第12話 カーニバルだよ

文字数 1,736文字

 だ、ダメだこいつら────!

 小娘1人の奸計(かんけい)になし崩しになる配下だった騎士らの不甲斐なさをデアチ国の元の元老院の長──サロモン・ラリ・サルコマーは顔を引き()らせ後退(あとず)さろうと片足を動かした。

 それを気づいたとばかりに振り向いた小娘の国ノーブル国の家臣(かしん)だったヴィルホ・カンニストに手をつかまれ顔を強ばらせた。

貴方(あなた)だけ逃げようなど見過ごせませんな」

 抱き込んだ矮小(わいしょう)国の家来が責め立てるは、(おのれ)謀叛(むほん)露呈(ろてい)し責め苦を受けていた時に何の手助けもしなかったという(うら)(つら)み。

 そんなものより──もだ!

 あの小娘が手にする黒の騎士の大剣(クレイモア)(わし)はあれに(つらぬ)かれたのだぞ!

 手を振り解こうとする老獪(ろうかい)にカンニストがしがみつき絡まるように倒れこんだ。



 その真横に紫の甲冑(アーマー)を着た姉妹相似(そうじ)の女騎士が倒れ込み地面にぶつけた(ソード)刃口(ポイント)がサルコマーの左耳を切り裂き彼は目を丸くした。



 顔を真っ赤にし小鼻膨らませ激しく息をするマカイのシーデが1度上げた足を急激に振り下ろし跳び起きた。

 元の元老院の長が顔を起こすと小娘が(おのれ)の身長よりも長い大剣(クレイモア)を両手で左右に振り回し構え上げた。

 く、くそうランタサルの騎士の中にあんな強者(つわもの)がいたのなら、小細工せずに最初からノーブル国へ多量の兵を攻め込ませたのに、と老人らしくこだわって()やんだ。

 何であんな小柄な娘が歴戦の黒騎士やマカイ姉妹と対等以上に渡り合えるのだ!?

 彼は闘技場(アリーナ)の高見座で目にしたものをまざまざと思いだした。風もないのに踊り上がった小娘の群青の髪。その端々(はしばし)から放電が広がりだしサルコマーは唖然となった。

 (そば)の怖じ気づいた宮廷魔術師が叫ぶように言っていた。

 こいつ自身が雷竜──ノッチス・ルッチス・ベネトス────天界の眷族(けんぞく)なのよ!

 テレーゼ・マカイの放つ叫び声の(やいば)長剣(ロングソード)()らし小娘が鼻を鳴らし双子姉妹の片割れを(なじ)った。

「ふん! 死んでなおそんなつまんない奴にィ従うなんてお前────アホウだなぁ!」

 大したことも言われてないのにテレーゼ・マカイはカッとなった。

「きさまァ! (われ)愚弄(ぐろう)したな!」


 それを目にして、元の元老院長はますます手駒の騎士に勝ち目がないと思い知りこの場から一刻も早く逃げなくてはまた刺し(つらぬ)かれると足にしがみつくノーブル国の男を何度も蹴りつけた。


 このハデスの地では生前の悪行により責め苦を負い死んでも復活し何度も苦しまなければならない。

 サロモン・ラリ・サルコマーはテレーゼ・マカイと小娘の(やいば)弾きあう光景を目に臓腑(ぞうふ)を切り裂かれた激痛を思いだした。

 嫌だ! あんな痛みは2度と味わいたくない!

 ランタサル家の家臣(かしん)だった男の顔を蹴りつけた寸秒、跳ばされた双子の妹がサロモン・ラリ・サルコマーの上に倒れ込んだ。

 その甲冑(アーマー)を着た騎士の重みに元のデアチ国の要職者は胃が飛びだそうになり騎士を(なじ)った。

「な、何をしておるかぁ!? 不甲斐ない! あんな小娘にいいようにされおって!」

 マカイの妹が額に青筋を浮かべた顔を振り向けた。

 元の元老院長を見つめ下唇を噛みしめた瞳震わせる女騎士が小娘へと顔を振り戻し跳び上がり怨敵(おんてき)へと駆け出した。

 テレーゼ・マカイは大柄の黒の騎士ツヴァイクですら手に余る大剣(クレイモア)を両手保持とはいえ短刀のように易々(やすやす)と振りまわす小娘の力量を見誤っていた。





 (ソード)の大きさは振りまわすのに屈強な筋力を必要としない。

 腕の柔らかさと太刀筋(たちすじ)を見誤らなければ加速させた大剣(クレイモア)を凄まじい速さで操り続けることができる。

 止める時は必ずしも頭上に構え上げなくても、脚を素早く交差させ身体をスピンさせれば長剣(ロングソード)を急激に加速させられる。

 幼少の時から鍛冶職人の父の打つ武具で遊んでいたアイリ・ライハラにとって自分の身の丈の倍近い大剣(クレイモア)でも木の枝のように振り回せる。

 だけど終わりそうにない(つば)競り合いに少女は眉根をしかめた。

 何度はね飛ばしても向かってくるマカイのなんてろ(・・・・)の片割れが(ソード)を振り回して襲いかかる。

 その近くに倒れている頭の(つぶ)れたもう1人の女騎士が地面に手をついて上半身を起こし始め前に垂れ下がったソバージュの金髪の間から見えたその顔に少女はギョッとなった。


 音を立て盛り上がる顔が再生して両目がぐるんと回り込むとアイリ・ライハラを(にら)んだ。



「ひぇぇえ!!!」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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