第28話 取らぬ狸の皮算用
文字数 1,523文字
熱砂の地を彷彿 させる目眩 感じるほどの熱気。
デアチ国最大の闘技場 ──アイリ・ライハラらが入国しへの元老院長サロモン・ラリ・サルコマーへの謁見 に挑んだ巨大なスタジアム。
観覧席と闘技場砂場に入れられた万に近い騎士と兵士らを前に高見座に繋がる通路に脚がすくんで動けなくなる。
「ムリムリムリムリ! 無理でぇすぅからぁ!」
甲冑 を身に纏 った侍女 ヘリヤがあまりにも震え胸当 までががちゃがちゃと気ぜわしげな音を立てていた。
「駄目じゃん! こいつ土壇場 になってビビりまくってるぞぉ!」
アイリ・ライハラが喚 きながら両手振り上げ振り向くと王妃 イルミ・ランタサルが頭 振った。
「アイリ、あなたの思いつきでお膳立てしたんですよ。なんとか、おし!」
うぅおぉぉ────こいつ見放しやがった! 少女は恨 めしげに王妃 を睨 み、腕組みしたままツンとスマし眼を合わせない女から視線逸 らし侍女 へもう一度振り向いた。
「ヘリヤぁぁぁ、お前どこから見てもアイリ・ライハラだよぉ。うんうん、本人がそう言うんだから自信持ってぇ」
頭 振り続ける侍女 の説得に猫撫 で声でかかる少女をイルミ・ランタサルの斜め後ろで見つめる教皇 ヨハネ・オリンピア・ムゼッティが口を差し挟 んだ。
「アイリ、これじゃあ無理です。貴殿 が直に兵士らに宣言しなくてはならないでしょう」
キッと振り向きアイリは右腕振り上げ中指を立てた。
「俺の顔をよく知らない今が兵士に印象づける最後の機会なんだよ。軍勢に縛 られて自由に動き回れなかったらイルミもオリンピアも誰かに狙われたら護りきれないぞ」
まあ軍将がどこにいるか知っての敵の軍勢や暗殺者 の動きは読みやすいだろうけれども、アイリが固執する理由は他にあるような気がしてならないとイルミ王妃 は思った。
「演説の時は、ときどき言い終わりに『じゃん』と言うのを忘れるなよ。それで万事上手くゆくぞ」
そう伝えて少女は、自分よりも少しばかり背の高い侍女 ヘリヤの両手を握りしめ励 ました。
「無理ですよアイリさん。わたしにあなたの代役なんて」
なおもヘリヤは逃げ腰になっている。
「代役じゃねぇ。今からお前はアイリ・ライハラだぁ」
そう言い切って少女はフードを被り目立つ髪を隠し影武者の右手首をつかみ引っ張り高見座へ向かう階段を登り始めた。
階段の暗がりから闘技場 の光景が見えるとアイリはヘリヤの後ろに回り込み彼女を押し出しアドバイスした。
「1度立ち止まり皆 を見回すんだ。それから高見座の右に立ちオリンピアとイルミが外に出て玉座に座るまでじっと前を見据えてろ」
階段を登りあと一歩のところでヘリヤは立ち止まりアイリに声をかけた。
「アイリさん、やっぱり止めましょうよぉ。ムリですからぁ」
「つべこべ言わずにいけぇ!」
少女はそうハッパをかけ侍女 の甲冑 の尻をひっぱたいた。
よろめきながら侍女 ヘリヤは外へ出て膨大な兵士らを眼にして背筋を伸ばすと繰り出す脚と同じ側の手を出しながら歩き始めた。
「ヘリヤ、手と足が同じだぁ!」
アイリが寄り添い耳元で囁 くとヘリヤはぎくしゃくと普通に歩きだした。
近衛兵と従者に囲まれた教皇 ヨハネ・オリンピア・ムゼッティと斜め後ろにイルミ・ランタサル王妃 の入場で闘技場 は割れんばかりの声援が湧き起こり聖下が片手を上げると騎士と兵士らは静粛に言葉を待った。
「祭りの時は終わりました。天使のお告げに従い僮 はここにいる少女アイリ・ライハラに十字軍最高指揮官の任を────」
新たな十字軍最高指揮官として髪を真っ青に染めた侍女 ヘリヤがアイリ・ライハラとして紹介されてゆくのを本物のアイリ・ライハラは深めに被ったフードの下からほくそ笑んで見ていた。
やったぁ! これでひと月ぶりに家に帰れるぞ!
デアチ国最大の
観覧席と闘技場砂場に入れられた万に近い騎士と兵士らを前に高見座に繋がる通路に脚がすくんで動けなくなる。
「ムリムリムリムリ! 無理でぇすぅからぁ!」
「駄目じゃん! こいつ
アイリ・ライハラが
「アイリ、あなたの思いつきでお膳立てしたんですよ。なんとか、おし!」
うぅおぉぉ────こいつ見放しやがった! 少女は
「ヘリヤぁぁぁ、お前どこから見てもアイリ・ライハラだよぉ。うんうん、本人がそう言うんだから自信持ってぇ」
「アイリ、これじゃあ無理です。
キッと振り向きアイリは右腕振り上げ中指を立てた。
「俺の顔をよく知らない今が兵士に印象づける最後の機会なんだよ。軍勢に
まあ軍将がどこにいるか知っての敵の軍勢や
「演説の時は、ときどき言い終わりに『じゃん』と言うのを忘れるなよ。それで万事上手くゆくぞ」
そう伝えて少女は、自分よりも少しばかり背の高い
「無理ですよアイリさん。わたしにあなたの代役なんて」
なおもヘリヤは逃げ腰になっている。
「代役じゃねぇ。今からお前はアイリ・ライハラだぁ」
そう言い切って少女はフードを被り目立つ髪を隠し影武者の右手首をつかみ引っ張り高見座へ向かう階段を登り始めた。
階段の暗がりから
「1度立ち止まり
階段を登りあと一歩のところでヘリヤは立ち止まりアイリに声をかけた。
「アイリさん、やっぱり止めましょうよぉ。ムリですからぁ」
「つべこべ言わずにいけぇ!」
少女はそうハッパをかけ
よろめきながら
「ヘリヤ、手と足が同じだぁ!」
アイリが寄り添い耳元で
近衛兵と従者に囲まれた
「祭りの時は終わりました。天使のお告げに従い
新たな十字軍最高指揮官として髪を真っ青に染めた
やったぁ! これでひと月ぶりに家に帰れるぞ!