第1話 おうちに帰りたい
文字数 2,603文字
「このおっさんが、ほんとに────なの?」
「はい、あの方が騎士団長マティアス・サンカラです」
きったない
とてもこいつが黒の騎士やマカイのシーデ姉妹よりも上位騎士だと思えない少女はそのサンカラ騎士団長の寝っ転がる長椅子へ行くと椅子の脚を蹴ろうとして片足を引いた。
いきなりイビキが止んで寝言の様にサンカラが
「めんどくせぇ────」
引いた足を止めたままアイリは顔を引き
油断ならねぇ!
デアチ国ヴィルタネン国王が首を取られまだ3日。
イルミ・ランタサルは従えるノーブル国の
王女を放りだしノーブル国に帰る事も
一様、元騎士団長のリクハルド・ラハナトスと右肩を包帯巻にした女騎士ヘルカ・ホスティラがついて回ってくれるが、なぜか口を差し挟みたがらない。
少女は
中でもこの寝っ転がるおっさん!
リクハルド・ラハナトスが初日に唯一助言してくれた。2国の統合騎士団長を務める少女に威厳と規律を持ってデアチ国騎士団を統制しなさいと教えてくれた。
ノーブル国の騎士36人に対し軍事国デアチの騎士はその6倍以上──230人もいるのにどうするんだぁ!
通常、
だがノーブル国の騎士達は自分らの騎士団長が代わったどころか、デアチ国がノーブル国の統制下になった事すらまだ知らない。
一緒に来た騎士2人が馬を飛ばし故郷へ報せに向かっているので知れ渡るのも時間の問題だったが、アイリは自分が騎士団長になったと知られたらそっちでもきっとひと
イルミ・ランタサルの
あれやこれや抱え込んで身動き取れぬようになる前にこのおっさんは片付けておくかと少女は声をかけた。
「マティアス────マティアス・サンカラ!」
ぐおっ、と吸い込んだイビキが止まり目を覚ましたかとアイリが思った矢先に、ぐがぁぁぁぁと前よりも大きなイビキをかき始めた。
少女は今度こそ椅子を蹴り跳ばそうと右足を後ろに引き上げた。
「めんどくさぁ────ぁ」
いきなりイビキを止めサンカラが寝言のように
苦笑いを浮かべアイリは
「こ、こいつ、起きてるんじゃねぇのか?」
アイリは
「あぁ────いやだぁいやだぁ────」
アイリは
くぅうう、こいつぜってぃ寝たふりだ! と少女は開き直った。
「おい! マティアス・サンカラ! 起きろ!! 命令だぁ!!」
大声でアイリが命じるといきなりおっさんが上半身を起こし長椅子に座ったまま背姿でわき腹をボリボリ掻き始め少女について来たデアチ国の騎士らが怯えたように
「サンカラ!」
アイリが名を呼ぶとサンカラが眠たげな顔を振り向けた。
「あんた──だれだぁ?」
このおっさんムカつく。それが言い方のせいか、面倒くさそうにした態度のせいかアイリはムッとしてしまった。
「私はアイリ・ライハラ。新しい────!」
うおっ! 話しの途中でサンカラがそっぽを向いてしまった。
アイリは思わず
ひょい。
おっさんが前屈みになり足下の紙くずを拾い上げ少女は振り回した手が空を切りバランスを
サンカラはいきなり尻をずらしテーブル端のくず
アイリ・ライハラは長テーブルに顔から突っ込みテーブルをひっくり返した。
「お前さん、なーにやっとるかぁ?」
テーブルに絡まった少女は身体を
こいつわざとやってるぞ! ぜっていわざとだぁ!
アイリは長椅子に乗っかった両足を引き思いっきり蹴り飛ばした。
ひょい。
こ、こいつ! とんでもないおやじだぞ!
顔を引き
いきなりサンカラは右に向きを変えひっくり返った騎士らを回り込み歩いて行き、空をつかんだアイリは茫然と口を開いた。
触れねぇ! 1度も触れねぇ! 素早いわけじゃないのに指1本触れる事ができねぇ────!
倒された騎士らの横に来てマティアス・サンカラは無様に長椅子に絡まる騎士らを見て問いかけた。
「お前ら何やっとるか? なさけねぇ────」
いきなりおっさんは振り向いて少女に
「ところでぇ────お前さん、なぁにもんださぁ?」
さっき名乗ったじゃんか! わざとおちょくっている。こいつ騎士団長の位を手放したくなくて、はぐらかしているんだぁ! ────とアイリ・ライハラは眼を点にしたまま怒鳴った。
「新しい騎士団長のアイリ・ライハラだ!」
おっさんが疲れきった顔でしばらく少女を見つめ
「好きにしたら、え──がな」
す! 好きにしたら──え────がな!?
アイリはひっくり返ったデアチ国の騎士らの後ろで元騎士団長リクハルド・ラハナトスと女騎士ヘルカ・ホスティラが腹を抱え笑いを押し殺してるのを気づき思った。
おうちに帰りたい────。