第23話 愛情と思いやり

文字数 1,642文字


 アイリ・ライハラは(ソード)投げ捨て怒鳴った。

「てめぇ! やっぱり二刀流の魔導師(ウォーロック)って本当だったんだな!!!」

 その怒り顔を(かわ)すようにクラウス・ライハラは(やっとこ)1つで視線を遮った。

 なんでそのことで娘から怒鳴られると父親は困惑しながらいいわけじみたことを口にした。

「鍛冶屋の親父(おやじ)でいいじゃないか?」

 アイリ・ライハラは聞いてないというように1度は投げ捨てた(ソード)を拾い上げ驚いた。


 親父(おやじ)(やっとこ)1つでつかんだ(やいば)(ねじ)(あめ)のようにひん曲がっていた。


「そうか、それで俺が小さい頃からやたらと剣技(けんぎ)を教え込んでいたのか────真っ赤な蹄鉄(ていてつ)投げやがって」

 積年の(うら)みを思い知らせるようにアイリが(にら)むと父がしょげ返ったのでアイリはそっぽ向きイラ・ヤルヴァに(たず)ねた。

「お前ぇ、あのユリアンッティラ公爵に育てられてよく(うら)み持たなかったなぁ」

────どうして(うら)むんです。良き父でしたよ。私が死んだと知って泣き崩れました。

 イラ・ヤルヴァのそういうところが好きだのだがとアイリは思った。

「ところでお()れを出して国民に銀眼の魔女の詳しい話を知らせるだけで本当に呪いが解けるのか?」

────ダメ元で試してみましょうよ。明日にでもウルマス国王に頼んでみて。

 アイリは(うなづ)くと壁に並べられた(ソード)を手に取りにゆき父へ振り向いた。

親父(おやじ)ちょっと聞く。なんで魔導師(ソーサラー)辞めて鍛冶屋になった? ウルマス国王も知ってる隣国ってどこの国だよ」

「それを聞くのにどうして両手に2振り(ふたふり)の剣を握るんだ娘よ(・・)────イモルキ国だよ」

「イモルキ? 東の大国じゃん。イモルキで何かやらかしてノーブルに逃げて来たのか?」



「イモルキの国王直属の魔導師(ウォーロック)である程度、地位と名声を得ていたのを他の魔導師(ウォーロック)家臣(かしん)奸計(かんけい)をはかり国王打倒の嫌疑をかけられたんだ。それでお前の母──ユリアナを連れノーブルに逃げてきたんだ」



 聞いてるぶんには真っ当な理由だとアイリは思った。

「何でノーブルで魔導師(ウォーロック)にならなかったの?」

「お前の母が身重(みおも)で先々のことを考えて普通の仕事人になった」

 くそう、とアイリは舌打ちしそうになった。親父(おやじ)は真っ当に生きようとしただけじゃん。それを何で隠してるんだよ。

「なぜそんな大事なことを黙ってたの?」

 クラウスの顔が曇ったのをアイリは見逃さなかった。

「イモルキから刺客(しかく)が向けられてくるのを恐れてユリアナにも身元を口外させないようにと。だがお前も分別のつく歳になったのでこうして打ち明けているんだ」

 ああ、もういい。父は母様(かぁさま)のことまで考えて立ち振る舞っていた。責めようがないとアイリは思った。

「まだ家に帰れない。さっき話したようにイルミ・ランタサルを護らなきゃならない。明日、国王にお触れを出すように説明してデアチに戻るよ」

 いまや列強の1国となったノーブルのイルミ王妃(おうひ)に頼んだら動いてくれるだろうかとアイリは思った。



 父と母を追い立てた東の大国イモルキを転覆させ奸計(かんけい)はかった連中を根絶やしにする。



親父(おやじ)、報償金に手をつけて構わない。帰れる時が来たらここへ戻るから。それまで3人の母さんらと仲むつまじく暮らしたらいい」

 そう告げアイリは父に背を向け2振り(ふたふり)(ソード)を1回転させ壁に並べられている(ソード)の列に戻し鍛治場を後にした。

 作業場から母屋(おもや)に戻るとアガータ、パラメラ、スティナの3人が居間に待っていた。

「父さんと仕事の段取りはできて?」

 アガータがそう(たず)ねた。

「むり、無理だよ。あんなに1ヵ月頑張ってもこなしきれない。親父(おやじ)、体調戻せなかったら廃業だ。それが嫌だったら細々とでも仕事をやるしかないよ。母さん達はどうさせたいの?」

 そう尋ねると3人の妻は破顔した。

「クラウスのさせたいように────さあ、アイリ(みんな)で晩御飯にしましょう」

 そうパラメラが告げソファから立ち上がった。

 アイリは半身振り向いてふらふらとついてきたイラ・ヤルヴァに言い切った。

「お前、残念だけど飯食えねぇんだよな」



「大人しく指くわえて見てな」



 半堕天使が恨めしそうな面もちでアイリ・ライハラに中指立ててみせた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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