第8話 来るなぁ
文字数 1,603文字
バタバタと狂ったように足を叩 きつけた。
水を蹴っても蹴っても岸が近づいて来ない。
船頭のカローンさえ遠ざけたら戻れると思っていたが、濁流 に押し戻され続けていた。それに息を吸い込もうと顔を上げるのを狙うように波が被ってくる。
「うぶうぶうぶぶぶぶ、ぶはぁ! ゼイゼイ」
アイリ・ライハラは黄泉の河がこんなにも激しく流れどこに辿 り着くのだと困惑した。
そんな場合じゃねぇ!
岸に辿 り着けないと亡者 の仲間入りだ。
しがみつくスイムボードは小舟の残骸 だから小さすぎて沈みがちになる。それでも先を上げ気味にして懸命に泳げば多少は浮き上がった。
「うぉぉぉぉぉっ!」
力込めてばた足を激しくした。
ぱかっ──といきなり板が割れた。
眼を丸くしたその寸秒、左右の手に板を握りしめたまま少女は濁流 に呑まれぐるんぐるんに振り回されだした。
やっぱ、舟がないと無理だぁ! と思い共々河深くに落ちてゆきこの時になりアイリは息をしていない事に気づいた。
水面 で懸命に空気求めたのは、ただの習慣 だったからだ。俺、生きたまま煉獄 に堕 ちたんじゃねぇ。
そう考えると急に水流に抗う気力が失せ、落ち葉のように揉 み拉 かれどっちが水面かもわからないでいると少女は脱力したまま、急激に浮き上がり始め波間に顔が出て眼の前に岸が広がっていた。
この距離なら何とかなると10馬身ほど先の陸へ懸命に泳いだ。
何度か岸から引き離されようとなり、アイリは横に泳ぎ引き離す流れから抜け出しまた岸へと少しずつ戻った。
いきなり靴底が確かなものに触れ、手で水を掻きながら一気に前に向かって駆け出した。
水面 から上がりくたくたの少女は岸に倒れて呟 いた。
「やった、ぞ──生還 した────ぁ」
あとは暮らしていた世界への戻り道を探すだけだと考えていると遠くに人の話し声が聞こえだし、少女は恐るおそる顔を上げその方へ眼を凝 らした。
4人のものが近づいて来つつあった。
3人は甲冑 姿でがっしりした1人は黒いものを、金髪の細身の2人は紫の甲冑 を身につけていて、1人は腰巻きだけの上半身裸の男だった。
あいつら死んだデアチ国の騎士らと先頭 だぁ!
4人とも岸を見回し何かを探していた。
や、やべえ、苦悩の河 を渡っちまったんだぁ!
アイリ・ライハラはおろおろとしながらも、4人に見つかると大変な目に合わされるとばかりに這 いつくばったまま船虫のように近場の岩陰を目ざした。
黄泉 の河を戻り渡るのは後回しだった。
見つからないように逃げないといけない。
岩場の陰に辿 り着くと少女は中腰になり岩場伝いに岸から遠ざかり始めた。
どこへ逃げたらというよりも、見つからずに遠ざかるのが優先だった。ハデスの地なんて地理がわかるわけもない。
だけどここが地獄なら罪に応じて9つの場所に分かれているのをアイリは知っていた。
そんなとこに迷い込んだら大変だ。
歩いてきた岩場の方から人の声がはっきりと聞こえ少女は殺し立ち止まり足音を殺した。
「見つけましたよ姉様ぁ! 足跡が水辺から──」
アイリはぎくりとなった。
見つかるのは時間の問題だった。
少女は狐に見つかった兎 のように走り始めた。
その足音を聞きつけたように後ろで人のざわつきが大きくなった。
岩場から見えてきた森を前にアイリは走りながら振り向くと双子の女騎士を先頭に黒騎士と河守りカローンが走っていた。
まだ家数十軒ほど引き離していたが、下手なところに迷い込んで袋小路にでも入り込んだら追い詰められてはしまうと少女は思った。
武器も持たずに体格で勝る連中と戦えるはずがない。
ふとアイリは自分は普通の服なのになんで連中は甲冑 を着てるんだと困惑した。幸いにその重みで追いかける足が遅かった。
いいや、そんなことじゃない!
甲冑 を身につけているのなら剣 も持ってるかもしれないんだ。
不利だぁ! ぜっていに不利だぞ!
少女は駆けながら眼を游 がせた。
水を蹴っても蹴っても岸が近づいて来ない。
船頭のカローンさえ遠ざけたら戻れると思っていたが、
「うぶうぶうぶぶぶぶ、ぶはぁ! ゼイゼイ」
アイリ・ライハラは黄泉の河がこんなにも激しく流れどこに
そんな場合じゃねぇ!
岸に
しがみつくスイムボードは小舟の
「うぉぉぉぉぉっ!」
力込めてばた足を激しくした。
ぱかっ──といきなり板が割れた。
眼を丸くしたその寸秒、左右の手に板を握りしめたまま少女は
やっぱ、舟がないと無理だぁ! と思い共々河深くに落ちてゆきこの時になりアイリは息をしていない事に気づいた。
そう考えると急に水流に抗う気力が失せ、落ち葉のように
この距離なら何とかなると10馬身ほど先の陸へ懸命に泳いだ。
何度か岸から引き離されようとなり、アイリは横に泳ぎ引き離す流れから抜け出しまた岸へと少しずつ戻った。
いきなり靴底が確かなものに触れ、手で水を掻きながら一気に前に向かって駆け出した。
「やった、ぞ──
あとは暮らしていた世界への戻り道を探すだけだと考えていると遠くに人の話し声が聞こえだし、少女は恐るおそる顔を上げその方へ眼を
4人のものが近づいて来つつあった。
3人は
あいつら死んだデアチ国の騎士らと
4人とも岸を見回し何かを探していた。
や、やべえ、
アイリ・ライハラはおろおろとしながらも、4人に見つかると大変な目に合わされるとばかりに
見つからないように逃げないといけない。
岩場の陰に
どこへ逃げたらというよりも、見つからずに遠ざかるのが優先だった。ハデスの地なんて地理がわかるわけもない。
だけどここが地獄なら罪に応じて9つの場所に分かれているのをアイリは知っていた。
そんなとこに迷い込んだら大変だ。
歩いてきた岩場の方から人の声がはっきりと聞こえ少女は殺し立ち止まり足音を殺した。
「見つけましたよ姉様ぁ! 足跡が水辺から──」
アイリはぎくりとなった。
見つかるのは時間の問題だった。
少女は狐に見つかった
その足音を聞きつけたように後ろで人のざわつきが大きくなった。
岩場から見えてきた森を前にアイリは走りながら振り向くと双子の女騎士を先頭に黒騎士と河守りカローンが走っていた。
まだ家数十軒ほど引き離していたが、下手なところに迷い込んで袋小路にでも入り込んだら追い詰められてはしまうと少女は思った。
武器も持たずに体格で勝る連中と戦えるはずがない。
ふとアイリは自分は普通の服なのになんで連中は
いいや、そんなことじゃない!
不利だぁ! ぜっていに不利だぞ!
少女は駆けながら眼を