第3話 虚々実々

文字数 2,124文字

 (ブレード)ぶつけるつもりはなかった。

 アイリ・ライハラはソファに寝そべるデアチ6位のエステル・ナルヒの反応を見たかった。

 物腰柔らかだが、顔中刺青(いれずみ)だらけでどう出るかまったく読めないことも試してみたいと少女の意識を(あお)った。

 アイリが腰に下げた長剣(ロングソード)のハンドルをつかんだ刹那(せつな)、娼婦の様なナルヒが煙管(きせる)をつまんだ右手をぷいと振った。

 手首をぷい。


「あっちちちちち!」


 少女は(わめ)きながら(ソード)のハンドルから手を放し両手でたたくように額を払った。その指先に火のついた煙草がくっつき手を振り回しながら走り回った。

「きさんじなもんだねぇ。しんござがいけありんせん事をするからどすえ。薬になりんしたかえ」
(:ダメだね。やたらと騎士がいけない事をするから。()りましたか?)

 アイリは意味が分かったような気がして火傷した指を振りながら言い返した。

「やいナルヒ! お前騎士団長にこんな扱いするんかい!?」

 デアチ国第6騎士は煙管(きせる)を持った手で口元を隠し笑いだした。

「かんらからから」

 その笑い声が気に(さわ)り少女は両肩を吊り上げ地団駄を踏んだ。

「アイリ・ライハラ、お前の負けだよ」

 女騎士ヘルカ・ホスティラに言われ少女はキッと振り向いた。

「ナルヒ殿、まだアイリ・ライハラは騎士団長としても、人としても(いた)らぬ。貴公の腕を試しておく気負いがあればこその狼藉(ろうぜき)。許してやって欲しい」

「何とでもお言いなんし。しんござはこれでありんすから 嫌いなんでありんす」
(:なんとでも言うがよい。騎士はこれだから嫌いなのよ)

 アイリはヘルカから『けしからぬ』と言われたようで腹が立ち、ナルヒからも否定されたようで向かっ腹立った。

 その少女にデアチ国第6騎士が煙管(きせる)を向け(つぶや)いた。

(ぬし)さん──塩次郎を絵に描いた七夕(たなばた)娘でありんす」
(:あんた──自惚(うぬぼ)れを具現化したうるさい小娘だろ)


 いきなりアイリ・ライハラが飛びかかり、エステル・ナルヒは片足を振り上げピンヒールで顔を押さえた。


「お前殺す! 絶対殺す!」


 顔をハイヒールでぐりぐりされ少女は真っ赤になりまくし立てた。


「おいこらぁ、エステル! てめぇ外にでぇろぉ!」

 アイリがピンヒールから逃れようとすると、エステルはヒョイと足の向きを変える。

「たかだかぁ6位だぁろうがぁ! 2位と3位、4位を俺ぁ倒したんだぞぉ!」

 エステルは足首を(ひね)り押さえるのをピンヒールから爪先へ変え少女をいいようにあしらい続けた。


「なんざんす? (ぬし)さん、しこめなんに──お強いそうで────かんらからから──」
(:何なの? 貴女(あなた)ブスなのに強いそうで)

 こいつぜってい馬鹿にしてやがる! アイリは必死になってエステルの足を(かわ)し相手に突っかかろうとしていて片腕を女騎士ヘルカ・ホスティラに引っ張られ振り向いた。

退()きなさい騎士団長(きしだんつおう)

「やだぁ」

 ヘルカが眉根を寄せて苦笑いした。

「エステル・ナルヒ殿、失礼つかまつる」

 ヘルカはデアチ国第6騎士にそう告げるなり片腕でアイリ・ライハラを脇に抱きかかえ、じたばたしだした少女に構わず部屋を出た。

「放せヘルカ! 放しやがれぇ!」

 (みな)が部屋から出て扉が閉じられると廊下に女騎士は少女を下ろし肩に手をかけ振り向かせ耳に顔を寄せた。

「アイリ、騎士団長(きしだんつおう)としての品格をお考えなさい。貴公のみならず、ノーブル国騎士団も背負っているんですよ」

 ヘルカが顔を離すとアイリは下唇を噛みしめ女騎士を(うら)めしそうに見つめるので問いかけた。

「短絡な! あなたはまるで猿山のボスか!? この国の騎士すべてを試すつもりなのか?」

 さぁ、猿山の──大将(・・)ぉ!?

 アイリはショックを受け(うなづ)いた。

「そんな時間はないでしょ。イルミ王女から貴公はこの国の剣竜騎士団を(まと)めよと(おお)せつかったじゃないの。手間取れば貴公が若すぎるとデアチ国の騎士のみならず、祖国ノーブル国のリディリィ・リオガ騎士団からも反旗を(ひるがえ)すものが出てきます」


「力でねじ伏せる」


 アイリがぼそりと言うとヘルカは少女の額に人さし指を押しつけた。

「ここをお使いなさい」

 ぶん! ごっちん!

 いきなりアイリはヘルカへ頭突きを喰らわせた。


 なっ! なんて硬い頭だ!


 思いっきり(スカル)をぶつけられた様な衝撃に女騎士は意識が飛びそうになり足を踏み下ろすと()()った顔を振り下ろし怒鳴った。

「馬鹿か、お前は! 知恵を(しぼ)れと言ったんだ!」



 怒鳴られ下唇を突きだした少女を見てノーブル国リディリィ・リオガ騎士団第3位の女騎士は本当に猿のようだと思った。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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