第25話 難行苦行
文字数 1,767文字
大きなすり鉢状の窪地 を勇んで駆け下りたはいいが、いざ登る段になり次々に騎士らの脚が急激にのろくなった。
重い剣 を振り上げ駆け上がるには足場が悪い。
頑丈な重い甲冑 を身につけている。
上にゆくほどすり鉢が急だ。
繰りだす鉄靴 の下でボロボロと岩砂が崩 れる。
すり鉢の縁にしゃがみ込んで見下ろす魔女キルシが近づいては何度も遠ざかって繰り返していたら全員息絶えだえになってきた。
「お前ら馬鹿ばっかりだな──すり鉢の穴の縁を回ってくればよかったものを」
上から魔女に言われアイリは兜 の面被いを跳ね上げ言い返した。
「バ、バカにするな! ぜぇぜぇ──1番近道を選んだまでだぁ──ぜぇぜぇ」
アイリは滑り落ちながら剣 の刃口 を斜面に突き刺しなんとかくい止 まろうとする────がずるずると底近くの振り出しに戻った。
「アイリ殿、これはきっと魔女の奸計 だったのでござる──はぁはぁ」
体力自慢の女大将ヒルダすらこのざまだと滑り落ちてきた大柄な騎士にアイリは眼を細めた。
いや、あいつはそこまで知恵ものではない! これを考えて爆裂魔法を地面に放ったのではない。
自分らが迂闊 なだけだったのだ────とはアイリは決して認めたくなかった。
すり鉢の底でアイリは剣 を地面に突き刺し両手を乗せて荒い息を繰り返し見つめる先で次々に斜面を滑り落ちてくる騎士らに気合いを入れた。
「おらぁお前ぇらぁ! だらしねぇぞ! 気合い入れろぉ!」
それを聞いた登坂攻勢に参加してない腹の出たおっさん騎士マティアス・サンカラがアイリにぼそりと言い切った。
「そんな精神論でなんとかできるもんじゃなかろうに」
アイリはキッと振り向き問うた。
「じゃあどうすんだよ!?」
腹の出たおっさんが大声でとんでもないことを斜面の皆 に言い放った。
「先に登りきった奴に騎士団長が夜添い寝してあんなことやそんなことをしてやるぞ!」
途端に騎士らは勢いつけ砂塵巻き上げ駆け上り始めた。中でもヒルダが1番上まで登っているのを見てアイリは眼が点になった。
「おい、マティアス──誰かが登りきったらどうすんだよ!?」
アイリは青ざめて振り向き腹の出たおっさんに詰問 した。
「そんなこと俺は知るか。あんたが先に登りきったら丸く収まるだろうが」
お前ぇ勝手に仕切っといて放置かよ! とアイリは眉間に皺 を刻んで細目で腹の出たおっさんを睨 んだ。
「ほらぁ騎士団長、あいつ登りそうだぞ」
マティアスに言われアイリは斜面の上へ顔を振り上げた。
女大将ヒルダが片手をすり鉢の縁の岩にかけようとしていた。
その目前で魔女キルシが何やら唱えるとヒルダが手をかけようとした樽ほどの岩の上で小さな魔法陣 が広がった。
寸秒、手をかけた岩が縁から外れそれを抱きかかええるようにヒルダが転がり落ち他に4人の騎士らを巻き添えにした。
ヒルダはひん曲がった面被いを力任せに開きアイリに訴えた。
「アイリ殿ぉ! 縁の岩に手をかけましたでござるよ!」
アイリは顔の前で両腕を交差させ言い切った。
「駄目だぁダメ! 岩が地面から浮いてた」
「そ、そんなぁ────」
ヒルダが下唇を突き出し泣き顔になった。
その背後で工夫する騎士が出てきた。
斜面に先に上がった騎士が滑り落ちる前に後から上がってきた騎士の手をつかみ上へと放り投げる。
その騎士が落ちる前に後から上がってきた騎士が足につかまり素早くよじ登ってすり鉢の縁に馬の高さまでと近づいた。
見上げているアイリはドキドキし始めた。
添い寝してあんなことやそんなことをしなきゃならなくなる。俺はまだ15のお子さまだぞぉ!
だがその高い場所の騎士が落ちると下の騎士らを巻き添えに底まで転がってきてアイリは胸をなで下ろした。
やっぱり俺が先に登るしかねぇじゃん。
「ステップ────」
胸当 に片手のひらを当て言い掛かりアイリはイラ・ヤルヴァが耳元で囁 いたことをふと思いだした。
────あなたがその力を解き放つほどに──あなたの躰 は血の盟約により天空の眷属 ノッチス・ルッチス・ベネトスのものとなるんですよ────
リミットを解放したのは1度。いいや1度じゃなかった。
もう、何度も限界解放していると気がついた。
そのたびに胸に埋まった青い宝石が大きくなっているかのような気がする。
幼少のころは拳 よりもずっと小さかったのだ。
重い
頑丈な重い
上にゆくほどすり鉢が急だ。
繰りだす
すり鉢の縁にしゃがみ込んで見下ろす魔女キルシが近づいては何度も遠ざかって繰り返していたら全員息絶えだえになってきた。
「お前ら馬鹿ばっかりだな──すり鉢の穴の縁を回ってくればよかったものを」
上から魔女に言われアイリは
「バ、バカにするな! ぜぇぜぇ──1番近道を選んだまでだぁ──ぜぇぜぇ」
アイリは滑り落ちながら
「アイリ殿、これはきっと魔女の
体力自慢の女大将ヒルダすらこのざまだと滑り落ちてきた大柄な騎士にアイリは眼を細めた。
いや、あいつはそこまで知恵ものではない! これを考えて爆裂魔法を地面に放ったのではない。
自分らが
すり鉢の底でアイリは
「おらぁお前ぇらぁ! だらしねぇぞ! 気合い入れろぉ!」
それを聞いた登坂攻勢に参加してない腹の出たおっさん騎士マティアス・サンカラがアイリにぼそりと言い切った。
「そんな精神論でなんとかできるもんじゃなかろうに」
アイリはキッと振り向き問うた。
「じゃあどうすんだよ!?」
腹の出たおっさんが大声でとんでもないことを斜面の
「先に登りきった奴に騎士団長が夜添い寝してあんなことやそんなことをしてやるぞ!」
途端に騎士らは勢いつけ砂塵巻き上げ駆け上り始めた。中でもヒルダが1番上まで登っているのを見てアイリは眼が点になった。
「おい、マティアス──誰かが登りきったらどうすんだよ!?」
アイリは青ざめて振り向き腹の出たおっさんに
「そんなこと俺は知るか。あんたが先に登りきったら丸く収まるだろうが」
お前ぇ勝手に仕切っといて放置かよ! とアイリは眉間に
「ほらぁ騎士団長、あいつ登りそうだぞ」
マティアスに言われアイリは斜面の上へ顔を振り上げた。
女大将ヒルダが片手をすり鉢の縁の岩にかけようとしていた。
その目前で魔女キルシが何やら唱えるとヒルダが手をかけようとした樽ほどの岩の上で小さな
寸秒、手をかけた岩が縁から外れそれを抱きかかええるようにヒルダが転がり落ち他に4人の騎士らを巻き添えにした。
ヒルダはひん曲がった面被いを力任せに開きアイリに訴えた。
「アイリ殿ぉ! 縁の岩に手をかけましたでござるよ!」
アイリは顔の前で両腕を交差させ言い切った。
「駄目だぁダメ! 岩が地面から浮いてた」
「そ、そんなぁ────」
ヒルダが下唇を突き出し泣き顔になった。
その背後で工夫する騎士が出てきた。
斜面に先に上がった騎士が滑り落ちる前に後から上がってきた騎士の手をつかみ上へと放り投げる。
その騎士が落ちる前に後から上がってきた騎士が足につかまり素早くよじ登ってすり鉢の縁に馬の高さまでと近づいた。
見上げているアイリはドキドキし始めた。
添い寝してあんなことやそんなことをしなきゃならなくなる。俺はまだ15のお子さまだぞぉ!
だがその高い場所の騎士が落ちると下の騎士らを巻き添えに底まで転がってきてアイリは胸をなで下ろした。
やっぱり俺が先に登るしかねぇじゃん。
「ステップ────」
────あなたがその力を解き放つほどに──あなたの
リミットを解放したのは1度。いいや1度じゃなかった。
もう、何度も限界解放していると気がついた。
そのたびに胸に埋まった青い宝石が大きくなっているかのような気がする。
幼少のころは