第14話 決意

文字数 1,731文字

 巡回の近衛兵と鉢合わせになり出合い頭にアイリ・ライハラが四名を()り倒した。

「そこの木箱の裏に隠せ」

 アイリが命じた時には騎士らが引き()り込んだ後だった。

 巡回が定常のものか増援されたものか判断がつかなかった。

 アグネスが裏手に回った居館(パレス)の玄関先に9人の騎士と剣士が殺到した。

 中に憲兵はいなかった。

 その居館(パレス)は半分が厨房で半分が職人の住居だった。

 キッチンへ駆け込んだアイリへアグネスに応対していた遅番の調理人が振り向き、とっさに騎士団長はそばの寸胴鍋を投げつけた。顔面に鍋底の角が命中し調理人はもんどり打ってひっくり返った。

「アイリ、貴君はなんて卑怯(ひきょう)な!」

 出入り口にいるヘルカ・ホスティラが声を裏返させアイリをなじったが少女はアグネスを手招きして振り向き高い背丈の女騎士に怒鳴った。

卑怯(ひきょう)言うな! 生きて帰れんぞ!」

 そう言った矢先に玄関先で(ブレード)ぶつけ合う音が聞こえヘルカ・ホスティラが慌ててキッチンから下がった。

 アグネスを連れたアイリが行くとまた近衛兵だった。3人が倒されおりアイリはキッチンへ押し込めとけとだけ言いアグネスに城内の建物がわかるかと問いかけた。

「おおよその建物の名は知っています」

 そう王女が言うのでアイリは先頭になってアグネスを連れ歩いた。

「アグネス、騎士の居館(パレス)はどれだ?」

 そうアイリが問うとアグネスは暗闇で指さした。(ほの)かに灰色に見える大きな居館(パレス)が城の敷地の反対側に(かす)かに見えていた。

 城住み込みの騎士はどうやら百ほどいそうだった。

 まだ熟睡にはほど遠いだろう。襲いかかったら次々に起きだして(ソード)を握るに違いない。忍び込んで音を立てないように次々に始末するのが一番いいだろうとアイリは考えた。

「忍び込んで手分けして音を立てずに殺してまわるぞ」

 居館(パレス)に近づくとテレーゼ・マカイが先に駆け寄り玄関の施錠を確認した。戸締まりは不用心で(かんぬき)さえかけられていなかった。

 中に入ると居間と思われる方から酔った口調で話す声が聞こえてきた。会話から三、四人だとアイリは判断した。

「俺とノッチ、ヘルカ、テレーゼの四人で奇襲する。連中が四人以上なら手を貸せ。残りはアグネスの警護」

 そう命じると四人は静かに(ソード)を引き抜いてアイリがそっと扉を押し開けた。

 三人のイモルキの騎士らは話しに夢中で振り向きもしなかった。その態度で末席の騎士らだと騎士団長の斜め後ろにいるヘルカ・ホスティラは判断した。

 乗り込んだ四人が(ソード)振り上げたら談笑していた騎士らがやっと振り向いた。そんなにどんくさい(・・・・)からこんな時刻に起きて番をしているのかとテレーゼ・マカイは(にら)みつけた。

 (ソード)を取りにいく(すき)も、(さけ)び警告を発する余裕も(あた)えなかった。

 アイリとノッチが(ブレード)叩きつけた二人の()()り血を吹き出させた騎士らを目の当たりにして残りの一人が逃れようと後退(あとず)さった左右からヘルカとテレーゼが両肩を()りつけた。テーブルをひっくり返し最後の一人が(ひざ)を落とし倒れると()り込んだ全員がこの部屋に他にいないのかと見回した。

「次! 行くぞ!」

 そうアイリ・ライハラが命じて(きびす)返すと配下達が応じた。

 人が殺されるのを目の当たりにしたアグネス・ヨークは幻想の中で父アルフレッド・ヨークと母パウリーナ・ヨークが暴徒に襲われる光景を見た気がした。

 いいや、わたしはあの時、クラウス・ライハラに抱かれ惨禍(さんか)を逃れたのだ。

 今、眼の前でアイリ・ライハラらに()られた騎士らはそれに荷担していたのか!?

 王家を襲った暴徒とはなんだったのか────!?

 今日まで眼を背けてきた真実にアグネス・ヨークは揺さぶられていた。

 政権転覆を(はか)ったのは一部の民衆を操った家臣(かしん)らだと育ての親に聞かされたことがあった。王家に仕えていたはずの一部の騎士らも離反し────。

 アイリは(かたき)を打ちにきてくれたのだ。

 わたしを連れ難を逃れたクラウス・ライハラの娘が父と母を殺した連中を成敗しに来たのだとアイリの部下であるミカエルに手を引かれ一緒に駆けだし王女は思った。

 次々に部屋の扉を開き寝息を立て始めていた父と母に仕えていた男らが()られ、()され、命を奪われてゆく嵐の目に今、自分はいるのだと前王家の一人血筋を()く少女が覚悟を決めた。


 根絶やしにしてやる!





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み