第2話 動く油

文字数 1,900文字

 入った部屋にアイリ・ライハラは調度品に驚いた。

 みな(しも)をかぶっているが氷でできているわけではない。

 ベッドもあればテーブルや椅子もある、化粧台さえある。

 凍てついてなければ普通の質素な女の部屋だとアイリは思った。

 アイリはなんとなく化粧台の引き出しを開いて眼を細め(あわ)てて閉じた。

「何を見つけましたの?」

 そう言いイルミ・ランタサルが身をのりだした。

「見ないほうがいいよ」

 だが少女の忠告を無視したイルミ王妃(おうひ)は鏡台の引き出しの取っ手に指かけ引っ張った。

「うっ!!!」

 すぱんとイルミ・ランタサルは引き出しを閉じた。

「何ですか? 流れ星をお見つけしたのですか?」

 覗き込んできたヘルカ・ホスティラが王妃(おうひ)が閉じた引き出しに手をかけ引っ張り(うめ)いた。

「ううっ!」

 引き出しを開いたまま女騎士は顔を背け吐きそうになって抗議した。

「どうして教えてくれなかったんですか────おえぇえ」

「やっぱりまともじゃありませんわ」

 テレーゼが覗き込み顔をしかめた。

「目玉をこんなに────グロですね」

 イルミ王妃(おうひ)は猟奇的な銀眼の魔女の収集癖(しゅうしゅうへき)を無視して振り向いて(みな)に指示をだした。


「さあ、早く流れ星を探しましょう。大きさは卵以上、(うり)ほどまでです。見つけても触れぬよう。憑依(ひょうい)されますよ」


 それを聞いて触らなくてもとり()かれるじゃんとアイリは思い返した。

 だが流れ星はどうして全員でなく1人にとり()くんだろうかと少女は疑問に思った。

「イルミ王妃(おうひ)、これを見て下さい」

 ヘルカ・ホスティラに呼ばれたイルミ・ランタサルが女騎士の方へ行くのを家探(やさが)ししながらアイリは見つめた。

 ヘルカ・ホスティラが見つけたのは氷の壁に人の胸の高さに埋め込まれた卵ほどの陰だった。

「灯りもないのに、時々、光るんです」

「掘りだしてみて」

 そう言われヘルカは短刀を抜き刃口(きっさき)で氷を削り始めた。

 そんなに簡単に見つかるところに銀眼の魔女が隠すかなとアイリは思いながら目玉が引き出しに沢山入ってる鏡台をじっと見つめた。

 あいつでも化粧するんだ。

 そういや紫の紅さしていたな。

 アイリ・ライハラはふと鏡枠(かがみわく)に手をかけ裏壁を覗き込んだ。

 ちょうど鏡の中央にあたる壁に手の入りそうな丸い穴が開いていた。

 少女は力まかせに化粧台を横へ押しやり穴を覗き込んだ。

 奥が深く暗くて中が見えない。

 アイリはナイフ取りだした刃口(きっさき)を穴の下に沿わせて差し込んでみた。

 (やいば)に何か乗っかる感じがしてナイフで(まさぐ)っていると真っ黒な球が転がり出てきて床に落ち少女は驚いて跳び退()いた。

 鏡台の足元にそれは転がり止まった。

 なんだか石炭を削って丸くしたような光沢のない球だった。

「うわぁ!」

 ヘルカ・ホスティラの(おどろ)き声が聞こえてアイリが振り向くと女騎士が手のひらの布に載せているオレンジほどの球が虹色の光り放っていた。

 なんだ光るだけなら発光石と変わんねえじゃんとアイリは鏡台の足元に転がり止まっている艶のない黒い球体に視線戻しナイフの先でつついてみた。

 なんだか丸めて固めた牛の(ふん)のような気がした。

「あぁこれです、アイリさん! 流れ星!」

 アイリはとっさにこれが銀眼の魔女の力の(もと)なら踏み割ってやろうと片足持ち上げ、いきなり後頭部を(たた)かれ振り向いた。

「痛ぇえええ!」

 イルミ・ランタサルが(スキャバード)に入った剣を両手に持ちもう1発(たた)こうとしており、アイリはとっさに腕で顔を(かば)った。

「なにしやがる、くるんくるん!」

「あなたはどうしてそう話をややこしくするのです!? 持ち帰り魔法で封印し────」

 説明しながらアイリ・ライハラの足元を見つめるイルミ王妃(おうひ)がみる()に顔を強ばらせた。

「アイリ──横へすぐに跳び退()きなさい────」

 アイリ・ライハラが視線下ろすと鏡台の足元にある黒い(かたまり)がぱっくりと4つに割れ中から黒いタールのようなものが流れだし少女の足にうねうねと迫った。

 アイリ・ライハラは驚いて跳び退()いた。

 それと同時にその黒い液体はアイリの足があったところに飛びつき空を切り床に落ちた。



(みんな)、部屋を出ろ!」



 そうアイリは警告を発し、そのうねうねと動く黒いものから視線外さず腰袋から火打ち石と小さな油瓶(あぶらびん)、火薬を織り込んだ紙縒(こより)を取りだした。

 そうしてアイリは油壷をそのうねうねと動き続ける黒い液体に(びん)を投げつけ割ると、素早く紙縒(こより)に火打ち石で火をつけ油と混じり合った得体の知れぬうねうねと動き続ける黒い液体に火花弾ける紙縒(こより)を投げつけた。


 一旦(いったん)燃え上がったその黒い何かはいきなり黄色いガスを周囲に振りまき(ほのお)を消してしまった。



 後退り見つめるアイリ・ライハラへ移動してくるその液体は敵だと少女の本能が最大級の警告を発していた。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み