第11話 熱射の攻防

文字数 2,224文字

 自国の騎兵が倒れ(みな)動かない。

 その先に2頭立ての荷馬車が3つと荷馬車の残骸らしきものが1つ。

 立っているのは市井(しせい)のもの数名の男女と小娘。

 前景姿勢で馬を駆るテレーザ・マカイは妹──テレーゼはどこだと視線を(およ)がせ丘を駆け下る商人風の大柄(おおがら)な女が長剣(ロングソード)を振りかざしているのを目にした。

 こいつらどこの手のものだ!?

「小娘も含めて全員捕らえろ! 逆らえば()り捨てて構わん!!」

 引き連れた20頭の騎兵に大声で命じたマカイのシーデは先走った妹らが返り討ちにあったのだと即断しテレーゼを探すのを後に回した。

 テレーザ・マカイはまず厄介なのは丘を駆け下る大柄(おおがら)な女だとそちらへ手綱(たづな)を引き馬の腹を(かかと)で蹴り込んだ。

 先行した騎兵の内4騎がその女へ向かい(ソード)を引き抜くと、長剣(ロングソード)を振りかざしている女が丘を下りきらず立ち止まった。

 坂では馬の操りが難しくなる騎馬兵が不利なのをその商人風の女が知ってること自体が(なり)(いつわ)りであり、戦士の(たぐい)だとシーデの片割れは判断し用心を肝に命じ、なら荷馬車近くにいる親子4人風に見える男女子どもも怪しいと目を振ると少女が地面に突いている湾曲した杖が棒などでなく(ソード)だと顔を強ばらせた。

 その寸秒、いきなり荷馬車近くの親子風体の少女がかき消えそちらへ向かっていた15騎の先人(せんじん)6騎の馬がいきなりつんのめり騎兵らが前に放り出され地面に激突した。

 何が起きた!?

 テレーザ・マカイが馬の足を遅らせると、つんのめった馬らが前足を失い倒れ(いなな)き暴れているのを目にし、小娘はどこに行ったのだと彼女が視線を振り回すと残りの9騎の騎兵らが次々に馬から落ち始め、一瞬、その(あい)の空中にぶれ(かす)んだ(ソード)を振り回す小娘が見えテレーザは思いっきり手綱(たづな)を引いて馬を立ち止まらせ長剣(ロングソード)を馬の(くら)に縛りつけた(スキャバード)から引き抜いた。

 刀身振り上げた刹那(せつな)(やいば)が空中で火花を散らし彼女は顔を振り向けると同時に叫んだ。





 (くず)れた荷馬車にもたれ動かぬ紫紺の騎士を放置し振り向いたアイリ・ライハラの顔色が悪いと女暗殺者(アサシン)イラ・ヤルヴァは慌てて駆け寄った。

「どうしたんですか御師匠様!?」

 すぐに応えずアイリは手にする長剣(ロングソード)を地面に突いてうなだれた。

 疲れきった感じで顔を上げた少女がか細い声を絞りだした。

「暑いんだ────どうしようも──なく」

 イラは確かにアイリの顔がまるで強い酒を飲み過ぎたようにほんのりと赤いと思った。それと同時に(やかた)で執事ユリウスが言っていた少女の弱点を思いだした。

 マナ切れで動けなくなる。

 だがあの時と様子が違っており疲れきったというよりも苦しそうなのだ。

 イラは少女の(ひたい)に触れ驚いて手を放した。


 パチパチと爆ぜる暖炉から引き抜いた火掻(ひか)き棒の先に触れたように熱い。


「御師匠様、無理してるんだ。絶対に無理してる!」

 ふたたびうなだれたアイリを冷やせるものをとイラは壊れた荷馬車を見回し水を入れた(たる)を思いだした。

「まってください御師────アイリ・ライハラ! 今、水を──」

 何かの音が微かに聞こえだしイラが振り向きアイリが顔を上げるとそれが見る間に幾つもの蹄鉄(ていてつ)の乱打にすり替わった。西から土煙を上げる馬20騎余りが迫りつつあった。

「イラ──水を用意────しといて」

 そう言ってアイリは地面から長剣(ロングソード)を引き抜き迫ってくる新手に向かい歩きだしイラは少女を止めるべきか水を用意すべきか迷い追いすがり説得しようとした。

「アイリ、駄目です! 私とクスターそれにヨーナスで何とかしますから!」

 少女が無言で(かぶり)振り、お前達には無理だと背姿が言い切った。直後駆けだしたアイリ・ライハラが丘の下りを気にするように顔を横へ振り向け迫る騎兵らへ幾重もの残像を残し姿が見えなくなり、まず先頭の騎兵らが落馬し始めた。


「我はノーブル国リディリィ・リオガ騎士団第3騎士ヘルカ・ホスティラなり! マカイのシーデ! 我と勝負せよ!」


 丘の中腹からの叫び声に顔を振り向けたイラ・ヤルヴァは丘上でイルミ王女達と隠れているはずの女騎士ヘルカ・ホスティラが坂に(ソード)を突き立て仁王立ちで騎兵らを(にら)み据えている姿に愕然(がくぜん)とした。

 4頭の騎馬が坂を斜めに駆け上りつつあった。


 あんな騎士道馬鹿は勝手にやられてろ、とばかりにイラは顔を振り戻した一閃(いっせん)、馬上で紫紺の騎士が振り上げた長剣(ロングソード)(やいば)から凄まじい火花が飛び散りその方へ向け顔を振り向けたマカイのシーデが放った呪いの叫喚(きょうかん)が耳を(つんざ)いた。


 耳を両手で(ふさ)いだ女暗殺者(アサシン)は空中で稲妻が弾き返され少女が草叢(くさむら)に転がり落ちたのを眼にしヨーナスの腰ものを横に振り出して両脚が千切れんばかりに駆けだした。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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