第13話 風前の灯
文字数 1,707文字
広間の奥に行くと城門など犬くぐりに思える大きな観音開きの扉が構えていた。
アイリ・ライハラはその大きさに唖然としたのではなかった。
このような大きすぎる扉を必要とするものに危 うさを感じていた。
エステル・ナルヒがその中央に行き片手を差し上げ指を合わせ部分に押し当てた。それを見ていてアイリ・ライハラはいくらあんたが力持ちであったとしてもこれは無理だと思った。
巨大な扉が音もなく奥へ開いてゆくのでアイリは眼が点になってしまった。
その奥の間 は広間と逆で暗く奥行きさえ見通せない。
「ここに入り探索に来た皆が生きて帰らぬものとなり果てんした」
踏み出さずに暗闇を見つめる第6騎士が言った言葉にアイリは思わず後退 さり項 の毛を逆立てた。
ま、まずいぞぉ──い、いけない感が半端ねぇ!
「エステル──やめておけ──火山湖のような死臭がする」
火山湖のような死臭!? エステル・ナルヒは脚を止めアイリへ振り向いた。
「おもろおすなぁ。そやけどここはもっとおもろいおあす」
ここが面白いと言ってるのかとアイリは眼が点になった。
「よりにもよってこんな場所を面白いなんて、お前ひねくれ者のイルミ・ランタサル以上のイカレたやつだな」
アイリの警告に耳もかさず第6騎士が鼻で笑い暗い方へとまた脚を踏み入れてゆく。
こいつ頭おかしいのかとアイリは焦った。断頭台へ平気な顔で上がってゆく。
「遠征隊がここに入って皆 死んだんだろうがぁ!」
怒鳴りつけた直後、真っ暗な先からアイリの聞いたこともない異様な唸 り声が聞こえてエステル・ナルヒが脚を止めた。
「なんや、機嫌悪いおやすなぁ。せっかく上物を連れて来たちゅうのに」
連れて────来た?
冗談じゃないとアイリ・ライハラが後退 さり始めた寸秒背後で大扉が風を巻き上げて閉じた。
「やい! エステル・ナルヒ!謀 ったな!!!」
そう吐き捨てアイリは一気に剣 を引き抜い身構えた。
蘇らせたい奴がいるなんて作り事だった。それを阻止しようと思ってのこのこついて来るのが、鼻から狙いだったんだとアイリは自分の愚かさを後悔した。
振り向いた第6騎士が忍び笑いを漏らして騎士団長に告げた。
「くくくくっ、謀 った? そないな事あらしまへん。ただ────」
「騎士団長殿────冥府に行ってこの人を連れ戻して来てほしいんどすぇ」
そう告げた直後、一陣の旋風 が吹き荒れアイリ・ライハラは顔を剣 握る腕で庇 った刹那 エステル・ナルヒが息を呑んだのが聞こえた。
ゆっくりと葡萄の蔦 這い回る顔がずり落ちて頭蓋骨の後ろ半分から中身が零れだし女騎士が両膝 を床について前のめりに倒れた。
暗いから見えなかったとアイリは思いこもうとしていた。
速さ誇る自分を遥かに上回る化け物などを認めるわけにはゆかなかった。
これまで倒した魔物はいずれも鈍重で余裕で動きを見切る事ができた。
いきなり前へ構える剣 が激しく揺れて大音響を放ち家一軒分もある火花がアイリの左右に広がると唯一の武器が真っ赤に焼けて途中から切れ落ち大理石の床にぶつかり甲高い音を広げた。
やべぇ! 風すら巻き上げずに来やがった!?
19歳になったばかりの中身少女のまんまの宮廷騎士団長は半分になった剣 をそれでも捨てなかった。
「苦悩の河 をまた見るのは──ゴメンだぜぇ────」
速すぎるし、相手は暗闇で自在に動きまわれる。振り向いて大扉を開こうとした瞬間に背中を抉 られる予感があった。そう考えた寸秒、構えた半身の剣 がまた激しく揺れ耳障りな甲高い音を放ち広がる火花が周囲を照らしだした。
手元近くまで焼け落ち、刃 を失った剣 をアイリ・ライハラはそれでも手放さなかった。
別段、教会から預かった武具を捨てるなど騎士道に反するなんて騎士道馬鹿のヘルカ・ホスティラじゃないんだからとアイリが思ったのと同時に背後の大扉の向こうから小さなくしゃみが聞こえた。
アイリ・ライハラは片唇を吊り上げ闇を睨 みつけたまま、大声で怒鳴った。
「ヘルカぁ! ヘルカ・ホスティラ!! 脳筋女ぁ!!! ここだぁ!!!!」
途端に厚い扉の向こうから喚 き激しく殴りつける音が聞こえ始めてアイリ・ライハラは勇気を奮い起こした。
アイリ・ライハラはその大きさに唖然としたのではなかった。
このような大きすぎる扉を必要とするものに
エステル・ナルヒがその中央に行き片手を差し上げ指を合わせ部分に押し当てた。それを見ていてアイリ・ライハラはいくらあんたが力持ちであったとしてもこれは無理だと思った。
巨大な扉が音もなく奥へ開いてゆくのでアイリは眼が点になってしまった。
その奥の
「ここに入り探索に来た皆が生きて帰らぬものとなり果てんした」
踏み出さずに暗闇を見つめる第6騎士が言った言葉にアイリは思わず
ま、まずいぞぉ──い、いけない感が半端ねぇ!
「エステル──やめておけ──火山湖のような死臭がする」
火山湖のような死臭!? エステル・ナルヒは脚を止めアイリへ振り向いた。
「おもろおすなぁ。そやけどここはもっとおもろいおあす」
ここが面白いと言ってるのかとアイリは眼が点になった。
「よりにもよってこんな場所を面白いなんて、お前ひねくれ者のイルミ・ランタサル以上のイカレたやつだな」
アイリの警告に耳もかさず第6騎士が鼻で笑い暗い方へとまた脚を踏み入れてゆく。
こいつ頭おかしいのかとアイリは焦った。断頭台へ平気な顔で上がってゆく。
「遠征隊がここに入って
怒鳴りつけた直後、真っ暗な先からアイリの聞いたこともない異様な
「なんや、機嫌悪いおやすなぁ。せっかく上物を連れて来たちゅうのに」
連れて────来た?
冗談じゃないとアイリ・ライハラが
「やい! エステル・ナルヒ!
そう吐き捨てアイリは一気に
蘇らせたい奴がいるなんて作り事だった。それを阻止しようと思ってのこのこついて来るのが、鼻から狙いだったんだとアイリは自分の愚かさを後悔した。
振り向いた第6騎士が忍び笑いを漏らして騎士団長に告げた。
「くくくくっ、
「騎士団長殿────冥府に行ってこの人を連れ戻して来てほしいんどすぇ」
そう告げた直後、一陣の
ゆっくりと葡萄の
暗いから見えなかったとアイリは思いこもうとしていた。
速さ誇る自分を遥かに上回る化け物などを認めるわけにはゆかなかった。
これまで倒した魔物はいずれも鈍重で余裕で動きを見切る事ができた。
いきなり前へ構える
やべぇ! 風すら巻き上げずに来やがった!?
19歳になったばかりの中身少女のまんまの宮廷騎士団長は半分になった
「
速すぎるし、相手は暗闇で自在に動きまわれる。振り向いて大扉を開こうとした瞬間に背中を
手元近くまで焼け落ち、
別段、教会から預かった武具を捨てるなど騎士道に反するなんて騎士道馬鹿のヘルカ・ホスティラじゃないんだからとアイリが思ったのと同時に背後の大扉の向こうから小さなくしゃみが聞こえた。
アイリ・ライハラは片唇を吊り上げ闇を
「ヘルカぁ! ヘルカ・ホスティラ!! 脳筋女ぁ!!! ここだぁ!!!!」
途端に厚い扉の向こうから