第15話 激速

文字数 1,734文字


 こいつは天上人(てんじょうびと)を捕らえ(にえ)としてきたのだな。

 そうだ。2柱が囚われの身となり────。

 激突した壁の前から忽然(こつぜん)と消えた魔女がカローンの(かたわ)らにいきなり現れると双刀(そうとう)から氷の大剣(クレイモア)に変えた(やいば)を振り回した。

 とっさに河守(かわもり)はそれを立てた前腕で受けた瞬間、激しく飛ばされ壁に激突し、その魔女へノッチは長剣(ロングソード)を打ち込むと白髪を振り上げ手首を返した銀眼の魔女は氷の(ソード)の付け根で受け止めた。

 その機転の素速さと強さは(あなど)れないとノッチはいったん後退(あとず)さった。

 ノッチを追うように銀眼の魔女が攻め込んでくると壁から抜け出たカローンが魔女の側面に迫り殴りつけた。(こぶし)がうなり白い(ほお)に命中したが、銀眼の魔女は揺るぎもしなかった。

 ノッチを攻め立てた大剣(クレイモア)を引き戻しその尾底────ポメルを急激に加速させカローンの顳顬(こめかみ)に命中させると冥府(めいふ)河守(かわもり)は後頭部から氷の壁に飛ばされまた激突した。

 それを見ていたアイリはヤバいと思いヘルカとテレーゼに命じた。

「加勢しに行くぞヘルカ! テレーゼはイルミの護衛!!」

 言い切る寸前にすでにアイリ・ライハラは(ソード)を引き抜き床に広がる落とし穴の1番狭い場所から跳躍(ちょうやく)しヘルカ・ホスティラも後に続いた。

 一気に4対1になった銀眼の魔女は手薄になったテレーゼの服に視線を向けその背後からいきなり現れ大剣(クレイモア)でイルミ・ランタサルに襲いかかった。

 その初撃を王妃(おうひ)後退(あとず)さり引き抜いたスクラマサクス(:一般的な西洋剣よりやや短めの剣)で弾きそらし、振り向いたテレーゼが王妃(おうひ)を追い次手に打ってでる魔女の背後へ襲いかかった。

 (うなじ)狙ったテレーゼの(ブレード)が急激に迫ると銀眼の魔女は大剣(クレイモア)を振り上げ肩の上から斜め後ろに振り下ろした大きな(やいば)で弾き一瞬で振り向き大剣(クレイモア)を回転させテレーゼに2撃目を振り下ろした。

 逃れる間合いも時間すらなくテレーゼはありったけの肺活量で魔女に呪いの叫び声を浴びせた。

 魔女の(からだ)()り裂くこと(かな)わずともバンシーの響きは一瞬で氷の大剣(クレイモア)を撃ち砕き、そこへ落とし穴を飛び越えたアイリ・ライハラが()り込んでくると銀眼の魔女は何も持たなかった左手に突如(とつじょ)氷の長剣(ロングソード)を握りしめ(やいば)振り上げ少女の長剣(ロングソード)を打ち()らした。

 その腕上がり無防備になった胸めがけテレーゼが刃口(きっさき)を爆速で打ち込むと狙われた銀眼の魔女は片腕に握る砕けた大剣(クレイモア)を投げ捨て新たな長剣(ロングソード)でマカイのシーデの突きを弾き()らした。

 その後手に回る魔女の背後から落とし穴を飛び越えてきたカローンが正拳(せいけん)を打ち込むと銀眼の魔女は落とし穴の反対側にいる大柄な女へ視線を向け一瞬でその背後から現れ(うなじ)めがけ2振り(ふたふり)(ブレード)を打ち込もうとした。

 だがそれよりも速くノッチが2口(ふたふり)の雷光の(ソード)を魔女の側頭部めがけ打ち込んだ。

 その天上人(てんじょうびと)(ブレード)が躍り上がった白髪に届く寸前、銀眼の魔女はノッチの服に視線を振り向け、青竜の背後に現れ男の(うなじ)目掛け1振り(ひとふり)(ブレード)を放った。

 アイリの夫狙う魔女の顔へ女騎士ヘルカ・ホスティラがノッチの身体回り込み長剣(ロングソード)を突き上げた。

 しかし、まるでその太刀筋(たちすじ)を予測していたでもいうように笑み浮かべ続ける魔女は左手の(ソード)(たた)き落とすとノッチの(うなじ)目掛けた右腕の長剣(ロングソード)(こぶし)1つ分まで迫り天上人(てんじょうびと)の男は肩の上から回した雷光の(ソード)で氷の(ソード)(たた)き折った。



「お前らは────邪魔になった」



 そうノッチとヘルカに言い残して落とし穴向こうのイルミ・ランタサルの背後にいきなり現れた銀眼の魔女は、王妃(おうひ)の後頭部を(つらぬ)こうと右手に逆手で握った長剣(ロングソード)を打ち込もうとした。



 だがそう何度も思い通りにゆかぬことに銀眼の魔女は初めて笑みを(くず)した。

 イルミ・ランタサルの左右からステップ激しく踏み込んでアイリ・ライハラとテレーゼ・マカイが氷床(ひょうしょう)ぎりぎりに刃口(きっさき)で弧を描きながらイルミ・ランタサル背後の魔女に迫った。

 寸秒、その2人の裏をかいてミエリッキ・キルシは一瞬で王妃(おうひ)の正面に現れるとその心臓を一突きしようと(ソード)を打ちだした。

 それを待っていたとでもいうように銀眼の魔女の(かたわ)らで(こぶし)引いて構えていたカローンは爆速で魔女キルシの鳩尾(みぞおち)に1撃を打ち込んだ。



 落とし穴を越えて飛ばされ氷床(ひょうしょう)に落ち滑り止まった銀眼の魔女の両肩の(そば)に待ち構えていたノッチとヘルカ・ホスティラはその異常に速い魔女の顔と胸に力込め刃口(ポイント)を打ち込んだ。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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