第24話 似たり寄ったり

文字数 1,801文字

 (にら)み下ろした先に青色の髪の少女がいるのを目にとめアーウェルサ・パイトニサム──裏の魔女キルシは一瞬うろたえた。

 だが平静を装ったのは最悪の魔女に相応しいという矜持(きょうじ)


「汚ねぇ爪の魔女!」


 荷馬車後部にいる青髪の少女に指さされ、なんという言い草だとキルシは(はらわた)が煮えくり返り言い返した。


「うるさい! ぺったんこのチビ! 名を呼ばれ来てみれば貴様か! これは染めているんだ。不潔などではない!」


 それを耳にして止まった荷馬車の操馬台(コーチ)に女暗殺者(アサシン)イラと並び座るイルミ王女は思わず片側の唇を持ち上げた。

 裏の魔女と名高い最悪の魔女を始めて眼にしているが、突然現れて空中に浮いている事を除けば、ただの馬鹿娘に他ならない事に恐るるに足らないと値踏みした。


「ぺったんと言ったなぁ! チビだと愚弄(ぐろう)したなぁ! 同じ背の洗濯板がぁ!」


 言い返すアイリ・ライハラも聞くに()えないとイルミ王女は思った。だが一方は最悪の魔女と言われ一方は数千の軍勢に匹敵する剣豪──ただで済まぬと思ったが王女は太ももに乗せた手指を怪しく(うごめ)かせ奸計を企んだ。

「くぬぬぬぬぅ! 同じだと!? お前と我が同じ背丈だと!? 下りてこい青髪の岩盤、比べてみようじゃないか」

 そう言いながらキルシは空中をすっと移動し荷馬車の(かたわ)らに降りてくるとアイリを(にら)みあげた。

「岩盤だぁ!? 待ってろ、泥髪の魔女!」

 そう告げてアイリは己の長剣(ロングソード)をつかみ荷馬車から飛び下りた途端に地面に両膝(りょうひざ)を落とした。

「なんだお前、我の土色の髪を愚弄(ぐろう)しておいて我に(ひざまず)いて赦しを乞うか」

「痛たたたぁ、馬鹿やろう(しび)れて立てないだけだぁ」

 そこへ後続の荷馬車から下りてきた女騎士ヘルカ・ホスティラが割って入った。

「何をやってるアイリ! ウチルイの手のものが今にも追いつきかかっているときに! そこの農家の小娘──すまぬが先を急いで──」

「くぬぅ! 誰が小娘だと!?」

 言いかけている女騎士へ裏の魔女が左手を振り上げるとヘルカは竜の尾に弾かれた様に最後尾の荷馬車の横まで飛ばされ草叢(くさむら)に派手に滑り落ちた。

「何やってんだよ、()魔女!」

 アイリ・ライハラに糞を付けられキルシはさっと顔色を変えた。

「お前をデアチで血祭りに上げようと大細工を準備していたが、ここで血祭りにしようぞ」

 いきなり長剣(ロングソード)を支えに片(ひざ)を立てた少女が含み笑いを(こぼ)し始め合間に(つぶや)いた。


「お前、糞の上に────馬鹿(・・)も付いてるな」


 アーウェルサ・パイトニサムが押し殺した声で尋ねた。

「何だと──青髪!? もう一遍言ってみろ」


馬鹿(・・)という言葉も知らぬ間抜け(・・・)だと」


 裏の魔女キルシがゆっくりと指を開いた両手を持ち上げ始めるとその両手のひらの間に渦巻く(フレア)が大きくなりだした。

 それを(にら)みながらアイリ・ライハラは立ち上がると長剣(ロングソード)を引き抜き(スキャバード)草叢(くさむら)に投げ捨てた。


「アーウェルサ・パイトニサム裏の魔女キルシ────1つ教えてやる──」


「死ね青髪」

 そう吐き捨て最悪の魔女が両手を頭上に抱え上げ火炎が馬をも呑み込める大きさに膨らんだ瞬間、目の前の群青の少女が(つぶや)いた。


「ナイン・ステップ」


 横へアイリ・ライハラの姿が急激に左へ()き伸び裏の魔女キルシは追いかける様に振り向き両手を振り下ろした。

 凄まじい音が尾を()き広がり火炎渦巻く球体がアイリ・ライハラの姿を飲み込んだ直後、最後尾の荷馬車をぎりぎりで(かす)め遠く後方まで飛び土砂を巻き上げ爆煙が広がると遅れて熱風の波が押し寄せた。

 その破壊力に満足することなくキルシは焼け焦がれた青髪の(むくろ)草叢(くさむら)に探し目を(およ)がせた。


「どこ探してんだよ」




 瞳を大きく見開いたキルシの背後に立つアイリ・ライハラが魔女の喉に(ソード)を回していた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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