第2話 災厄の源
文字数 1,844文字
眼を回し椅子から滑り落ちたアイリ・ライハラの後頭部をイルミ・ランタサルは畳 んだ扇子の親骨でパンと叩 いた。
「何やってるのアイリ! ちゃんと水晶玉を覗 いてないとだめじゃない」
眼を回しながらアイリは占い師を指さして喚 いた。
「だって──この婆さん──水晶玉に────渦巻き出しやがって────」
言われた占い師ロザリーが怒った。
「失敬な! 誰が婆さんだと!? お前さんの背負うそのものが映し出されておるのじゃ!」
床に座り込んだアイリの頭を押さえて王妃 が水晶玉を覗 き込んだ。イルミは一瞬くらっときてアイリの頭にしがみついた。黒と灰色の渦が奥へおくへと沈み込むように際限なく回っていた。
「わ、私 にも──う、渦しか見えませんことよ────」
王妃 にも言われ占い師は水晶玉を覗 き込んだ。
「ひぃいい」
占い師は眼を回し丸机にしがみついた。
「見てみろ! こいつだって眼回してんじゃん!」
アイリに指摘され、占い師はベールをめくって言い返した。
「お、お前さんの運命がぁ見えておるのじゃ!」
ジプシーのような厚化粧のおばさんにまくしたてられアイリ・ライハラは意地になった。
「でたらめばかり言いやがって──やいてめぇ! このガラス玉かち割るぞ!」
両手で水晶玉をつかみ上げ占い師ロザリーは後退 さった。
「この罰当 たりめ! そんな生き様だから底なしの渦に呑み込まれるのだ!」
アイリ・ライハラは剣 のハンドルに手をかけ立ち上がろうとするのをイルミ・ランタサルが両肩に手をかけて押し止め占い師ロザリーに問うた。
「渦に巻き込まれるとは不吉──アイリの身に不幸があると仰 るか」
占い師ロザリーは右肩の上に水晶玉を押し上げじたばたするアイリという騎士を見下ろして恐ろしいことを告げた。
「このものが渦の中心──そのものじゃ。」
言い切られてアイリは口をあんぐりと開けて占い師ロザリーの顔を見つめているとイルミ・ランタサルが尋 ねた。
「アイリ・ライハラが厄 の元だとは信じられません。呪いをかけられてるとか──」
呪いをかけられてる? アイリ・ライハラは思い当たる節があり王妃 へ助けを求めるように振り向いて呟 いた。
「あぁ!」
「あっ、てなによ!? なにやらかしたのアイリ!?」
イルミはアイリの肩をつかんで激しく揺さぶった。
「い、イルブイ国の兵士らが国境に攻めてぇええ、きた時に──く、くそう。あぁぁ、あの裏 の魔女のキルシめぇええ! だ、大地を裂き溶岩を噴き出させぇええ────」
ろれつの回らない騎士団長をイルミはまだ揺さぶり続け詰問 した。
「キルシは死んだと告げたではないか!」
「あぁぁ──あの魔女は死ななかったぁああ。よよよ、黄泉にいなかったからぁああ────」
イルミ・ランタサルはピンときた。愛らしいアイリ・ライハラを呪いしは裏 の魔女のキルシ。因縁の敵だった。イルミは揺するのを止めたがアイリはふらふらだった。その呆けた顔を見て、王妃 は尋 ねても知るまいと、占い師ロザリーに問いかけた。
「裏 の魔女のキルシはどこにいるんですか」
占い師ロザリーは丸机に水晶玉を戻し両手をかざし何事かを呟 き始めた。
「イルブイの西の地、未踏の山麓 の仄暗 い洞門 ──」
水晶玉の中で頭に包帯を巻いた少女が仰ぎ見て占い師ロザリーと視線が絡んだ一閃 、占いの具に罅 が走り像がバラバラに砕けた。
驚いたのは占い師ロザリーだけでなかった。馬を走らせて3日以上かかる遠地からさえ影を落とすとイルミ・ランタサルは顔を強ばらせた。イズイ大陸1と忌 み嫌われる魔女を侮 っていた。噴火程度で命落とすわけがなかった。占い師ロザリーが厄 の元と言い切ったアイリ・ライハラや周囲にまだ影響が出ているわけではないが、猶予はないのかもしれない。
話しの成り行きに困惑げなアイリが立ち上がると、イルミ・ランタサルは丸机に割れた水晶玉代も込めて余分な金貨を置くと、占い師ロザリーにありがとうと告げるなりアイリの手を引いて店を出た。
「い、イルミ──大丈夫だよ。キルシはものすごく遠くにいるんだし──」
それに応えずにイルミ・ランタサルは急ぎ足で裏通りから出ると、その強張った面もちにざわめき出した護衛の騎士らを尻目にアイリを引っ張りつれ馬車 に乗り込み城へと告げ自 らでドアを閉じた。
「いいですかアイリ! アーウェルサ・パイトニサムを放置しておけば、あなたの厄 のみならず民 の災厄、亡国の成れの果てが待ち受けているんです」
アイリ・ライハラは王妃 の勢いに気圧 された。
「魔女成敗に軍を出しましょう!」
「何やってるのアイリ! ちゃんと水晶玉を
眼を回しながらアイリは占い師を指さして
「だって──この婆さん──水晶玉に────渦巻き出しやがって────」
言われた占い師ロザリーが怒った。
「失敬な! 誰が婆さんだと!? お前さんの背負うそのものが映し出されておるのじゃ!」
床に座り込んだアイリの頭を押さえて
「わ、
「ひぃいい」
占い師は眼を回し丸机にしがみついた。
「見てみろ! こいつだって眼回してんじゃん!」
アイリに指摘され、占い師はベールをめくって言い返した。
「お、お前さんの運命がぁ見えておるのじゃ!」
ジプシーのような厚化粧のおばさんにまくしたてられアイリ・ライハラは意地になった。
「でたらめばかり言いやがって──やいてめぇ! このガラス玉かち割るぞ!」
両手で水晶玉をつかみ上げ占い師ロザリーは
「この
アイリ・ライハラは
「渦に巻き込まれるとは不吉──アイリの身に不幸があると
占い師ロザリーは右肩の上に水晶玉を押し上げじたばたするアイリという騎士を見下ろして恐ろしいことを告げた。
「このものが渦の中心──そのものじゃ。」
言い切られてアイリは口をあんぐりと開けて占い師ロザリーの顔を見つめているとイルミ・ランタサルが
「アイリ・ライハラが
呪いをかけられてる? アイリ・ライハラは思い当たる節があり
「あぁ!」
「あっ、てなによ!? なにやらかしたのアイリ!?」
イルミはアイリの肩をつかんで激しく揺さぶった。
「い、イルブイ国の兵士らが国境に攻めてぇええ、きた時に──く、くそう。あぁぁ、あの
ろれつの回らない騎士団長をイルミはまだ揺さぶり続け
「キルシは死んだと告げたではないか!」
「あぁぁ──あの魔女は死ななかったぁああ。よよよ、黄泉にいなかったからぁああ────」
イルミ・ランタサルはピンときた。愛らしいアイリ・ライハラを呪いしは
「
占い師ロザリーは丸机に水晶玉を戻し両手をかざし何事かを
「イルブイの西の地、未踏の
水晶玉の中で頭に包帯を巻いた少女が仰ぎ見て占い師ロザリーと視線が絡んだ
驚いたのは占い師ロザリーだけでなかった。馬を走らせて3日以上かかる遠地からさえ影を落とすとイルミ・ランタサルは顔を強ばらせた。イズイ大陸1と
話しの成り行きに困惑げなアイリが立ち上がると、イルミ・ランタサルは丸机に割れた水晶玉代も込めて余分な金貨を置くと、占い師ロザリーにありがとうと告げるなりアイリの手を引いて店を出た。
「い、イルミ──大丈夫だよ。キルシはものすごく遠くにいるんだし──」
それに応えずにイルミ・ランタサルは急ぎ足で裏通りから出ると、その強張った面もちにざわめき出した護衛の騎士らを尻目にアイリを引っ張りつれ
「いいですかアイリ! アーウェルサ・パイトニサムを放置しておけば、あなたの
アイリ・ライハラは
「魔女成敗に軍を出しましょう!」