第23話 踏んだり蹴りまくったり
文字数 2,095文字
記憶がなくても幸せはやってくる。
粗暴に育っても至福 を授 かる。
この世はお花畑。
一面の可愛らしく綺麗なお花が咲き誇る。
裏の魔女キルシと手を取り合って森をスキップで抜けだしたアイリ・ライハラは、農地で畑作する村人らの夫婦に出会うと腰を折り深々とお辞儀した。
少女2人が去って行く後ろ姿を夫婦は唖然と見つめていた。そうして驚いた顔を合わせるなり鍛冶屋の1人娘──山猿のようだった娘が礼儀正しく振る舞ったことを他の村人らにも知らせようとその夫婦は農機具を置いて慌 てて村落の方へ急いだ。
アイリ・ライハラ住む集落は村といっても人数的には町に等しい住人が住んでいる。だから町だというものも多い。それでも農民が多数を占めその殆 どが古くから土地に根づいていた。
男勝 りで暴れ放題だからこそ目立つ少女のことを幼少のころから知っているものは村落に多かった。
あの好色な鍛冶屋の粗暴な1人娘──山猿 が王都に奉公に出され早ひと月あまり。帰郷には早すぎる理由は何だと臆測 が飛び交い、なぜ帰って来たのだと警戒された。
だが今度はその娘が生まれ変わったように礼儀正しく振る舞ったことが瞬 く間に口伝えとなり村民は次々にその信じられない成長の理由を知ろうと鍛冶屋を覗 きに行った。
「いらっしゃいませぇ!」
様子窺 うように鍛冶屋の作業場を覗 き込んだ村民の男らは、威勢良く出迎えられ跳び上がりそうなほど驚いた。
あの剣士崩 れだの脱落冒険者だのと後ろ指をさされる鍛冶屋の親父でなく箒 握った小娘が2人掃除の途中で手を止めたといった様子でお辞儀して笑顔を上げた。
1人は青髪の鍛冶屋の小娘だが────黒髪の長髪に頭に包帯巻いたこいつはどこの娘だと彼らは互いに顔を見合わせた。
「どのようなご用件でしょうか? 新規のご注文ですか? 何かの修理でしょうか?」
パシリしかやらせてもらえなかった、む、娘が、き、きちんと応対してやがるじゃねぇか!? 鍛冶屋の娘の変わりように村人の男らは押し合い1人を前に出すとその男が鍛冶屋の娘に声をかけた。
「あ、あの、そ、そうだ! 干し草を捌 くピッチフォークを見せてくれないかぁ!? たくさん突き刺せる歯の長いやつがいい!」
「少々お待ち下さいませ」
青髪の娘が一礼して作業場の裏口から出て行くと、男らはニコニコと笑みを浮かべる黒髪の娘へ声をかけた。
「お、お前、どこん家 の子だぁ?」
「あらぁ──私 ですかぁ。私 、クラウスさんの隠し子で名をイ・ル・ミと申します」
男らは眼を丸くして顔を見合わせた。
「き、聞いたかぁ!? クラウスのやつ、やっぱ、そこら辺の女を孕 ませ回ってるって噂、本物だったんだぞ」
「いやぁ、うちの娘にも気をつけろって、前から────」
ガリガリと引き摺 る音に男らが振り向き出入り口から外を覗 くと家の角を鍛冶屋の娘が歯並びの幅だけでドアの高さのあるサイクロプスが振り回しそうな大きなピッチフォークを引き摺 って曲がってきた。
柄 が長すぎて屋根の高さを上回っている!
その大きさに男らは思わず引いてしまった。
こんな、大きすぎる農具使える農夫がどこにいるというのだ!?
「お待たせして申し訳ございません。お、俺──じゃない。わたしの手に余る農具ですので」
いや、いや、男の俺らでも持ち上げられないぞ。もしかしたら2人がかりでもフォーク先を地面から浮かせられねぇ。
「どうでしょうか? これなど干し草を荷馬車1台分一気に持ち上げられますよ。先日もこれはいいと見るなり一本お買い求めになられたお客様がおみえになりました」
青髪の娘の口上に農夫らは顎 を落として頭 振った。
う、嘘でぇ! どこにそんなでけぇ干し草の塊 を操れる農夫がいるんだぁ! と数人の男らは同じ困惑を抱いていた。
「お、お前、嘘こくでねぇぞ! こんなもん人が、あ、操れるわけねぇ! そ、それに、おまぁさん、ひと月あまりも家を出てたじゃねぇか!」
歳食った男が訛 りまくってツッ込んだ。
いきなり娘は大きなピッチフォークをぶうんと振り上げ驚き後退 さった男らの前で柄尻 を地面にどんと突き立てた。
「だぁ────れがぁ、お買い求めになった客が農夫だぁ、とぉ!?」
押し殺した声で問いただす小娘に三白眼で睨 み据えられ男らは青ざめた。
「悪魔に決まってんだろぅがぁ!!!」
アイリ・ライハラは粗暴なままだぁ!!!
農夫らが気づいて逃げだそうとした寸秒、作業場から出てきた記憶喪失の魔女に十字軍の総大将は命じた。
「結界で閉じ込めなぁ! 買うまで帰さねぇ────か・ら・な」
2人の小娘が、にまぁ────と下卑 た笑みを浮かべ男らは青ざめて冷や汗を吹き出させた。
商人のおつむはお花畑のようなもの。
嗤 いながら摘 めるだけ摘みます。
一方、少女らを追いかけたはずの女異端審問司祭は持ち前の方向音痴で森の中をぐるぐると回り続け、これも美青年神ヘルメスの策略かと苛立ち疲れてきた足を引き摺 り木の根につま先をひっかけ大口開いてうつ伏せに倒れ込んだ。
ヘッレヴィ・キュトラは生えていた決して口にしてはならないと知れ渡っているカラフルな変異毒茸 を咬みきって呑み込んでしまった。
粗暴に育っても
この世はお花畑。
一面の可愛らしく綺麗なお花が咲き誇る。
裏の魔女キルシと手を取り合って森をスキップで抜けだしたアイリ・ライハラは、農地で畑作する村人らの夫婦に出会うと腰を折り深々とお辞儀した。
少女2人が去って行く後ろ姿を夫婦は唖然と見つめていた。そうして驚いた顔を合わせるなり鍛冶屋の1人娘──山猿のようだった娘が礼儀正しく振る舞ったことを他の村人らにも知らせようとその夫婦は農機具を置いて
アイリ・ライハラ住む集落は村といっても人数的には町に等しい住人が住んでいる。だから町だというものも多い。それでも農民が多数を占めその
あの好色な鍛冶屋の粗暴な1人娘──
だが今度はその娘が生まれ変わったように礼儀正しく振る舞ったことが
「いらっしゃいませぇ!」
様子
あの剣士
1人は青髪の鍛冶屋の小娘だが────黒髪の長髪に頭に包帯巻いたこいつはどこの娘だと彼らは互いに顔を見合わせた。
「どのようなご用件でしょうか? 新規のご注文ですか? 何かの修理でしょうか?」
パシリしかやらせてもらえなかった、む、娘が、き、きちんと応対してやがるじゃねぇか!? 鍛冶屋の娘の変わりように村人の男らは押し合い1人を前に出すとその男が鍛冶屋の娘に声をかけた。
「あ、あの、そ、そうだ! 干し草を
「少々お待ち下さいませ」
青髪の娘が一礼して作業場の裏口から出て行くと、男らはニコニコと笑みを浮かべる黒髪の娘へ声をかけた。
「お、お前、どこん
「あらぁ──
男らは眼を丸くして顔を見合わせた。
「き、聞いたかぁ!? クラウスのやつ、やっぱ、そこら辺の女を
「いやぁ、うちの娘にも気をつけろって、前から────」
ガリガリと引き
その大きさに男らは思わず引いてしまった。
こんな、大きすぎる農具使える農夫がどこにいるというのだ!?
「お待たせして申し訳ございません。お、俺──じゃない。わたしの手に余る農具ですので」
いや、いや、男の俺らでも持ち上げられないぞ。もしかしたら2人がかりでもフォーク先を地面から浮かせられねぇ。
「どうでしょうか? これなど干し草を荷馬車1台分一気に持ち上げられますよ。先日もこれはいいと見るなり一本お買い求めになられたお客様がおみえになりました」
青髪の娘の口上に農夫らは
う、嘘でぇ! どこにそんなでけぇ干し草の
「お、お前、嘘こくでねぇぞ! こんなもん人が、あ、操れるわけねぇ! そ、それに、おまぁさん、ひと月あまりも家を出てたじゃねぇか!」
歳食った男が
いきなり娘は大きなピッチフォークをぶうんと振り上げ驚き
「だぁ────れがぁ、お買い求めになった客が農夫だぁ、とぉ!?」
押し殺した声で問いただす小娘に三白眼で
「悪魔に決まってんだろぅがぁ!!!」
アイリ・ライハラは粗暴なままだぁ!!!
農夫らが気づいて逃げだそうとした寸秒、作業場から出てきた記憶喪失の魔女に十字軍の総大将は命じた。
「結界で閉じ込めなぁ! 買うまで帰さねぇ────か・ら・な」
2人の小娘が、にまぁ────と
商人のおつむはお花畑のようなもの。
一方、少女らを追いかけたはずの女異端審問司祭は持ち前の方向音痴で森の中をぐるぐると回り続け、これも美青年神ヘルメスの策略かと苛立ち疲れてきた足を引き
ヘッレヴィ・キュトラは生えていた決して口にしてはならないと知れ渡っているカラフルな