第22話 でちゅ

文字数 1,629文字

 交互に左右から振るう爪を(たた)き返しアイリ・ライハラは真っ赤に開いた口めがけ(ブレード)振り上げた。鋭く長い牙が数本折れ飛び狼族(ライカン)(おさ)後退(あとず)さった。

 それを(ソード)振り抜き構え直して少女は追い込んだ。

 一気に狭まった間合いにヴィヒトリ・ラウタヴァは踏み込んでアイリに噛みつこうと顔を突きだした。

 その口の奥めがけアイリ・ライハラは長剣(ロングソード)を稲妻の爆速で突き込んだ。


 後頭部から(ブレード)突きだした狼族(ライカン)(おさ)は赤い目を裏返させ両膝(りょうひざ)を落とした。


 (かしら)倒されて退()く狼男らではなかった。押し寄せる魔物にラウタヴァの顔から(ソード)引き抜いた少女は思いっきり駆けた。

 次々に悶絶(もんぜつ)する狼族(ライカン)は数が少なくなると逃げ惑い始めた。それを追い回し次々に追い倒すアイリは一匹だけ小さな狼がいることに気がついたが大きな狼男を狩り倒した。


 最後に残った小さな狼男にアイリ・ライハラが迫った刹那(せつな)、そいつが振り向き座り込んで両手を合わせた。


「ゆるしてくだちゃい!」


 振りかかった(ソード)を引き()らせたように止めた少女は眼にした最後の狼族(ライカン)に顔を(こわ)ばらせた。








 狼小娘が丸い目を(うる)ませて懇願(こんがん)していた。

 狼というより子犬のような魔物にアイリは()る気をなくしてしまった。

「どうしたアイリ!? なんでそいつを倒────」

 肩に(ブレード)乗せて言いながら戻ってきた女騎士が絶句した。

「大人の狼男たちにそそのかされてまちゅたぁ」

 そう弁解する小娘狼にアイリもヘルカも眉根しかめた。

「どうするヘルカ、俺こいつ倒せないよ」

 そう少女がぼやくと女騎士が両手放しでほめちぎった。

「うう、かわいい!」

「可愛くても魔物だぞ」

 そうアイリがたしなめた。

「あなた方が(みな)倒したのでゆく場所がなくなりまちゅたぁ」

 おい! それって! とアイリ・ライハラは両腕を振り上げどん引きした。

 いきなりその小娘狼がアイリへ腕を上げ指さした。

(ほとん)どをあなたが倒ちたでちゅ。よろちくお願いちまちゅ」

 そう言って小娘狼が土下座したのでアイリは(あわ)てた。

「お、おい、頭上げろぉ」

 どうするんだぁ。こんな狼小娘どこにも連れてゆけないぞとアイリは頭抱え困惑した。

「お前ぇその成りでどこに連れてゆけっていうんだ!?」

 いきなりばきばきと音を立てて狼小娘が普通の少女の顔になりアイリとヘルカは唖然となり(あご)を落とした。

「どうでちゅ?」

 どうですってぇ──そういえば狼族(ライカン)全員が人の成りをしていたんだとアイリは思った。

 魔物だぁ!

「へ、ヘルカ、ちょっと────」

 そう声をかけ少女は女騎士を手招いた。

「なんだよ。この子狼を(われ)に預けるのか?」

「ち、違うぞ。こいつ魔物だぞ。人にバレたら騒ぎになるぞ」

「アイリ、腹くくろうな」

 あぁ! こいつ人事だと思ってやがんなぁ! そう分かってアイリはヘルカを(にら)みつけた。

 アイリは正座したままの狼小娘へ振り向いた。

「お前ぇ、名前は?」

狼族(ライカン)に名づけの風習はありまちぇん」

 言われアイリは気づいた。

「嘘つけぇ女統括官(とうかつかん)やさっき倒した白狼(はくろう)は名があったぞ」

 小娘狼は顔の前で片手を振った。

「ちがいます。人の社会に合わせるために便宜上(べんぎじょう)名乗っていたんでちゅ」

 それを耳にしてヘルカはアイリの肩を(たあた)いた。

「貴君、こ奴の名づけ親になれ」

「え!? えぇ!?」

 アイリは困った。うるうる目で見つめる小娘狼へ視線向けると狼の子は自分を指さし小首かしげた。

「お前ぇ、狼の子だから────ロウコ」

「ろうこ? ろ・う・こ?」

「ああ、ロウコだ。文句あっか」

「かっこわるい」

「ぁあ!?」

 なんてガキだとアイリはどん引きした。

「レンピ」

「れ・ん・ぴ?」

「いやだぁ」

 他の狼族(ライカン)と同じように()り倒してやろうかぁ!

「リーナ」

 狼小娘が破顔して(うなづ)いた。

 アイリは背を向け両膝(りょうひざ)に手をついて顔を(ひず)め息を荒くした。

 めんどくせぇ────!

「手をかちてくだちゃい」

 アイリが振り向くと正座したままのリーナが両手を伸ばしていた。

「自分で立てよ!」

「足が(しび)れまちゅた」



「ぁああっ!?」

 アイリ・ライハラとリーナの長く数奇な運命が始まった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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