第5話 前触れ
文字数 1,661文字
デアチ国を起ちイモルキを目指すにはノーブル国よりも遠く馬を飛ばしても7日以上かかる。
そんなに酷使すると馬が保たずアイリ達は
デアチ国が兵を向けるにしても
「アイリ殿、お父上はもしや
ミカエル・プリンシラ──リディリィ・リオガ王立騎士団4位の男が
「
「剣士!?
ああ、そうだ。魔術使いが
「酒と女にだらしなくて二日酔いで仕事せずに昼間まで寝てるやつだぞ。そんなに名の通ったやつじゃねぇ」
アイリがそう言い捨てるとテレーゼ・マカイが食いついた。
「
耳にした瞬間、アイリは声を荒げた。
「あぁ!? 阿呆なぁ! 焼けた
「アイリ、あなた方は親子して焼けた
少女はテレーゼの方へ振り向き片手で前髪をたくしあげ額の生え際を見せた。そこに細い傷痕があった。
「痛いだけじゃねぇぞ。すげぇ熱いからな」
マカイの妹が鞍から落ちそうなほどどん引きした。
「だから神速を手に入れたのじゃよ」
ノッチに言われアイリはスマし顔になった。それを見てテレーゼはまんざらでもないと思った。
「テレーゼ、お前も姉から色々叩き込まれた口じゃないのか」
アイリに聞かれ双子の妹は言葉に詰まった。
叩き込まれた──そんな生易しい
それをアイリ・ライハラは1撃で終わらせた。
殺されたとはいえ怨みはなかった。
胸がすく思いをさせられた。
姉以外の剣士が意識に入り込んできた。
その
こんな楽しみなイヴェントはなかなかない。
「なんだよテレーゼ?」
「いえ、むふふふ」
「お前、こわいぃ!」
アイリが身を逃がすと思わぬことをテレーゼ・マカイが言った。
「アイリ殿、イモルキには紅い3連火というかなりの手練れがいると聞きます。用心して下さい」
紅い3連火──聞いたことがある。今回倒す騎士らにその通り名はなかった。だが手練れどころではない。武国デアチ国の第2騎士ヴォルフ・ツヴァイクを上回る
ふん、知れたこと。
どのように強かろうと神の
なぜ、父は追い立てられたのか。
それを突き止めるのも今回の意趣返しのもう一つの目的だった。
アイリが馬を
「ミカエル、馬を落ち着かせたら昼休みにしよう。
「了解です騎士団長」
半時、馬の息を整え丘の
まだデアチの領土なのでイモルキの干渉はなかったが、用心にこしたことはなかった。
関わってくるのは騎兵とは限らない。野盗の徒党など
丘の上で火を起こして休めば遠くからも目立ってしまう。だが1人丘の上で座って番をすれば目立たなかった。
一行の中で1番若いアイリが率先して見張りをするのは遠目が利くという理由もあった。
遠くを見つめ考えるはイモルキでの父親のことだった。物心ついた頃からアイリには父は昔の話をしたがらない。
それをここ数日、つとつとと考えるのは話したがらない理由だった。あの国から追い立てられただけじゃない。
何か隠し事があるとアイリ・ライハラは気づき始めていた。