第14話 行き着く先
文字数 1,993文字
見るに忍びなく女騎士ヘルカ・ホスティラは自分が座る操馬台 横にアイリ・ライハラを座らせ片腕で肩を抱きしめていた。
亡くなったイラ・ヤルヴァの遺体を野原に埋葬しようとすると、彼女をウチルイのユリアンッティラ公爵家の屋敷に連れて帰ると言って聞かない少女を宥 め賺 していたイルミ・ランタサルが結局折れて布で巻き荷馬車に積み込んだ。
暑い時期ではないものの親友の腐敗する有り様にアイリが堪 えられるはずもなく、ヘルカはその場になったら少女を殴り昏倒 させなるだけ見場の良い場所にイラを埋葬しようと思っていた。
それは小指の先ほどの悩み。
アイリ・ライハラがマカイのシーデ姉妹に取った行動の方が大問題だった。その場を眼にしたイルミ・ランタサルが青ざめながら複雑な思いを抱き少女の我が侭 を認めた事の方がもっと問題だった。
このままデアチ国本城に乗り込んだら、イルミ王女がどのように釈明しようとも言い逃れはできない。
騎士6人ではイルミ王女と侍女 ヘリヤ、それにがらくたんになってしまった少女を守り抜きこの国を抜けだすのが1人素手でドラコーを倒すほど困難に思えた。
女騎士はまた一瞬、自分の操る荷馬車に曳 かせた急拵 えの荷車へ意識を持っていかれ悍 ましさに眼を游 がせた。
アイリ・ライハラはとんでもない娘だ。
感情を浮かべぬアイリ・ライハラの2振りの剣 振り回す表情を見上げその眼が歓喜溢 れていたのをマカイのシーデを押さえ込んでいたヘルカは思いだした。
合戦場で繰り広げられる闘いを生き残ったものが武勇伝として語るものは大概 大法螺 だと女騎士は身を持って知っていた。
正義も道義も忠義も消し飛ぶ、格好良さの一切入り込む隙 のない醜い殺し合い──斬 り合うだけでなく殴り蹴りひっつかみ噛 みつき生き残るチャンスを奪いつかみ取るすべてのものの瞳に宿るは狂気。
狂いにいたる道は幾らでもあれど、その味を知ると人は容易に掛け金を外すようになる。
イルミ王女よりも若いお前が墜ちていい場所ではない。
若ければ若いほど、歳を重ねた先での壊れ方が半端でないものになる。その頃まで生きていられればの話だが、最悪なことに狂いが戦 での紙一重の生存のチャンスを見誤らせてしまう。それが壊れた兵の少ない理由になっていた。
王女達の荷馬車を見つめながらヘルカ・ホスティラは抱き寄せている小娘のことをとめどなく心配していると少女がぼそりと呟 いた。
「イラ────馬鹿だよ──」
女騎士はため息を吐いてアイリに応えた。
「────そうか?皆 、馬鹿だ。我々も敵も皆 大馬鹿だ。簡単に吹き消える命を賭け奪い合う大馬鹿だ。だがなアイリ────」
「イラ・ヤルヴァという大馬鹿は、お前を助けるために全力で立ち向かったんだ。それは馬鹿にはできない。その意味を胸に刻め」
ヘルカ・ホスティラは少女がまた黙り込んだので気遣 いを噛みしめているのかと思った。
女騎士は話題を変えようと思ったわけではなかったがアイリに少し先のことを持ちかけた。
「アイリ、ノーブル国に帰ったら我の元で貴公──従騎士 として修練を積んでみないか?」
少女が無言で自分の両手のひらをしばらく見つめ呟 いた。
「剣 に触りたくない」
ヘルカは顔をしかめ己 の迂闊 な発言を悔 やみ荷馬車の後に離し引っ張られている小さな荷車のものを思いだしてしまった。
くそう! あんなものを見せられたら! ────女騎士は両腕で剣 振りまわす少女の氷のような眼差しをまざまざと思い出してしまった。
「騎士道は剣 だけにあらず。君主、教会を護り、民 を救い、仲間を──そのぉ────あれだ。己 の命より不名誉、誹 られることを何よりも恐れ、敵を前に怯 むことなく────」
ヘルカ・ホスティラは空高く上がった敵陣の矢群が次々に自分の方へ落ち地面に突き立つのを見つめているような気分になった。何を語っても女暗殺者 の死をこじつけて正当化するように聞こえアイリ・ライハラの思いを逆なでしている気がした。
ええい、くそう!
「イラの思いを無駄にするな。あのマカイ家の姉妹を間違った道に歩ませた愚か者の主君や家臣 がお前を待ち構えている。イラ・ヤルヴァは貴公が仇 打つことを信じ命差しだした」
俯 いている少女が両手のひらを顔に当てるのを横目で見てヘルカ・ホスティラは仲間の騎士らが貴公は繊細 さを持ち合わせぬと日頃から付け加えるを思いだした。
ああ、どうする!? 固結びが余計に締まり込んでいる。
いきなり少女が振り向いて背後の荷物に手を差し入れたので女騎士は跳び上がりそうなほどに驚いた。
アイリ・ライハラが引き抜いたものを横目で見つめた女騎士ヘルカ・ホスティラは顔を引き攣 らせた。
たっ、確かに剣 ではないが────どこをどう繋ぎ合わせればそれに行き着くのだ!?
少女をさらに壊してしまった!!
アイリ・ライハラが両手で大事そうに女暗殺者 の九尾鞭 を握りしめていた。
亡くなったイラ・ヤルヴァの遺体を野原に埋葬しようとすると、彼女をウチルイのユリアンッティラ公爵家の屋敷に連れて帰ると言って聞かない少女を
暑い時期ではないものの親友の腐敗する有り様にアイリが
それは小指の先ほどの悩み。
アイリ・ライハラがマカイのシーデ姉妹に取った行動の方が大問題だった。その場を眼にしたイルミ・ランタサルが青ざめながら複雑な思いを抱き少女の我が
このままデアチ国本城に乗り込んだら、イルミ王女がどのように釈明しようとも言い逃れはできない。
騎士6人ではイルミ王女と
女騎士はまた一瞬、自分の操る荷馬車に
アイリ・ライハラはとんでもない娘だ。
感情を浮かべぬアイリ・ライハラの2振りの
合戦場で繰り広げられる闘いを生き残ったものが武勇伝として語るものは
正義も道義も忠義も消し飛ぶ、格好良さの一切入り込む
狂いにいたる道は幾らでもあれど、その味を知ると人は容易に掛け金を外すようになる。
イルミ王女よりも若いお前が墜ちていい場所ではない。
若ければ若いほど、歳を重ねた先での壊れ方が半端でないものになる。その頃まで生きていられればの話だが、最悪なことに狂いが
王女達の荷馬車を見つめながらヘルカ・ホスティラは抱き寄せている小娘のことをとめどなく心配していると少女がぼそりと
「イラ────馬鹿だよ──」
女騎士はため息を吐いてアイリに応えた。
「────そうか?
「イラ・ヤルヴァという大馬鹿は、お前を助けるために全力で立ち向かったんだ。それは馬鹿にはできない。その意味を胸に刻め」
ヘルカ・ホスティラは少女がまた黙り込んだので
女騎士は話題を変えようと思ったわけではなかったがアイリに少し先のことを持ちかけた。
「アイリ、ノーブル国に帰ったら我の元で貴公──
少女が無言で自分の両手のひらをしばらく見つめ
「
ヘルカは顔をしかめ
くそう! あんなものを見せられたら! ────女騎士は両腕で
「騎士道は
ヘルカ・ホスティラは空高く上がった敵陣の矢群が次々に自分の方へ落ち地面に突き立つのを見つめているような気分になった。何を語っても女
ええい、くそう!
「イラの思いを無駄にするな。あのマカイ家の姉妹を間違った道に歩ませた愚か者の主君や
ああ、どうする!? 固結びが余計に締まり込んでいる。
いきなり少女が振り向いて背後の荷物に手を差し入れたので女騎士は跳び上がりそうなほどに驚いた。
アイリ・ライハラが引き抜いたものを横目で見つめた女騎士ヘルカ・ホスティラは顔を引き
たっ、確かに
少女をさらに壊してしまった!!
アイリ・ライハラが両手で大事そうに女