第19話 足手まとい
文字数 1,602文字
87階層の
「毒の棘にやられた奴はいないか?」
アイリ・ライハラが労いを込めて声をかけると名々が大丈夫だと返事をした。
「振り回す尾に苦戦したな」
あぐらをかいて腰を下ろしたヘルカ・ホスティラが額の汗を拭ってアイリに言った。
「怪我人が出なくて何よりだよ」
本心からだった。騎士らに疲れが溜まっていた。頑強なヘルカ・ホスティラが座り込むほどだとアイリは思った。イルミ・ランタサルになし崩し的に迷宮探査を命じられ来てみたら87階層まで下りていた。それでも顔に出た疲れは誤魔化し様がなく無理強いもここまでかとアイリは思った。
アイリは先折れの
「お前らここでちょっと待ってろ」
「騎士団長! どこに行かれるのですか!?」
1人の騎士が問いかけるとアイリは
「ちょっと100階層まで行ってくる」
「ええっ!?」
騎士数名が声を裏返させた。
13階層の半分には手強い魔物がいるというのにアイリ・ライハラが気軽に言ってる様に聞こえ騎士らが動揺した。
「アイリ! 何を馬鹿なことを言ってる!?」
立ち上がったヘルカ・ホスティラに大声で言われアイリは
「これ以上、
参謀長は絶句した。
「お前らここで待ってろって言っただろう」
半身振り向いて眉根しかめるアイリは言い放った。
「俺達、騎士団、どこまでもライハラ騎士団長について行きます」
先頭にいる1人の騎士が力強くアイリに訴えた。
「あぁ、やめておけ。99階層にタラスコンよりも大きなとんでもなく
「アイリ! その魔物ってなんだ!?」
ヘルカに強く問われアイリは口ごもったすえ別れ言葉を口にした。
「じゃあな」
歩き去ろうとするアイリ・ライハラをヘルカ・ホスティラが早足で追い抜いた。
「へ、ヘルカ! お前らも!」
アイリは追い抜いた参謀長と後に続く騎士らに眼を
「
立ち止まったヘルカにアイリはぶつかった。
「
ヘルカに両肩をつかまれ激しく揺すられたアイリはろれつが回らなかった。
「さ、さ、らままんだぁぁだよよよ──ええい!
アイリの開き直りにヘルカが念押しした。
「アイリ、
「半分は焼かれて半分は喰われるわ!」
カッと眼を見開いてアイリが言い切った。
「俺達、ここまで来て強くなりました!」
騎士らが声を揃え騎士団長に訴えた。
「軽く見やがって! お前ら
「アイリ、お前1人なら倒せるのか?」
アイリ・ライハラは
「知らん。倒したの親父だから」
ヘルカ・ホスティラと騎士らは拍子抜けした。しかし鍛冶職人のクラウス・ライハラの圧倒的な力量、その強さの元に育ったアイリが
「アイリ、陽動はどうだ?」
真顔のヘルカを見つめアイリは
「ようどう? よう、どうする?」
ヘルカが
「アイリ──!」
「足手まといとは言わない。のびのびと戦わせて欲しいだけだよ。仲間が死ぬのを見たら頭に血が登る」
ヘルカ・ホスティラはアイリを抱きしめた。アイリは逃れようとじたばたと
「放せ! ヘルカ! 1人で行くんだから!」
「貴君1人で行かせるものか。我らはチーム。1人の危険は全員のもの」
「あ────もう! わかったよ」
やっとヘルカから開放されたアイリは地面に
「ぜえぜえ、好きにしな。お前ら死にそうになっても助けないからな」