第3話 崩落
文字数 1,862文字
騎士らが爆薬を仕掛ける間、大穴の縁 からそっと底を覗 き込みながらアイリ・ライハラはふと思った。
どうして魔女ミルヤミ・キルシは穴から上がってこないのだろうか?
魔女なら箒 に乗って飛ぶこともできるだろうし。
いや、あいつは今、手ぶらなのだ。飛ぶことはできない。
あの華奢 な手足でこのすり鉢 のきつい斜面を登ってこれないとかとアイリは考えた。
イズイ大陸1悪辣 でもできないことも多いのだろう。あいつ穴底で困っているのかも。
いやいや! アイリは頭 振った。ランタサル国王とイルミ王女を殺しかかった奴だ。同情なんて不要だとアイリは思いなおした。
「ライハラ殿、穴の縁 爆破の用意が整いましたです」
歳嵩 の騎士オイヴァ・ティッカネンがアイリの傍 らに来てそう報告した。
アイリは今一度、穴底の動きをみせぬ魔女ミルヤミ・キルシを見つめながら配下の騎士に命じた。
「よし! ぶっ飛ばせ!」
その命令に横にいるオイヴァが他の騎士へ振り向き頷 くと、離れた場所にいる騎士がフリントを剣 のハンドル・ガードにぶつけ飛び散る火花で導火線に火を点けた。
火が走り始めると他の騎士らも魔女がどうなるのかと興味持ち大穴の縁に並んで這いつくばり穴底を覗 き込み始めた。
どうなるのか?
縁が崩 れ落ちてその落石に呑み込まれるに決まってるとアイリは想像する。
お前ら縁が崩 れ落ちるんだぞ! 何で気がつかねェ!?
縁に並んで這いつくばり眺めていることにアイリは顔を引き攣 らせ後退 さりし始めた。
「お前ら──逃げないと────呑み込まれるぞ」
アイリが小声で警告しても他の騎士どころか女大将ヒルダさえ気づかずに穴底を眺 めていることにアイリは青ざめついに大声で警告した。
「馬鹿やろう! 穴の傍 にいたら崩落 に引き摺 り込まれるじゃん!!!」
振り向いた数人の騎士がやっと理解し隣のまだ気づいていない騎士の肩や腕を揺すり警告し始めた。
アイリが導火線に眼をやると、すでに中ほどを過ぎて火は分岐して穴縁の色んな方へと突っ走っていた。
顎 を落としたアイリは立ち上がりなおも縁から後退 さった。
並んで見ていた殆 どの騎士らが気がつき身体起こし逃げようとし始め、アイリは何かにつまづき後ろに派手にひっくり返って眼を向けると横に寝そべった腹の出た騎士マティアス・サンカラだった。
「何をしますんですか団長どん? せっかく寝入っておったのに────」
あくび上げてマティアスが不満をもらした。
「お、お前も逃げろ──ここはぜんぶ引き摺 り込まれ崩落するぞ」
そう腹の出た騎士に告げアイリは尻餅ついたまま後退 さった。
穴縁から立ち上がった騎士らがアイリ・ライハラの方へ駆けだした寸秒、穴縁の方々で一斉に爆発が起きて大量の土砂が噴き上がった。
めくれ上がった地面に次々に騎士らが宙に投げ出され喚 き声を引き連れながら崩 れ落ちてゆく地面に呑み込まれてゆくのをアイリは眼を丸くして見つめていた。
1人その崩 れゆく地面を凄い形相で駆け上がってきたのは女大将ヒルダだった。
だが罅 を走らせ崩 れ落ちてゆく地面の方が速く、ヒルダの足下が完全に壊れ女大将はアイリの方へ手を伸ばし叫びながら粉塵 に呑み込まれた。
「アイリ──どのぉ────!!!」
ヒルダの叫び声がかき消えると地面の崩落は腹の出た騎士マティアス・サンカラの手前で収まった。
「団長どん、呑み込まれなかったでしょうが」
いいや、お前と俺を残して皆 呑み込まれたんだぞ! ちっとは心配しろや! と唖然とした面もちのアイリ・ライハラはマティアスに思った。
そうして騎士団長は寝転がったおっさんを避けて広がった穴縁へと行き下を覗き込んだ。
すり鉢 のように急な斜面の深い穴底が、浅い皿のように緩やかな穴になっていた。
流れ込んだ土砂の方々から甲冑 の手足が突き出ておりそれらが呻 き声を漏らし痙攣 していた。
あ────ぁ、だから嫌な予感がしたんだとアイリは見つめながら顎 を落としたまま小鼻をひくつかせた。
だが穴底中央にいた裏の魔女ミルヤミ・キルシは姿を消していた。
生き埋めになって助からなかったんだとアイリは思った。
ならさっさと半埋 まりになってる騎士らを掘り出して引き上げるとしようとアイリが緩やかな斜面を下り始めた矢先に穴底中央の土砂が盛り上がり両腕がそれを広げるとボコッと包帯を頭に巻いた黒髪の小娘が上半身を乗りだしアイリ・ライハラに片腕振り向け怒鳴った。
「き、貴様かぁ青髪ぃぃい!儂 を生き埋めにしおったのは!?」
小娘擬 きの婆 はやっぱりシブトいとアイリは唇をひん曲げた。
どうして魔女ミルヤミ・キルシは穴から上がってこないのだろうか?
魔女なら
いや、あいつは今、手ぶらなのだ。飛ぶことはできない。
あの
イズイ大陸1
いやいや! アイリは
「ライハラ殿、穴の
アイリは今一度、穴底の動きをみせぬ魔女ミルヤミ・キルシを見つめながら配下の騎士に命じた。
「よし! ぶっ飛ばせ!」
その命令に横にいるオイヴァが他の騎士へ振り向き
火が走り始めると他の騎士らも魔女がどうなるのかと興味持ち大穴の縁に並んで這いつくばり穴底を
どうなるのか?
縁が
お前ら縁が
縁に並んで這いつくばり眺めていることにアイリは顔を引き
「お前ら──逃げないと────呑み込まれるぞ」
アイリが小声で警告しても他の騎士どころか女大将ヒルダさえ気づかずに穴底を
「馬鹿やろう! 穴の
振り向いた数人の騎士がやっと理解し隣のまだ気づいていない騎士の肩や腕を揺すり警告し始めた。
アイリが導火線に眼をやると、すでに中ほどを過ぎて火は分岐して穴縁の色んな方へと突っ走っていた。
並んで見ていた
「何をしますんですか団長どん? せっかく寝入っておったのに────」
あくび上げてマティアスが不満をもらした。
「お、お前も逃げろ──ここはぜんぶ引き
そう腹の出た騎士に告げアイリは尻餅ついたまま
穴縁から立ち上がった騎士らがアイリ・ライハラの方へ駆けだした寸秒、穴縁の方々で一斉に爆発が起きて大量の土砂が噴き上がった。
めくれ上がった地面に次々に騎士らが宙に投げ出され
1人その
だが
「アイリ──どのぉ────!!!」
ヒルダの叫び声がかき消えると地面の崩落は腹の出た騎士マティアス・サンカラの手前で収まった。
「団長どん、呑み込まれなかったでしょうが」
いいや、お前と俺を残して
そうして騎士団長は寝転がったおっさんを避けて広がった穴縁へと行き下を覗き込んだ。
すり
流れ込んだ土砂の方々から
あ────ぁ、だから嫌な予感がしたんだとアイリは見つめながら
だが穴底中央にいた裏の魔女ミルヤミ・キルシは姿を消していた。
生き埋めになって助からなかったんだとアイリは思った。
ならさっさと
「き、貴様かぁ青髪ぃぃい!
小娘