第9話 小生意気(こなまいき)

文字数 2,019文字


 街の武器屋を3軒もめぐり、アイリ・ライハラを除きなんとか(みんな)がお気に入りの新しい武器を手にした。

 ふとアイリは気づいて女暗殺者(アサシン)の前に立ち彼女の買ってもらった武器を指さした。

「イラ・ヤルヴァ、お前、それ何にするんだ?」

 イラがニコニコと少女に答えた。

「いやですわ、御師匠。魔物をぱっちんぱっちん倒すんですよ」

 ぱっちんぱっちん! アイリは顔をしかめ確かめた。

「嘘だぁ! お前、本当に魔物倒すのに使うのか?」

 イラはニコニコと少女に答えた。

「いやですわ、御師匠。他に使い道をご存知なので?」

 問い返され少女は説明を加えた。

「目の回りだけ隠す左右の尖り上がった黒革のマスクつけて、着てないも同様な肌丸出しのピッチピッチの黒革の服着て、かかとのツンと尖った黒い靴履いて──」

 何も持たない右腕を前に出し上下に振りながら効果音とセリフを付けた。

「ぺしぺし! ホーホホホッ、さあ王女様に(おっしゃ)い! どうして欲しいの!? とか────」

 いきなりイラは腰を折り少女に顔を近づけ口元で笑いながら細めた眼で見据え手にした黒革の極端に短い何本にも分かれた(むち)を突きだして尋ねた。

「御師匠、なんでそんなプレイ知ってるんですか?」

 アイリは少し赤面しその顔を背けるとぼそりと答えた。

「親父がぁ────親父がぁそういうの────好きだから」

 さらに女暗殺者(アサシン)は細めた目尻を下げ口を吊り上げ顔を近づけた。

「御師匠、一度そのお父様紹介してくださいよ。親子でそんな事ができるお父様に────────ぜひ!!」

 アイリは跳び退いてイラを指さした。

「ばっ、ばかやろう! 俺がそんな────こ、こと、するかよ! そんな服着ねぇし! そんな役に立たない(むち)握ったこともねぇ!」

 いきなりイラは背を起こし無表情になると手にしてた(むち)を少女に放った。慌ててアイリが右手でつかむと、イラが(さげす)んだ眼で見下ろし(つぶや)いた。

「あらぁらぁ? お持ちじゃないですか(・・・・・・・・・・)()必須ぅアイテムを」

 慌てて少女はそれをイラに投げかえし口答えした。

「おまえがぁ! おまえがぁ投げたんじゃんないか! だいたい何でそんなもん武器屋で見つけてくるんだ!?」

 イラは(むち)をアイリに向けゆらゆらと先を揺らす。

「あらぁ──! 蛇の道は大蛇(・・)、プロは隠しアイテムを見逃しません!」

 アイリは女暗殺者(アサシン)を指さし怒鳴った。

「蛇のなんとかは使い方違うし! だいたいお前、暗殺者(アサシン)じゃねぇのか!?」

「あらぁ御師匠、今さら何を? もう何度も楽しんだ仲じゃないですかぁ」

 少女は怖くなりイラから5歩離れたがまだ指さし怒鳴った。

「な!? なっ、何を楽しんだぁって!? 何度も何をだぁ!?」


「うるさいわね。往来で!」

 いきなりアイリ・ライハラはイルミ・ランタサルから細いものでびしっと頭を(たた)かれた。

「痛ぇぇえ! 何しやがる年増(としま)ぁ!!」

 振り向いた少女はイルミ王女が細身の馬の調教用の(むち)を手にしてるのを見て眼を丸くし怒鳴った。

としま(・・・)──あなたと1歳しか違わない(わたくし)としま(・・・)────チビ(・・)で貧乳が何を言うかと思えば、としま(・・・)────」

「御師匠、お貸しします」

 アイリは顔横に黒革の(むち)を突きだされ顔を引き()らせた。

「いらぁねぇよ! 俺は(むち)振りまわす趣味はねぇえ!」

 横を向いたアイリは頭をまた細身の(むち)(たた)かれた。

「あらぁ、ここに(たた)きやすい低い頭がぁ」

 アイリはキッと振り向いて言い返した。

「だぁ、だれが低い頭だぁ! このくるんくるんが高いだけの変態めぇ!」

「誰がぁ、へんたい(・・・・)────へんたい? ────このこなまいきな洗濯板が」

 赤くなったアイリ・ライハラにイラが(むち)を握らせた。

「御師匠、あの人に勝つにはこのSアイテムが必須ぅです」



 とたんに少女は(むち)を持った手で頭を抱えしゃがみこみ吐き捨てた。

「こいつらといると──頭が壊れる!」



 宿屋の入り口でおろおろする騎士団長リクハルド・ラハナトスを女騎士ヘルカ・ホスティラは羽交い締めにしていた。

「ほっときなさい団長! イルミ王女は悪いご病気が出てるだけです。関わるとあなたまで品位をなくします」



 SM道具を手にしゃがみ込んだ少女をぺしぺしと叩くイルミ・ランタサルらの周囲に30人ほどの野次馬がニヤニヤしながら集まっていた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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