第3話 天上人(てんじょうびと)

文字数 1,733文字

彷徨(さなよ)える魂と──澄み渡る刹那(せつな)静寂(しじま)───(うれ)える羊たちを────お導き下さい──────大天使────────」


「──ミハイルよ!!!」


 片眼、(つぶ)される直前、天使の名を叫びながらイルミ・ランタサルは魔女の腕を左手だけで止めようとして、右手で教会より授かりし御像(ごぞう)の浮き彫りブローチを服から取り出し天へ(かか)げた。

 見上げた銀眼の魔女背後の曇天(どんてん)の合間に明かり差しイルミらのいる浜辺上空から天使の梯子(はしご)が下りてくる。



 ────無駄だよ────────。



 ────天上人(てんじょうびと)すらこの命運に抗えない────。

 アイリが言ったとおり意識に銀眼の魔女が直接言葉を語りかけていた。

 一瞬で氷砂の浜から氷窟(ひょうくつ)の中に放りだされ眼前から銀眼の魔女が消え失せた。

 どこからか氷の(ほら)に陽の光り差し込んでいるらしく方々に反射して様々な淡い青色をしているが(ほの)暗かった。

 眼を(およ)がせていたイルミは落ち着くと連れて来られたのが自分だけだと知って不安になった。

 魔女がここへ連れてきたのは何のためだ。

 人質とするためか?

 そうとは思えない。圧倒的にアイリら剣士に強さ誇る銀盤の魔女が人質なぞ捕ろうはずがなかった。

 理由は────と考えながら出口を探すためイルミは周囲をよく見まわした。

 異様に白い一角がありそれが人の姿に見えイルミは後退(あとず)さった。警戒し下がったのは人みたいな姿していながらその大きさが3倍はあろうかという怪物なみの背丈(せたけ)

 それが身動きとれぬほど氷に(おお)われ────よく見るともっと別の違和感に気づいた。

 人の姿していながら両肩の後ろから力なく1対の白い羽根が垂れ下がっている。

 魔物には見えなかった。

 翼もつ人に似た巨人────気づいた1つの事実にイルミ・ランタサルは(かぶり)振った。



 天使!?



 その斜め後ろにもう1人いることにイルミ・ランタサルは愕然(がくぜん)となった。

 ────天上人(てんじょうびと)すらこの命運に抗えない────

 そう意識に入り込んだ銀眼の魔女は言い切ったのをイルミ・ランタサルは思いだした。

 天使2人さえ敵わぬ敵に勝てようはずがなかった。

 いきなり背後から髪つかまれ投げ飛ばされると王妃(おうひ)は砂地に転がり込んだ。

 顔を上げると他のもの達が駆け寄ってきた。

「よかったです王妃(おうひ)様ぁ! (さら)われて命落とされたかと────」

 開口一番にヘルカ・ホスティラがそう告げた。

(みな)も見たのですか!?」

「何をですか?」

 テレーゼ・マカイが逆に問い返した。

「銀眼の魔女が天使を氷づけにしていました」

 ヘルカとテレーゼが顔を強ばらせた。

 なぜアイリ・ライハラとノッチは顔色一つ変えないのだと王妃(おうひ)は2人を見つめ理由に気づいた。


「アイリ、ノッチ──貴方(あなた)がた知って────いたのですね!?」


 アイリがノッチの方を振り向き目配せした寸秒ノッチが切りだした。

「そうだ。銀盤の魔女は天上人(てんじょうびと)を2柱捕らえている」

 アイリの後ろに立つ少女の夫を見上げ山で遭難する男がなぜそのようなことを知ってるのだとイルミは眼を細めた。

「話していれば銀眼の魔女討伐(とうばつ)には来なかったとでも────?」

 そうアイリに言われイルミ・ランタサルは(かぶり)振り告げた。

天上人(てんじょうびと)を捕らえる力持つ邪悪な魔女ならなおのこと捕らえ魔女裁判にかけるか、討伐(とうばつ)で首を()ねるまで。それよりも先に知っていたのはアイリ!? ノッチ!? 白状なさい!」

 イルミ・ランタサルが問いただすとノッチが指摘した。


「その順番に意味があると? 問題は銀盤の魔女の極度に卓越した能力にある。それがわからぬ貴女(あなた)でもあるまい」


 細く開いた瞳が座り完全に半眼になるとイルミ王妃(おうひ)がねじ曲げていた唇を開いた。

「知らされていれば、ヴィツキン市国の枢機卿(すうききょう)に直訴し十字軍全軍を出して成敗にあたることもできたのに」

 だがノッチが厳しいことを指摘した。

「高々20万あまりの騎兵に銀盤の魔女が倒せるなんて思わない方がいい。あ(やつ)嬉々(きき)としてその全軍を(ほふ)るだろう。神も同じ(てつ)を踏み天使達を失った」

 イルミ・ランタサルはまるでノッチが天上人(てんじょうびと)サイドの物言をしていることに目眩(めまい)覚え1つの事実に気づいた。



 アイリ・ライハラは天使となったイラ・ヤルヴァと話すことができ、さらに────────何度も黄泉(よみ)から生きて戻ってくるのだ。



 この青髪の2人は天上人(てんじょうびと)なのか!?





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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