に入りイルミ・ランタサルは驚いて口ずさむのを止め足元の砂を見つめた。
きらきらと輝く砂は氷の結晶。
こんなところにいるから頭おかしくなるのだ!
イルミ・ランタサルは振り返り、ノッチが縄で小さな岩礁に繋ぎ止めた小舟へ向けて浜を駆けだした。
後ろから皆が喚き追いかけてくる音が聞こえていた。
だがあの救いの手を私がつかみ海原に乗りだすのだ!
霧に一瞬視界が悪くなり次に見えた小舟────────!? 小舟サイズの蛇の頭が見えそれが見る間に上がって鎌首をもたげるとイルミ・ランタサルに向けて飛びかかってきた。
逃れようと脚をからませ座り込むように膝を崩した。
「どうされましたか、王妃様?」
顔の前に差しのべられた紅い籠手を見つめ、どうしてヘルカ・ホスティラは甲冑着てるのかとイルミ・ランタサルは顔を上げるとヘルカ・ホスティラの頭をもう片側の手で小脇に抱きかかえており、切れた────。
────いや、引き裂かれた首の上から甲冑よりも赤い血が溢れだし胸当の前を滝のように滴ってくる。
イルミ・ランタサルは頭振り砂地に尻を着いたまま後退さろうとして両手が動かせないことに顔を向けると砂の数の膨大な蟻らが這い上がって来るのが見えた。
思わず悲鳴あげ足掻こうとして首以外に動かせないことに下を見ると顎下に氷の砂粒が広がりイルミ・ランタサルは自分が首を切られたのかと顔を引き攣らせ次に顎下まで埋められたのだと気づいた。
助け求めようと視線游がせるとノッチが首から上を埋まられておりなんとか抜け出そうと懸命に首をよじっている。
テレーゼ・マカイも己の頭部を小脇に抱え顎下まで埋められたアイリ・ライハラを足蹴にしていた。
「アイリ────!」
叫ぼうと開いた口から数多の蟻が溢れイルミ・ランタサルは息がつまった。
咳き込み吐きだすだけ出してしまうとイルミ・ランタサルはアイリ・ライハラに助け求めた。
その刹那、テレーゼが剣引き抜き埋められた少女に言い捨てた。
「姉様の仇! 命もらい受ける!!」
駄目よ──だめ────止めて!!!
叫ぼうとする都度に多量の蟻を吐き続けテレーゼ・マカイがアイリ・ライハラの頭横に足をかけ斜めに刃叩きおろすのを止められずに見続けるイルミ・ランタサルは狂いそうだと気づいた。
こんなこと────銀眼の魔女には──────なんということもない。
あれの意識は噴火口の熔岩の如く湧き上がっては覆い被さり荒れ狂う。
そのものに引き込もうと魔女が両腕伸ばし下から首をつかんでいた。
その銀眼を間近で見下ろしイルミ・ランタサルはどこからが術中なのだと教会の加護を強く意識した。
魔物なら聖書の一編を強く意識するだけで退けられる。
だが銀眼の女は首にかけた手を放しその指を左の眼孔に差し込もうと腕を上げ伸びた爪を瞳に押しつけてきた。
一瞬、皆が同じように座り込み泣き叫んでいるのが見えた。
ノーブル国王室の正当な後継者はこれしきのことで命堕とさぬと歯を食いしばった。
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