第24話 地獄の先
文字数 2,732文字
「身をわきまえるのはお前の方だ! ヴィルホ・カンニスト!!」
老家臣 の横に立っていた女騎士ヘルカ・ホスティラがそう言い捨て数歩離れ男を睨 み据えていた。
だが老家臣 は狼狽 えるどころか開き直った。
「何を言うか、ヘルカ・ホスティラ!」
示し合わせていたライモ近衛兵長とリクハルド・ラハナトス騎士団長それに切りだした女騎士ヘルカ・ホスティラに取り囲まれヴィルホ・カンニストは3人を睨 み回した。そのさまに他の4人の家臣 が遠退 き、女騎士が続けた。
「ヨエル・スヴェントが何もかも話したぞ! 貴様が王家転覆 を謀 り、見返りにヨエルとタウノ・マキネンに騎士団を任せると!」
「何を世迷いごとを! それこそが、わたし──ヴィルホ・カンニストを失墜差せる謀叛 。イルミ王女! 騎士団がわたしめを貶 めようとしておりますぞ!」
騎士達の間からイルミ・ランタサルへ老家臣 は訴えかけるさまを彼女はつぶさに見つめ、長らくランタサル家に仕えてきたものが相変わらず賢いと思った。
余計なことを口走り、足をすくわれるような愚行をしない。あくまでも騎士団が謀叛 を起こしたととれる。
「騎士団長リクハル、そなたどこまで事情をつかんでいます?」
王女に尋ねられ、騎士団長は振り向くと真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「王女、確かにヨエルとタウノは元騎士、しかし投獄され死刑を目前に嘘の申し立てをし、何の徳が御座いましょうか。城内に不穏な勢力があるのはご存知でしょう。ヴィルホ・カンニストはその一端に過ぎません。御見過ごしになられては王家の存続は危ぶまれます」
ことが終わりヨエルとタウノに恩赦 を与えるという逃げ手が騎士団にはあった。その上で家臣 カンニストを失墜させると策略も考えられる。双方の言い分がもっともに聞こえる。カンニストが正しければ騎士団には何かしらの目的があり、騎士団が正しければカンニストには何かしらの目的がある。しかし、どちらが王家転覆を謀 っても王位にはつけない。利が見えなかった。王女がそこまで思ったとき、目の前にいるアイリ・ライハラが王女に囁 いた。
「イルミ、あんた私に命預ける気はある?」
王女は少女に奸計 があると気づき即答した。
「もちろん、アイリ。あなたはわたくしを4度も助けたのです。わたくしはあなたを信じます」
それを聞き、少女は家臣 を取り囲む騎士達へ振り向いた。
「誰か短剣をええとその人──ヴィルホさんに貸してあげて」
アイリへ騎士団長と女騎士、近衛兵長が怪訝な視線を向けたので王女が命じた。
「そのように!」
ライモ近衛兵長が少しばかり長めの短剣を鞘 から抜き手首を返しそれを老家臣 へ差し出しすとアイリがまた申し出た。
「ヴィルホさんから皆 離れて」
騎士団長が困惑げな視線を王女に向けイルミ・ランタサルが頷 くと3人は老家臣 から離れた。
「イルミ、あの人へ手のとどかないぎりぎり手前まで行って」
イルミ王女は少女に言われるまま玉座の段から下りて老家臣 へと歩を進めた。それに合わせてアイリはカーペットに置いてある自分の長剣 をつかみ上げ王女のすぐ後ろについて歩いた。
言われたままに王女はヴィルホの手がとどきそうな間近までゆくと足を止めた。その真後ろにアイリは立ち老家臣 へ告げた。
「さあ、ヴィルホ──千載一遇のチャンスよ。今、止めに入れるものはいない」
老家臣 ヴィルホ・カンニスト一瞬顔を強ばらせ、その左右に離れていた騎士団長と女騎士が慌てて止めに入ろうとした。だが老家臣 の腕を上げる方が確実に速かった。そうしてヴィルホ・カンニストは短剣を振りだしながらイルミ・ランタサルへ踏みだした。
いきなり短剣が床に落ちて落ち葉のように数本の短い曲がった棒が飛び散った。踝 まである長い礼服の前に大小の赤い点が広がるのも同時だった。
いきなりヴィルホ・カンニストは皺 多き顔を強ばらせ右手首を左手でつかみ俯 き呻 きだした。
その右手首を見つめたイルミ王女は瞳を丸くした。手のひらからすべての指が根元に近い部分から無くなっている。そう気がついた瞬間、背後で鞘 に剣 を戻す砥石で研ぐような音がして彼女はすべてを理解した。
わたくしの背後にいながらにしてアイリ・ライハラは襲いかかる老家臣 の右手指すべてを切り落としその刃物を使えないものとしてくれた。
凄い! 音どころか気配すら感じさせない剣技!
どうやって人ひとり挟 んでこんな芸当ができるの!?
だがその場の興奮をおさめイルミ王女は老家臣 へ言い張った。
「地に落ちるとはこのこと。よいか、ヴィルホ・カンニスト──」
いきなりイルミ・ランタサルは老家臣 の股間 を蹴り上げ、ヴィルホ・カンニストは息を吸い込みながら悲鳴を上げ指の無くなった右手で激痛の嵐の根元を押さえ込んだ。
「──地獄の沙汰が天国の如 き責め苦で、王室転覆の差し金を引いた奴の口を割らせましょうぞ」
王女が言い切ると、彼女の顔色をうかがいながら女騎士ヘルカ・ホスティラが老家臣 の左腕をつかみ右腕を騎士団長リクハルド・ラハナトスがつかむと2人がかりで王女の前から引き連れて行った。その後ろ姿が開いた出入り口から見えなくなると、イルミ王女は残された4人の家臣 へ顔を向け家臣 らは困惑げな面もちを浮かべ見返した。
「よいですか? わたくしの王位継承年齢になる前にと荒事を企むのであれば、圧制の何たるかを身を持って理解することになるでしょう。企 みは何 れ露顕 し、わたくしの剣 アイリ・ライハラが地獄の先まで追い込みます」
そう王女が啖呵 を切った刹那 、彼女は後ろから尻を小突かれ、後ろ足でやり返したが膨らんだスカートを少女が逃げ躱 した。
「わたくしの剣 は、裏切り者が譬 え十万の兵の陰に逃げ込んでも必ず──」
いきなり尻を蹴り飛ばされイルミ・ランタサルがよろめき、姿勢を正すと咳払い1つをおいて続けた。
「──地の果てまで追い詰めると心し、政 に務めなさい。行きなさい」
そう王女が言い終わると4人の家臣 は、頭 を下げ一礼とし謁見 の間を後にした。直後、近衛兵長ライモが大笑いをし王女と少女の口喧嘩が始まった。
「いいこと、アイリ・ライハラ! 大事なところでぶち壊すんじゃありません!」
「うるせぇ、勝手に俺を地獄の先や、十万の敵兵に差し出すな! 2度と助けてやるか!」
「あなたは5度も我の命を護ったのです。これが運命だと知りこれからも──」
いきなりアイリ・ライハラが王女に脚払いをかけようとし、イルミ・ランタサルは飛び上がり躱 すと、バランスを崩した少女がひっくり返った。
その倒れた群青の髪の女騎士の卵に気高い一国の王女は右手を差し伸べ、少女がふてくされつかもうとするとイルミ・ランタサルは右手指を妖しく蠢 かせアイリ・ライハラは慌てて手を引っ込めた。
老
だが老
「何を言うか、ヘルカ・ホスティラ!」
示し合わせていたライモ近衛兵長とリクハルド・ラハナトス騎士団長それに切りだした女騎士ヘルカ・ホスティラに取り囲まれヴィルホ・カンニストは3人を
「ヨエル・スヴェントが何もかも話したぞ! 貴様が王家
「何を世迷いごとを! それこそが、わたし──ヴィルホ・カンニストを失墜差せる
騎士達の間からイルミ・ランタサルへ老
余計なことを口走り、足をすくわれるような愚行をしない。あくまでも騎士団が
「騎士団長リクハル、そなたどこまで事情をつかんでいます?」
王女に尋ねられ、騎士団長は振り向くと真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「王女、確かにヨエルとタウノは元騎士、しかし投獄され死刑を目前に嘘の申し立てをし、何の徳が御座いましょうか。城内に不穏な勢力があるのはご存知でしょう。ヴィルホ・カンニストはその一端に過ぎません。御見過ごしになられては王家の存続は危ぶまれます」
ことが終わりヨエルとタウノに
「イルミ、あんた私に命預ける気はある?」
王女は少女に
「もちろん、アイリ。あなたはわたくしを4度も助けたのです。わたくしはあなたを信じます」
それを聞き、少女は
「誰か短剣をええとその人──ヴィルホさんに貸してあげて」
アイリへ騎士団長と女騎士、近衛兵長が怪訝な視線を向けたので王女が命じた。
「そのように!」
ライモ近衛兵長が少しばかり長めの短剣を
「ヴィルホさんから
騎士団長が困惑げな視線を王女に向けイルミ・ランタサルが
「イルミ、あの人へ手のとどかないぎりぎり手前まで行って」
イルミ王女は少女に言われるまま玉座の段から下りて老
言われたままに王女はヴィルホの手がとどきそうな間近までゆくと足を止めた。その真後ろにアイリは立ち老
「さあ、ヴィルホ──千載一遇のチャンスよ。今、止めに入れるものはいない」
老
いきなり短剣が床に落ちて落ち葉のように数本の短い曲がった棒が飛び散った。
いきなりヴィルホ・カンニストは
その右手首を見つめたイルミ王女は瞳を丸くした。手のひらからすべての指が根元に近い部分から無くなっている。そう気がついた瞬間、背後で
わたくしの背後にいながらにしてアイリ・ライハラは襲いかかる老
凄い! 音どころか気配すら感じさせない剣技!
どうやって人ひとり
だがその場の興奮をおさめイルミ王女は老
「地に落ちるとはこのこと。よいか、ヴィルホ・カンニスト──」
いきなりイルミ・ランタサルは老
「──地獄の沙汰が天国の
王女が言い切ると、彼女の顔色をうかがいながら女騎士ヘルカ・ホスティラが老
「よいですか? わたくしの王位継承年齢になる前にと荒事を企むのであれば、圧制の何たるかを身を持って理解することになるでしょう。
そう王女が
「わたくしの
いきなり尻を蹴り飛ばされイルミ・ランタサルがよろめき、姿勢を正すと咳払い1つをおいて続けた。
「──地の果てまで追い詰めると心し、
そう王女が言い終わると4人の
「いいこと、アイリ・ライハラ! 大事なところでぶち壊すんじゃありません!」
「うるせぇ、勝手に俺を地獄の先や、十万の敵兵に差し出すな! 2度と助けてやるか!」
「あなたは5度も我の命を護ったのです。これが運命だと知りこれからも──」
いきなりアイリ・ライハラが王女に脚払いをかけようとし、イルミ・ランタサルは飛び上がり
その倒れた群青の髪の女騎士の卵に気高い一国の王女は右手を差し伸べ、少女がふてくされつかもうとするとイルミ・ランタサルは右手指を妖しく