第18話 何をするか

文字数 1,427文字


 (ソード)を振り回すのは楽しい。

 じゃれあって遊んでいる様だ。

 (ソード)を振り回すのは勇ましい。

 力と技とで優劣が決まる。

 (ソード)を振り回し身を守る。

 自分と他人の安全を守る。

 (ブレード)ぶつかり命奪い合う。


 命を賭けて腕を振り上げる。


 (ソード)を振り回すのは爽快だ。身の危険を感じる事はあれども気持ちが高揚するのは本当だと思う。子どもの頃から短剣で遊び(ソード)を振り回すのを覚えた。それが今では生死を()かつ大切な道具となっている。

 相手が騎士なら剣技をつくす。剣士や暗殺者(アサシン)でも全力であたる。

 だがなぜ魔物を狩る。

 魔物が何をした。

 父クラウス・ライハラは俺を子どもの時から当然のようにこの迷宮に連れて来て大挙する魔物を狩った。

 魔物が何を────。

 魔物は人を見ると襲いかかる。そこに理由があるのだろうか。アイリ・ライハラは先折れの長剣(ロングソード)を構え上げ心に思い描いた事を反芻(はんすう)した。

 洞窟の半分近い大きな竜が叫聲(おらびごえ)を上げ騎士らに取り囲まれていた。

「アイリ! こいつの弱点はなんだ!?」

 竜の尾の近くにいるヘルカ・ホスティラが大声で竜の頭の(そば)にいるアイリ・ライハラに問いかけた。

「弱点!? 弱点はない! 力()くで倒すしかない!」

 力押ししかないと言われ女参謀長は竜の尾を剣でひっぱたいた。その攻撃に竜が振り向き()えた。

「首ががら空きだぁ!」

 首にアイリ・ライハラと数人の騎士が同時に()りかかった。首を斬られ全身をのたうたせ竜が暴れ出すと騎士らが(わめ)き離れた。

 振った尾に弾き飛ばされヘルカ・ホスティラと騎士3人が洞窟(どうくつ)の内壁に激しくぶつかった。

「ヘルカ!」

 気を失った友を見つめ命を賭けて腕を振り上げた。


30(サーティ)ステップ!」


 群青の稲光を残して駆け出したアイリ・ライハラは凄まじく跳躍(ちょうやく)し雷光が竜の掠め過ぎると首から頭が()れ落ちた。

 ゴロリと(こぶし)大の魔石が転がり騎士らが地面にへたり込んだ。

 ヘルカ・ホスティラを助け起こしにアイリ・ライハラが駆け寄った。

「大丈夫か、ヘルカ!?」

「あぁ────ああ」

「大丈夫じゃないな」

 アイリはヘルカの両肩をつかみ激しく揺さぶった。

「うぅわぁわぁえぇえぇ──なにするかぁ!」

「良かった。息吹き返した」

「死んでないわ!」

 ヘルカはアイリの手を振りほどき両肩をつかみ激しく揺さぶった。

「ぶぅぶわぁわぁべぇべぇ──なにするかぁ!」

「良かった。息してるぅ」

「死んでないわ!」

 アイリはヘルカの手を振りほどき(わめ)いた。

「なぁアイリ、一発で倒せるならなぜ貴君は最初の一撃で倒さないんだ」

「楽しんでるんだよ」

「楽しんで? 楽しんでいるだと!?」

「いいじゃん。好きでダンジョン下りて来てるんだ。好きにさせろよ」

「悪魔に喰われろ」

 ぼそりとヘルカは言い捨てた。

「あぁああ!? 何てこと言うんだ!」

「貴君のせいで他の騎士らに命の危険が(およ)ぶとは考えないのか」

「じゃあ俺の危険はどうすんだ」

(みな)が貴君を援助する」

「はぁ!? 俺を前に出してかぁ!?」

 言い返しアイリはぷいと顔を背けた。

「赤竜を一撃で倒せた貴君だ。ダンジョンの魔物などとるに足らないだろう」

 ヘルカの持ち上げた説得にアイリは耳をひくつかせた。

「いやぁ、そうでもないけれど」

(みな)のために立ち上がって欲しい」

 そう告げヘルカはアイリの手を握りしめた。

「仕方ないなぁ」

 でれでれとした笑みを見せるアイリ・ライハラにヘルカ・ホスティラはやはり15歳だと思った。

「さあ56階層に行くぞ!」

 気勢を上げるアイリ・ライハラに騎士らが呼応し立ち上がった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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