第14話 裏切り者
文字数 1,898文字
イラ・ヤルヴァの肩越しに見える飛んでくる山の一部が急激に拡大するなかアイリ・ライハラは三択なんか考えている暇がもうないと覚悟した。
「皆 を助けてやってくれ!」
そう騎士団長が天使に懇願 した刹那 、イラ・ヤルヴァは半眼になると振り向きもせずに指を開いた右腕を後ろに振り上げた。
迫ってきていた山の一部が拡大もせずにアイリ達からそう離れてない空中に浮遊し時折、小さな石や砂がぱらぱらと落ちていた。
イラ・ヤルヴァがゆっくりと腕を横に向けると浮いている岩盤の塊 がそれに合わせ移動しかなり離れた丘に着地するとどっと崩壊し小山になった。
それを眼にした騎士らが一斉に歓声を上げ、木の幹にもたれたままテレーゼ・マカイが横にうつ伏せになっているアイリと頭元に立つ天使を驚いた顔で交互に見ながらアイリに尋 ねた。
「アイリ────貴君はどうして天上人 と知り合いなのですか!?」
力つきてうつ伏せになったアイリがぼそりと呟 いた。
「こいつが人だった時からのマブダチだよ」
「こいつ────?」
そう言ってイラ・ヤルヴァは楽しげにアイリの後頭部に片足を乗せアイリは顔を地面に押しつけられ苦しげに呻 いた。
「うぷぷぷぷぷっ」
「せっかくあなたが自己犠牲に目覚めたと感心したのに天上人 にこいつ 呼ばわりするのですね」
土の隙間 から「ふがふがふが────」とアイリが喚 くのでイラ・ヤルヴァは仕方なくアイリの頭に乗せた足を浮かした。
「ぶふぁ! てめぇのそういうところが天使になりきれてねぇ!」
顔を横に向けてアイリがまくし立てるとイラ・ヤルヴァは苦笑い浮かべ頬 を踏みつけた。
そのやり取りを見ていてテレーゼ・マカイと木の幹を挟んで反対側にもたれているイルブイの総大将ヒルダ・ヌルメラは顔を引き攣 らせた。
アイリ・ライハラが強いのは百も承知だが、まさか天使とタメ口で会話できるものだったとは思いもしなかった。
「アイリ、その痺 れた身体でどうやってアーウェルサ・パイトニサム裏 の魔女のキルシを伐 つおつもりですか?」
イラに問われ頬 を踏まれてすぼめた唇を懸命に動かしアイリが言い返した。
「──意地と根性で────」
とたんに天上人 が笑い声をあげうつ伏せの盟友に尋 ねた。
「意地──と──根性────で? そんな精神論であの悪辣 な魔女に勝てると本気で?」
見ていられなくなりテレーゼ・マカイが口助けしようとした。
「天使さま、神の御加護の下に────」
イラは顔を上げて半身振り向いている女剣士を見ると唇に人さし指を当てて静かにするように命じた。
「剣 で──斬って────刺すに──決まってんだろうがぁ」
唇を歪 ませたアイリがしゃべり難 そうにイラ・ヤルヴァに言い切った。
「痺 れた手足で剣 を握って立てると本気でお考えに?」
そう尋 ね天上人 はアイリ・ライハラの頬 から足をどかし後ろに下がった。その眼の前で十字軍総大将は剣 を引き抜き刃口 を地面について上半身を起こすとハンドルに体重を預け震えながら立ち上がった。
そうして上目遣 いで顔を上げると噛み締めた唇を開いた。
「意地と根性────だ」
イラ・ヤルヴァは盟友のその様 を見つめ眉根寄せた。
「アイリ────あなたはいつもそうやって無理を押し切ろうとする。ですがあなたの後に人が続くと?」
そう告げた天上人 が眼を丸く見開いた。
木にもたれて動けなかったテレーゼ・マカイとヒルダ・ヌルメラが剣 を地面に突き立て震えながら立ち上がろうとしていた。
「ほら────続くだろ、イラ」
アイリ・ライハラが天使にそう言い切るとイラ・ヤルヴァは目尻を下げ見てくれが19の騎士団長の耳元に顔を寄せて囁 いた。
「アイリ、あなた方に一服盛ったのは配下のアレクサンテリ・パイトニサム。彼は解毒薬を持っています」
眉根しかめたアイリはそれを囁 かれた意味を一瞬考えて歳嵩 の騎士オイヴァ・ティッカネンを呼びつけた。
「オイヴァ!」
すぐに中堅の騎士が駆けつけた。
「何でござりまするか、騎士団長どの?」
「アレクサンテリを逃がさぬよう数人で捕縛せよ。我らに毒を盛った」
青ざめたオイヴァは頷 いて後に下がると数人の中堅の騎士らを呼び集め小声でアレクサンテリの捕縛を命じアイリ・ライハラらの背後で剣 を抜き合う音と若い騎士の罵声が聞こえてきた。
「逃れられぬぞアレクサンテリ!」
「バレては仕方ない!斬 り結んでみせようぞ!」
刃 交える音を聞きながら捕まえ解毒薬を取り上げ追放するつもりのアイリ・ライハラにイラ・ヤルヴァが小声で告げた。
「あのものはアーウェルサ・パイトニサム裏 の魔女のキルシの血肉を分けた孫。さあ、アイリどうするの?」
アイリ・ライハラの眼が座った。
「
そう騎士団長が天使に
迫ってきていた山の一部が拡大もせずにアイリ達からそう離れてない空中に浮遊し時折、小さな石や砂がぱらぱらと落ちていた。
イラ・ヤルヴァがゆっくりと腕を横に向けると浮いている岩盤の
それを眼にした騎士らが一斉に歓声を上げ、木の幹にもたれたままテレーゼ・マカイが横にうつ伏せになっているアイリと頭元に立つ天使を驚いた顔で交互に見ながらアイリに
「アイリ────貴君はどうして
力つきてうつ伏せになったアイリがぼそりと
「こいつが人だった時からのマブダチだよ」
「こいつ────?」
そう言ってイラ・ヤルヴァは楽しげにアイリの後頭部に片足を乗せアイリは顔を地面に押しつけられ苦しげに
「うぷぷぷぷぷっ」
「せっかくあなたが自己犠牲に目覚めたと感心したのに
土の
「ぶふぁ! てめぇのそういうところが天使になりきれてねぇ!」
顔を横に向けてアイリがまくし立てるとイラ・ヤルヴァは苦笑い浮かべ
そのやり取りを見ていてテレーゼ・マカイと木の幹を挟んで反対側にもたれているイルブイの総大将ヒルダ・ヌルメラは顔を引き
アイリ・ライハラが強いのは百も承知だが、まさか天使とタメ口で会話できるものだったとは思いもしなかった。
「アイリ、その
イラに問われ
「──意地と根性で────」
とたんに
「意地──と──根性────で? そんな精神論であの
見ていられなくなりテレーゼ・マカイが口助けしようとした。
「天使さま、神の御加護の下に────」
イラは顔を上げて半身振り向いている女剣士を見ると唇に人さし指を当てて静かにするように命じた。
「
唇を
「
そう
そうして
「意地と根性────だ」
イラ・ヤルヴァは盟友のその
「アイリ────あなたはいつもそうやって無理を押し切ろうとする。ですがあなたの後に人が続くと?」
そう告げた
木にもたれて動けなかったテレーゼ・マカイとヒルダ・ヌルメラが
「ほら────続くだろ、イラ」
アイリ・ライハラが天使にそう言い切るとイラ・ヤルヴァは目尻を下げ見てくれが19の騎士団長の耳元に顔を寄せて
「アイリ、あなた方に一服盛ったのは配下のアレクサンテリ・パイトニサム。彼は解毒薬を持っています」
眉根しかめたアイリはそれを
「オイヴァ!」
すぐに中堅の騎士が駆けつけた。
「何でござりまするか、騎士団長どの?」
「アレクサンテリを逃がさぬよう数人で捕縛せよ。我らに毒を盛った」
青ざめたオイヴァは
「逃れられぬぞアレクサンテリ!」
「バレては仕方ない!
「あのものはアーウェルサ・パイトニサム
アイリ・ライハラの眼が座った。