第18話 どうぞどうぞ

文字数 1,279文字

 髪にからんだ蜘蛛(くも)の糸を()がしては女騎士ヘルカ・ホスティラの服に擦り付ける。

「勘弁してくれアイリ」

 アイリ・ライハラが指をなすりつけるたびにヘルカは苦笑いの横顔を少女に向けていた。それを繰り返す2人を後ろからついて行く女暗殺者(アサシン)のイラ・ヤルヴァと若い男性騎士はいつ止めに入ったら良いのか困惑していた。

「ゆるさない」

「だから謝っているだろ。蜘蛛(くも)を先に倒さねば今頃みんなが奴の(えさ)になっていた」

 弁解してる矢先に少女はまた()ぎ取った蜘蛛(くも)の糸をヘルカの服にこすりつけ言い返した。

「私を先に助け出したら私が倒した」

「いやぁ、そんな余裕なかった。お前、蜘蛛(くも)に喰われかかってたんだぞ」

「そりゃ、私の方がピチピチで美味しそうに見えるから────」

 アイリが言いかけている途中でいきなりヘルカ・ホスティラが立ち止まり振り向いた。その顔が引き()っているのを見て慌てて女暗殺者(アサシン)のイラ・ヤルヴァが止めに入った。

蜘蛛(くも)はそんな事で餌を選んだりしませんよ」

「じゃあどんな事で選ぶんだ!?」

 アイリとヘルカが声をそろえイラに尋ね彼女は2人とも眼が怖いと苦笑いを浮かべた。

「そ、それはですね。捕まえやすそうな場所を通った獲物から先に選ぶんですよ」

 後ろから若い男の騎士が絶妙な答えを言いイラは胸をなで下ろした。

 アイリとヘルカは納得のゆかない表情で(きびす)を返すと歩きだした。だが今度はアイリが前を歩こうとせずにヘルカの真後ろをついてゆく。

 いきなり女騎士が振り向いて抗議しだした。

「き、貴様! アイリ・ライハラ! 我を先に行かせ餌にするつもりだな!?」

「いや、そんなつもりはないよ。発光石を持つ奴が先頭を行かないとつまづくだろう」

 少女がスマして言うと、ヘルカは石をアイリへ投げ渡し少女はとっさにそれをつかんで顔を(ゆが)めた。

「ヘルカ!」

「なんだ?」

 返事をした女騎士へアイリは発光石を投げ返した。だが女騎士はそれをつかまずに身を(かわ)すと発光石は地面の石に落ちて砕け散り、(みな)は驚きの声を上げ混乱した。

「ば、バカが避ける奴があるか!」

 アイリがなじると女騎士が言い返した。

「投げ返したお前が悪い!」

「最初に投げ寄越したのは────」

 アイリは言いかけて言葉を失った。ヘルカのそばにイラ・ヤルヴァがしゃがみこんで両手でせっせと割れた発光石をかき集めていた。

 土混じりの欠片が両手に集まると割れる前よりは幾分光を失っているが、(ほの)かに洞窟(どうくつ)を照らす事ができた。

 結局、両手に欠片を乗せているイラが先頭を歩く事になったが、アイリとヘルカは争わなくなった。

「あっ──!」

 思いだした様にヘルカが腰袋からサイクロプスを倒した時に手に入れた魔石を取り出すと、割れた発光石よりも明るい赤い光で洞窟(どうくつ)が満たされた。

 下から赤い光に照らされ(みな)の顔は不気味だったが、ヘルカは得意げな表情を浮かべて先導するのを再開した。だが大して歩かずして彼女の服をアイリが引っ張りヘルカが振り向くと声をかけた。


「まずいぞヘルカ。洞窟(どうくつ)の魔物はその石も餌にしてるんだ」


 ヘルカ・ホスティラがぎくりと顔を前に戻すと暗闇に幾つもの赤い目が浮かび上がった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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